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webadm | 投稿日時: 2009-10-6 15:37 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
【77】ナイキスト−シャノンのサンプリング定理 さていよいよ上巻最後の問題にたどり着いた。ふう、長かった。二年ぐらいかかったろうか、途中2回半年ほどアルバイトに精を出すために休んだから続けてやれば1年ぐらいで終わったかもしれない。休むことは知識を熟成するための肥やしにもなったけどね。
小学生の時に自宅でアサガオとかを栽培したことがあって、最初は種を撒いても一日じゃなにも変わらないのに気づいてかなりモチベーションが下がったけど、毎日継続して水をやったり気にかけたりしていると夏の初めにはつぼみが出来て、いつ咲くのかいつ咲くのかと毎日辛抱していたらある朝知らない間に紫色の大輪の花が咲いていて感動した。その後花は萎れたけど、今度は種が出来て、来年また植えて咲かせる楽しみが出来た。そう一日じゃちょっとじゃ結果が出ないことを知った。感動させる大仕事をなし遂げるにはもっと長い期間、もしくは一生涯じゃすまないぐらいの年月がかかるってこともあるって理解できるようになった。それから辛抱強くなったと思う。 それから遠くの学校に寮住み込みで勉強しにいった時、昔姉が庭に植えたスイセンがそのまま土の中に球根のまま放置されているのを発見して、株分けして植え直してあげたところ、春先に芽が出てきてつぼみを付けるまでに育った。けれども一向に咲く気配が見えない。いつ咲くのだろう、春休みが終わったらまた学校の寮に戻らないといけないので花を見ることはできないかも。とがっかりしていたところ、出かける朝にスイセンの花が全部咲いていると母が教えてくれた、まるでこの日の朝家を離れるのを知っていて送迎してくれているように見えた。花はちっともさぼったりしていない。ひとときも休まず準備する努力をするから美しい花を咲かせることができる。人もそうじゃないかな。 話をもとに戻そう。 問題文は 「帯域制限された連続波形y(t)を離散的な値の集合で表現できることを示せ。」 という簡単な一文であるが、これが本書の著者が用意した本章というか本書の最後の問題である。これはどちらかというと電気回路理論の範疇ではなく、ディジタル信号処理理論の範疇なのだが、もはやそういう古い枠組みは古い時代に勝手に線引きされたものなので、もともとは自然科学に境界線など存在しないのだ。そういう意味で本書の著者が読者に求めているものは遙かに高い。いろいろな時代に色々な国や場所で発展した数学や工学、科学、物理学、化学、生物学、地学などありとあらゆるものは皆どっかでつながるのである。 話をまた元に戻そう。 非常に短い問題文だけど、既にディジタル信号処理理論を少しでも囓った人ならその意味することは一目瞭然なのだが、電気回路を1年囓っただけで、著者が意図している解答を出すのは難しいかもしれない。それでも著者はこの問題を読者に問いたいのだ。そして先へ進んでいって欲しいのだ。 題意に答えるには以下を証明する必要がある ・帯域制限された時間軸領域の連続信号がその周波数スペクトルを保存する形で離散的な数列にサンプリングできること ・上記サンプリング数列から元の帯域制限された連続信号が復元できること この2つはナイキストによって予想され、後にシャノンが数学的に証明したナイキスト−シャノンのサンプリング定理そのものである。 さてこれからその証明を追体験することにする。 まず最初に問題文の中に出てくる用語の意味を知っておかなければならない。 「帯域制限された連続波形」とは何か? Fourier変換を学んだ今なら帯域という意味は周波数領域でスペクトルが占有する幅を意味するといえばわかるかもしれない。しかしFourierがFourier級数を発見してからしばらくはその収束条件や積分可条件、極限値などの手付かずだった解析学の問題に飛び火してしばらくそれらの問題が解決するまでは混沌とした歴史が続いた。それらの混濁の時代が終わり宇宙の晴れ上がりのような時代になってようやくFourier級数やFourier変換を安心して使えるようになった。それからようやくFourier変換の応用が急拡大したわけである。 そのとき時代はすでにアナログ変調による無線通信などの技術が開発されてそれまで多重化できなかった電話回線の通信路がちょうどケーブルTVのように一本の同軸ケーブルで複数の会話を通すことが可能になっていた。そこで問題になったのは、一本の回線になるべくたくさんの会話を歪みなく通すにはどうすればよいか?という点である。 AMラジオ放送は互いの占有帯域が重ならないようにラジオ局に対して周波数割り当てが行われている。ちょっとでも隣接すると少なからず混信をうけるからだ。経験上そういうことが確認されるが、その理由は2つの隣接する変調された信号をFourier変換をしてみるとよくわかる。 2つの隣接する基本搬送周波数の変調信号をFourier変換するとそれぞれの信号AM変調は中心にその基本搬送波の線スペクトルその両脇に側帯波とよばれる変調信号のスペクトルが占有している。従って両基本搬送波が近すぎると、互いの側帯波のスペクトルが重なりあってしまい混信が生じ再生された信号は歪むということがわかる。 これらの検討を直流電信,SSB(single side band),DSB(double side band)の変調方式についてそれぞれ検討した結果をまとめたのがナイキストで、その際にSSBはDSBに比べ半分の占有帯域で済むということを示した。それ以来初期の無線通信を使った電話伝送や衛星通信ではSSBが採用され、アマチュア無線でも占有帯域がDSBの半分で済むSSBが主流になった。同時に一本の伝送路で複数の音声信号を通すにはひとつのDSBが占有する2倍の幅の間隔をおいて帯域を割り当てればよいということも示した。これがナイキストレートと呼ばれるものである。当然ながらナイキストの時代にはまだデジタル技術はなかったし通信も直流電信(テレグラフ)が主流であった。しかしこれがデジタル化時代にも通用する重要なヒントになった。直流電信は矩形波のFourier変換からわかるように無限に広いスペクトル領域を占有するので多重化が望めないのは明らかだった。 シャノンの時代になって彼が属していたベル研究所は新しいデジタル技術であるPCM(パルス符号変調)方式の多重化通話伝送が研究されはじめていた。それまでのアナログ時代ではフィルターで帯域をカットしなければならないほど連続時間信号には数学的に無限の情報が含まれているという認識だった。しかしPCMのように一定間隔でアナログ値をデジタル符号に変換すると情報量はその符号のビット数だけになってしまう。シャノンはこのことからひとつの通信路の情報容量をはじめてbit/秒という単位を導入した。これが情報チャネル理論の草分けである理由である。シャノンの論文の目的はノイズが伴う実際の通信路で誤り無く情報を伝送可能なチャネルの情報容量を見出すというものだった。その過程で、ひとつの信号に関する情報量をどれだけはしょれるかという問いに対してサンプリング定理をそれ以前に発表されている第三者の業績を整理して完結な式と理論にまとめたのである。このことからサンプリング定理はシャノン一人の業績に帰着するものではなく、シャノンが引用したナイキストやWhittakerや、その当時しられていないが同様の理論を発表していた人に帰着すべきというのももっともである。従ってそうした考えから、単にサンプリング定理と呼ばれる傾向にある。 シャノンの貢献はナイキストのアナログの時代では情報量という概念すらなかった、ナイキスト自身はそれを信号に含まれる"inteligence"という曖昧な表現をしている。それらはFourier変換して周波数領域で見ると占有幅の広さとして現れてくる程度の認識しかできなかったのはデジタル時代以前であるからしかたあるまい。 これらのことから「帯域制限された」という意味は以下のように解釈することができる 連続時間領域の信号f(t)をFourier変換したスペクトルが以下のように既知で F(ω)=∫f(t)*exp(-jωt)dt (ω=-∞,+∞) しかもF(ω)がWより高い周波数スペクトルを含まないなら F(ω)=0 (|ω|>2πW) ということになり、元の信号x(t)は以下の形で表すことができる f(t)=(1/2π)∫F(ω)*exp(jωt)dω (ω=-2πW,+2πW) これが帯域制限された信号の定義である。 ここでnを任意の整数として t=n/2W と置き換えると f(n/2W)=(1/2π)∫F(ω)*exp(jωn/2W)dω (ω=-2πW,+2πW) と表すことができる。 左辺は帯域制限された信号のサンプル値ということになる。 F(ω)は元の帯域制限されたf(t)のFourier変換そのものであるためf(t)とF(ω)の対応は一意的に決まり、上記のサンプル値もf(t)と一致する。 さってこっからどうすんだ? シャノンの論文では先の積分式はFourier係数そのものだからということを言っているのだが... サンプリングできることは当たり前で、あとはオリジナルのスペクトル形状(まだスペクトルという概念が一般的でなかった当時のナイキストはこれを"shape"と呼んでいる)が保存されているかどうかを確かめる必要がある。それには離散数列をFourier変換して周波数領域で確かめる必要がある。 いろいろ調べるとあるにはあるが困ったことに離散時間信号処理の本のδ(n)はFourier変換や解析学などの数学書に出てくるデルタ関数とは名前も性質もことなるものである点である。 デルタ関数は δ(t)=+∞ (t=0) =0 (t≠0) ∫δ(t)dt=1 と定義されるが有名なデジタル信号処理のバイブルで出てくる似たようなδを使用する単位サンプリング列は δ(n)=1 (n=0) =0 (n≠0) というものだ。無論後者を使えば簡単なのだが、シャノンの時代にはまだそんな概念はなかったから怪しい部分である。離散時間系では時間積分ができないのでデルタ関数では都合がわるいのである。 シャノンの論文では予め帯域制限された信号を扱うという前提なので、理想低域フィルタのshapeと信号の離散時間信号スペクトルの積を逆Fourier変換すれば元の信号が歪みなく再現できるということを言っているにすぎない。 こまったな。 検索すると同じ名前の統計学の理論が数多くヒットする。大きな母集団からどれだけの割合の数を抜き取り検査(サンプリング)すると母集団全体の性質を予測できるかというもの。これも同形の概念だけど、まったく別物なので注意。 調べていくと、どうやらサンプリング定理をどのように人に説明するかはその人の納得した理解方法によって様々であることがわかる。 ベル研の資料にもサンプリング定理が手短に触れられている、その内容は論文のその部分の趣旨を忠実に要約したものであった。それ以上の深入りや詮索はせずにおまえらはさっさと暗記しろという感じ。シャノンが教えたとおり憶えろという感じだ。 それと違って近代では、シャノンが書いたのとは異なる、おそらくそれで納得できなかったり、もっと広い観点でとらえなおそうと試みた結果、様々な解釈が生まれている。 それらの中でいくつか興味深い共通点があるものは、サンプル列の周波数スペクトルがオリジナルの信号のそれとどう違うかという点を納得ゆくように数学的に説明している点。共通してFourier級数やFourier変換と重要な関係のあるポアソンの和公式(Poisson's summation formula)というのを用いている。本当はFourier変換の性質でインパルス列のFourier変換対を解いてみれば、時間領域のインパルス列は周波数領域でもインパルス列になるというそれまで学んだFourier変換の諸性質には出てこなかった驚愕の事実が明らかになるのだが、難しいのか海外の資料には変換対表にのみ結果が掲載されている。その性質を知れば、離散点なサンプル列はオリジナル信号スペクトルを周波数領域上で周期化することがFourier変換の双対性と畳み込みの性質により予測できるのだった。日本でも進歩的な学校ではFourier変換の講義の最後にこのポアソン加公式とサンプリング定理を教えている。 このサンプリング定理をどう自分の納得ゆくように解釈し理解するかがこの章の卒業課題演習のようなものであると思ってそれを自分でもやってみよう。 といいつつ既にこの問題に取り組み始めて4日が経過している。ほとんど不眠不休(夜は横になっているが頭の中では考え続けているので寝ていないことになる)で体がガタガタになって本当に寝込んでしまった。 今朝になってようやくうまくいかない原因に気づいた。 この問題の最初の試練は、サンプリングして点になってしまうとFourier変換しようにも積分値が定まらないので不可積分であるということである。そもそもリーマンの積分条件である、ほとんどの区間で連続でなければならないという条件を満たしていない。ほとんどの区間で不連続だからだ。 そうなるとまず最初にすべきことは、サンプリング後のデータを連続関数として表す必要がある。 これにはDiracのデルタ関数にご登場願うことになる。そもそもデルタ関数は物理学で点電荷や質量点を数学的に扱うために連続関数(分布)に置き換える必要から考案されたものだ。離散時間関数もサンプル点以外は0を取る関数とすればほとんどの区間で連続という条件を満たすので積分が可能になる。 最初に気づけよ(;´Д`) しかし研究すればするほど連続時間系と離散時間系の境界領域の深遠さに驚愕する。ありとあらゆる分野とつながっていそうなところである。いずれにせよ自分で一端は納得した導出方法を見つけられたとしても、将来また立ち戻ってきそうなテーマではある。 数日立ち止まってしまったがそろそろ続きを n/2Wの間隔で並ぶインパルス列を s(t)=Σδ(t-n/2W) (n=-∞,+∞) であらわすとしよう。そうするとサンプリングされた離散信号は連続時間系で表すと x(t)=f(t)s(t) =f(t)Σδ(t-n/2W) =Σf(n/2W)δ(t-n/2W) ということになる。 またこのFourier変換は X(ω)=∫x(t)*exp(-jωt)dt =∫{f(t)s(t)}*exp(-jωt)dt =(F*S)(ω) =∫F(Ω)S(ω-Ω)dΩ とf(t)とs(t)に対するFourier変換の畳み込み積分になることが容易に想像がつく。 f(t)のFourier変換はF(ω)とすると、s(t)のFourier変換はどうなるのだろう? ここが一番立ち止まった原因なのだが、最初に準備としてデルタ関数のFourier変換を知る必要がある ∫δ(t)*exp(-jωt)dt =exp(-jω*0)*∫δ(t)dt =exp(-jω*0)*1 =1 ということなる。それではデルタ関数を時間軸上でシフトした場合にはどうなるか? ∫δ(t-t0)*exp(-jωt)dt =exp(-jωt0) ということになる。これは時間軸上の関数のシフトに関するFourier変換対の公式を用いている。そうせずにτ=t-t0と積分変数変換しても ∫δ(t-t0)*exp(-jωt)dt =∫δ(τ)*exp(-jω(τ+t0))dτ =exp(-jωt0)*∫δ(τ)dτ =exp(-jωt0)*1 =exp(-jωt0) ということになる。 従ってs(t)のFourier変換は S(ω)=∫s(t)*exp(-jωt)dt =∫Σδ(t-n/2W)*exp(-jωt)dt =Σ∫δ(τ)*exp(-jω(τ+n/2W))dτ =Σ∫δ(τ)*exp(-jωτ)*exp(-jωn/2W)dτ =Σexp(-jωn/2W)∫δ(τ)*exp(-jωτ)dτ =Σexp(-jωn/2W) ということとになる。なんだこれは? 再びここで凍り付いたわけだ(;´Д`) 上のFourier変換結果を三角級数に展開すると S(ω)=Σexp(-jωn/2W) =Σ(cos(ωn/2W)-j*sin(ωn/2W)) =Σ(cos(ωn/2W)-jΣsin(ωn/2W) =Σcos(ωn/2W) (n=0,+∞) +Σcos(-ωn/2W) (n=0,+∞) -cos(0) +jΣsin(ωn/2W) (n=0,+∞) +jΣsin(-ωn/2W) (n=0,+∞) -j*sin(0) =Σcos(ωn/2W)+Σcos(ωn/2W)-1 (n=0,+∞) +jΣsin(ωn/2W)-jΣsin(ωn/2W) (n=0,+∞) =2*Σcos(ωn/2W)-1 (n=0,+∞) ということになる。これはなんなんだ? MaximaでW=1,n=0,100,ω=-5,5で近似式をプロットしてみると wxplot2d([2*(sum(cos((n*o)/2),n,0,100))-1], [o,-5,5])$ おお、なんかsinc関数ぽい(´∀` ) 今度はω=-50,50に範囲を広げてプロットしてみよう。 wxplot2d([2*(sum(cos((n*o)/2),n,0,100))-1], [o,-50,50])$ おお、インパルス列な感じ(´∀` ) ほんとのところどうなんだこれは?n=-∞,+∞にするとインパルス列に収束するのか? S(ω)=Σexp(-jωn/2W) (n=-∞,+∞) =2*Σcos(ωn/2W)-1 (n=0,+∞) =Σcos(ωn/2W) (n=-∞,+∞) =1+2Σcos(ωn/2W) (n=1,∞) は完全に偶関数のFourier級数の形をしているので、周期関数であることはまちがいない。 Σexp(-jωn/2W)がこんな三角級数展開になることは個人的には新発見である。 問題は S(ω)=Σexp(-jωn/2W) (n=-∞,+∞) =2*Σcos(ωn/2W)-1 (n=0,+∞) =Σcos(ωn/2W) (n=-∞,+∞) =1+2Σcos(ωn/2W) (n=1,∞) なる級数がインパルス列に収束するか、そしてそれはどういう式で表されるかという点である。 いよいよ核心部分に踏み込むことになる。 インパルス列はデルタ関数の総和で表すことができたが、今度はそのインパルス列のFourier変換もどうやらインパルス列になると予想される。これを証明するには、独立同分布の和が正規分布に収束するという統計学の中心極限定理(CLT:Central Limit Theorem)を用いることになる。 あちこちの文献を見ると、どうもサンプリング周期の逆数がFourier変換結果に入っているようなのだが、なんでだ? ちょっと前に書いた式の導出が怪しくなってきた、また猫味噌う(;´Д`) 一晩考えたがどうやら間違いはなさそうな気がする。 Fourier逆変換して検算してみると (1/2π)∫S(ω)*exp(jωt)dω =(1/2π)∫{Σexp(-jωn/2W)}*exp(jωt)dω =Σ(1/2π)∫exp(jω(t-n/2W))dω ここでτ=t-n/2Wと変数変換すると =Σ(1/2π)∫exp(jωτ)dω ここでデルタ関数のFourier変換対 δ(t) <=> 1 により δ(t)=(1/2π)∫exp(jωt)dω なので =Σδ(τ) =Σδ(t-n/2W) ということになるからである。 さて問題はインパルス列のFourier変換がどういったインパルス列になるかをどうやって導出するかという点である。 更によく検索で調べると、今回発見した Σcos(ωn/2W) (n=-∞,+∞) というのはディリクレ(Dirichlet)核といって、19世紀にディリクレが発見していたらしい。そういえばなんかの本で同じ波形を見た記憶が、その頃はなんの意味があるかわからなかった。 でディリクレ核は周期的に滑らかなデルタ関数に収束することが既に証明されているということもわかった。 でどうすればよいか。 一部の本では以下のFourier変換対が結果だけ示されている Σδ(t-nT) <=> (2π/T)Σδ(ω-n*(2π/T)) 求めていたのはこれなのだが、ではこれはどうやって導出するのか。 ひとつはPoisson summation formula Σf(t+nT) (n=-∞,+∞) =(1/T)ΣF(k/T)*exp(jn*(2π/T)*t) (n=-∞,+∞) ここでf(t)とF(x)はFoureir変換対 f(t) <=> F(x) である。 これを用いればすぐに Σδ(t-nT)=(1/T)Σexp(-jn*(2π/T)*t) ということがわかる。これをFourier変換すると ∫Σδ(t-nT)*exp(-jωt)dt =∫{(1/T)Σexp(-jn*(2π/T)*t)}*exp(-jωt)dt =(1/T)Σ∫exp(-jn*(2π/T)*t)*exp(-jωt)dt これは時間軸推移のFourier変換対 y(t)*exp(jω0*t) <=> F(ω-ω0) と直流1のFourier変換対 1 <=> 2πδ(ω) より 1*exp(jω0*t) <=> 2πδ(ω-ω0) であることから ∫Σδ(t-nT)*exp(-jωt)dt =(1/T)Σ∫exp(-jn*(2π/T)*t)*exp(-jωt)dt =(1/T)Σ2πδ(ω-n*(2π/T)) =(2π/T)Σδ(ω-n*(2π/T)) という結果が得られる。従って以下のFourier変換対が存在することが明らかである δ(t-nT) <=> (2π/T)Σδ(ω-n*(2π/T)) やったよママン(ノ∀`) 同じ結果を得るもうひとつの方法は、シャノンの論文でも用いられているFourier級数の性質を使う方法である、こちらの方が手順は短いがIQが低いと狐につままれたような気がしてならない。 その方法だと周期的に滑らかなデルタ関数は周期関数であるから以下のFourier級数で表すことができるという点から出発する Σδ(t-nT)=ΣCn*exp(jn*(2π/T)*t) ここでFourier係数Cnは Cn=(1/T)∫δ(t)*exp(-jn*(2π/T)*t)dt (t=-T/2,T/2) =(1/T)*exp(-jn*(2π/T)*0) =(1/T)*1 =1/T ということになり Σδ(t-nT)=Σ(1/T)*exp(jn*(2π/T)*t) (n=-∞,∞) =(1/T)Σexp(jn*(2π/T)*t) =(1/T)Σexp(-jn*(2π/T)*t) というPoisson summation formulaを用いたのと同じ結果が得られる。同じ結論を得るのにいくつもの方法がある良い例である。 さて周期インパルス関数(周期デルタ関数、Shah関数、くし型関数)のFourier変換がわかったので、いよいよサンプリングされた離散データ列のFourier変換を導くことにする。 サンプリングされた離散データ列は x(t)=f(t)s(t) =f(t)Σδ(t-nT) ここで T=1/2W で表すことができる。これのFoureir変換は X(ω)=∫x(t)*exp(-jωt)dt =∫f(t)s(t)*exp(-jωt)dt これは関数f(t),s(t)の積のFourier変換なので以下のFourier変換対 f(t)s(t) <=> (F*S)(ω) としてf(t),s(t)のそれぞれのFoureir変換F(ω),S(ω)との畳み込み積分になることが明らかである。 従って X(ω)=∫f(t)s(t)*exp(-jωt)dt =(F*S)(ω) =(1/2π)∫F(ω')S(ω-ω')dω' f(t)のFourier変換はF(ω)そのままでよいとしてインパルス列関数s(t)のFourier変換はさきほど導出した通り周波数領域でインパルス列関数になるので S(ω)=(2π/T)Σδ(ω-n*(2π/T)) これをX(ω)の式に代入すると X(ω)=(1/2π)∫F(ω')S(ω-ω')dω' =(1/2π)∫F(ω'){(2π/T)Σδ(ω-ω'-n*(2π/T))}dω' =(1/T)Σ∫F(ω')δ(ω-ω'-n*(2π/T))dω' =(1/T)ΣF(ω-n*(2π/T)) ということになる。 これは2π/Tの間隔で周期的にF(ω)のスペクトルが無限に繰り返していることを意味する。 ここで最初に与えられた帯域制限の条件(f(t)がWより大きな周波数スペクトルを持たない) F(ω)=0 (|ω|>2πW) を満たすなら、周期的なスペクトルは互いに重なり合わないので元の信号のスペクトルをそのまま保存することになる。 このためには T<1/2Wである必要がある。すなわち制限帯域周波数の2倍以上のレートで信号をサンプルする必要があることを意味する。 残るはサンプルされた離散データ列から元の信号を復元できるかという点。 以前の問題にあったような矩形周波数領域を持つ理想低域フィルタを通せば元の信号のスペクトルが通過することが明らかである。これは矩形領域のFourier逆変換とサンプルされた離散データ列との畳み込み積分に変換されることを意味する。すなわち f(t)=(x*r)(t) <=> X(ω)R(ω)=F(ω) ここで R(ω)=0 (|ω|>2πW) =1 (|ω|≦2πW) なる理想低域フィルタのスペクトル。そのFourier逆変換は r(t)=(1/2π)∫exp(jωt)dω (ω=-2πW,+2πW) =(1/2π){exp(j(2πW)t)/jt-exp(j(-2πW)t)/jt} =(1/2π){exp(j2πWt)/jt-exp(-j2πWt)/jt} =(1/2π){2*sin(2πWt)/t} =sin(2πWt)/πt 従って理想低域フィルタとサンプルされた関数スペクトルの積のFourier逆変換は f(t)=(1/2π)∫X(ω)R(ω)*exp(jωt)dω =(x*r)(t) =(1/T)Σf(n/2W)*sin(2πW(t-n/2W))/π(t-n/2W) =(1/T)Σf(n/2W)*sin(π(2Wt-n))/π(t-n/2W) T=1/2W なので f(t)=Σf(n/2W)*sin(π(2Wt-n))/π(2Wt-n) ということになり、sinc関数とサンプルデータの積の総和によって元の信号が復元されることが示される。 このような級数式はCardinal級数とよばれ古くから知られていたが、それが信号のデジタル化とその復元にかかわるものだという関係が示されたのはシャノンの時代になってからである。いろいろと歴史研究された中ではフランスの数学者であるCauchyがこのことを知っていたという説があるが、引用されているCauchyの論文には直接それに該当する記述は見あたらず謎のまま。Cauchy自身Fourier級数の収束に関して最初の論文を出しているので、あたらずとも遠からずの研究や思索はしていたと思われるが確たる証拠が無い。 ふう、数学の歴史をさかのぼって追体験するような問題だったが、とりあえず自分を納得させることは出来たので良しとしよう。まだ気になる点がいくつもあるが、それは追々。 これにて「詳解 電気回路演習 (上)」を読了。 引き続き「詳解 電気回路演習 (下)」に臨む。 |
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