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投稿者 スレッド
webadm
投稿日時: 2011-5-3 7:21
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3107
フィルタ
最近の電気回路の参考書では割愛されることの多い古典フィルタ理論だが著者は二端子対回路の延長上として伝統的に取り扱っている。

受動素子だけで構成されるアナログフィルター理論は戦前から戦後にかけて確立したものだが、その中でも定K形フィルターは今日でも電子機器内部から不要な高調波信号がコネクタから外部に漏れ出ないようにするEMIフィルターの回路要素として登場する。回路構成が単純で適切な特性の部品を使用すれば一定の効果が得られるからである。

出張中のホテルからこれを書いているので、以前紹介したM.E.VAN.VALKENBURGの回路網解析の本を持ってきていないが、そちらにはまだ新しいかった頃の古典理論を詳しく紹介している。後日また改めて読んでみることにする。

古典フィルタ理論は二端子対回路理論で出てきた映像パラメータに基づいて設計される定K形フィルタや誘導M形フィルタに代表される。それらよりも急峻な特性を持つButterworth(欧州ではWagner)やChebyshev(欧州ではTschebyschef)特性フィルターは伝達関数に基づいて設計されもはや初等の電気回路理論で扱える範疇を超える。最近では更に状態方程式に基づいた設計法が登場し、受動素子のみからなるパッシブフィルタもオペアンプを使用したアクティブフィルタもコンピュータープログラムを利用することで理論を知らなくても設計できる時代でもある。コンピュータが小型化し高性能になったためDSPによるデジタルフィルタが必要とされる分野も広がった。これらをよく理解する上にも最も古典的なフィルタ理論を知っておくことは損はない。

パッシブフィルタで高周波用途のものは後に学ぶ分布定数回路を応用したものが未だに現役である。波長が短い高周波信号では電力損失の少ないパッシブフィルタしか使えない。分布定数回路の発端は電信の時代の海底ケーブルの特性を説明するために英国のKelvin卿が考案したRCモデル(Thomsonモデル)であるが、それにインスパイアされて現在の分布定数回路の元となったLRCモデルを解析したのがHevisideでだった。その後忘れられていたが戦後Hevisideにシンパシーを感じていたのか日本の多くの研究者や技術者によって再構成され今教えられている理論が確立したといってもよい。海外ではあまり教えられることが無いのはそのためである。

P.S

ChebyshevがTchebycheff, Tchebichefと様々につづられている理由をValkenburgはその著書「Netowrk Analysis」でロシア語からドイツ語へドイツ語からフランス語へと度重なる翻訳のためであろうと述べている。Chebyschevがロシア語から英語への翻訳として最も相応しいつづりだとしている。

Chebyshevがその名前で呼ばれる特性を持つフィルタを最初に考案したと誤解する回路設計者や先生が多い。Pafuuni L.Chebyshevは電気機関車すらない蒸気機関車が全盛の時代のロシア人の数学者である。元々Chebyshev特性で特徴的な等リップル形伝達関数は、一世紀半前に蒸気機関の動力を伝える継ぎ手(リンク)の挙動を数学的に解析する際にChebyshevによって見いだした一定の多項式、今日ではChebyshev多項式と呼ばれるもののことである。
webadm
投稿日時: 2011-5-4 9:24
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3107
概説
著者は手短に天下り的に古典的フィルターの分類を説明しているが、それ以前に漠然とした疑問が邪魔をしてそのまま読み進めるわけにはいかない。

その疑問とは誰が最初に最初のフィルターを考案したのかという点。それには必然性があったのだろうかという点。

交流回路理論を学んだ際にRC直列、RL直列回路の素子の分圧周波数特性を見ると低域通過特性や広域通過特性を示すことが確かめられた。

おさらいのために以下の2つの回路について周波数ゲイン特性を導いてみよう。



左の回路について以下の関係が成り立つ

\begin{eqnarray}<br />V_1&=&\left(L s+R\right)I\\<br />V_2&=&R I\\<br />G\left(s\right)&=&\frac{V_2}{V_1}=\frac{R \cancel{I}}{\left(L s+R\right)\cancel{I}}\\<br />&=&H\frac{1}{s+H}\\<br />H&=&\frac{R}{L}\\<br />\left|G\left(j\omega\right)\right|&=&H\frac{1}{\sqrt{{\omega}^2+H^2}}<br />\end{eqnarray}

H=R/L=1とおいて周波数ゲイン特性を対数グラフにプロットすると



より低域ほど通過し高域になるほど減衰させる低域通過フィルタのように見える。なんとか対数グラフにしてそれらしく見えるけど、どこからどこまでが通過帯域なのか減衰帯域なのか判別がつかない。カーブが極めて緩やかである。

右側の回路についても同様に

\begin{eqnarray}<br />V_1&=&\left(\frac{1}{C s}+R\right)I\\<br />V_2&=&R I\\<br />G\left(s\right)&=&\frac{V_2}{V_1}=\frac{R \cancel{I}}{\left(\frac{1}{C s}+R\right)\cancel{I}}\\<br />&=&\frac{s}{\frac{1}{H}+s}\\<br />H&=&R C\\<br />\left|G\left(j\omega\right)\right|&=&H\frac{{\omega}}{\sqrt{\frac{1}{H2}+{\omega}^2}}<br />\end{eqnarray}

H=C*R=1と置いて周波数ゲイン特性をプロットすると



ということで高域通過フィルタのように見えるが、やはり通過域と減衰域の境界が不鮮明であることは否めない。

この2つの従属接続するとかLとCの定数をうまく選定することで特定の帯域を通過させる帯域通過フィルタや特定の帯域を減衰させる帯域除去フィルタとかができないだろうか?

おそらく原始フィルタ理論はこのようなところから出発したのかもしれない。

上の2つの回路には以下の不満がある

(1)もっと周波数減衰特性が急峻で通過帯域では平坦にできないか?
(2)自由に通過域と減衰域の境界周波数を設定できないか?
(3)多の回路を従属接続しても特性に影響を与えないようにできないか?

(1)は似たような緩やかな特性のフィルタを複数従属接続して減衰特性を強調すると同時に通過領域を平坦にできないか?
(2)はLとCを併用することで共振点や逆共振点(零点と極)をうまく使えないか?
(3)は(1)と(2)にも共通し二端子対回路で学んだ映像パラメータ(線形代数の線形変換の固有値と固有ベクトル)が使えないか?

そういう感じでフィルタ理論の発展を追体験していくことにしよう。

自宅に戻って古典フィルタ理論について触れている参考書を探してみたところ、以下の3つがあった。

「大学教程 電気回路(1)(第3版)」大野克朗、西哲生 共著 オーム社
「Network Analysis」by M.E.VAN VALKENBURG PRENTICE-HALL, INC.
「Einfuhüfrung in die theoretische Elektrotechnik」 Von K.Küpfmüller Seehste Auflage

最初のは現在でも増刷されているはず。都内の大型書店で購入したもの。残りはオークションで手にいれた貴重な古本。最後のはドイツの理論電気学の教科書。電気回路理論と電磁気学が織り合わさるように学んでいくドイツ流。

アインシュタインは学生時代にこの科目だけはダントツで成績優秀だったらしい、それだけに電磁気学に精通もしていたし何がそこに欠落しているか見通していたのかもしれない。

1冊目はすでに古典的な価値しかないが先人の知恵を紹介するという形で二端子対回路理論の反復パラメータや伝達パラメータを解説し、その上で古典フィルタを説明している。

日本での用語が戦前はドイツから戦後は欧米から取り入れたものが混在しているのでその点も理由を説明してくれている。ドイツの本を手にいれていてよかった。

2番目の本は戦後に書かれたもので、古典フィルタ理論の章は一端子対回路(ONE-TERMINAL-PAIR REACTIVE NETWORKS)の次の章で「TWO-TERMINAL-PAIR REACTIVE NETWORKS(FILTERS)」という名前になっていることから、元々は二端子対回路がフィルタ理論そのものであったと考えられる。

Valkenburgは歴史的なエピソードを添えることが多いので単純な疑問に答えてくれる。

3番目の本を読むと、フィルタは日本で出版されている本と違って、二端子対回路と分布定数回路の後に登場する。このことから、歴史的にこれらの理論が研究されたのが電話が発明され普及し始めた黎明期であることが想像に難くない。

電話網を分布定数回路である回線と交換機内の各種伝送回路をそれぞれ二端子対回路とするとその縦続接続とみなす方法この頃に発案されたようだ。

確かに当初の電話網はすべてアナログ方式であり、増幅や歪み補正や多重化の際に優れた所望の特性をもつフィルタが必要になることは明らかである。

電子回路ハンドブックなどを見ると詳しい解説は無いが実用的なアナログフィルタの設計公式が載っている。しかしそれを使うにはやはり理論を多少なりともかじっていないと無理だろうと思われる。

今日的にフィルタ理論というと、古典的な受動素子だけのフィルタではなく、その中心はオペアンプを使ったアクティブフィルタであったり、デジタルフィルタに移ってきている。もちろん高周波やマイクロ波の世界では未だに受動素子だけのフィルタが必要とされる。

さて最初の目標である

(1)もっと周波数減衰特性が急峻で通過帯域では平坦にできないか?

というのは当時難問であったと想像される。おそらく思考錯誤で受動素子を組み合わせた回路をひとつひとつ解析するのでは解決しそうもない。もっともそういった試行錯誤からなんらかのヒントが得られる可能性はあるが。

おそらく急峻な特性を要求されるのは複数の電話音声を多重化して伝送する際にクロストークを押さえるための低域通過フィルターが最初だったと想像される。

音声を伝送するために必要な周波数帯域は狭くてもよいので、当時開発されたSSB変調方式で複数の周波数チャネルに詰め詰めでたくさんの異なる音声を乗せて遠距離ケーブルで伝送し、復調する際に各チャネル毎に1つの音声帯域だけ通過させ隣接するチャネルの信号は取り除く。

すぐ隣の帯域には別の音声チャネルがあるので、フィルタが急峻でないとそちらの信号が混じってクロストークが発生する。

現代では電話網は末端を除いてはすべてデジタル化されているのでそれらは使われなくなったが、それ以前までははそれが主流だった。

今時SSB変調を使っているのはアマチュア無線と船舶無線ぐらいだろう。デジタル変調が情報伝送の主流になってしまった今ではしかたがないことだ。

さて受動素子だけからなる二端子対回路を複数縦続接続してフィルタを構成するとなると、増幅回路ではないのでゲインよりもロスを評価するほうがよい。これは以前に学んだ二端子対回路の伝達係数や伝搬係数と同じである。

電話の時代にも最終的には人間の耳が終端になるので、人間の感覚は信号振幅の対数に比例する(Weber-Fechnerの法則)のと見合って都合がよい。

これらは伝送量と呼ばれドイツ語のŨbertragungmaßの日本語訳らしい。Ũbertragungが伝送、maß(mass)が量というわけだ。元々は分布定数回路の伝搬定数である。

先のLR回路の定常状態での電圧伝送量は

\begin{eqnarray}<br />G\left(j\omega\right)&=&\frac{V_1\left(j\omega\right)}{V_2\left(j\omega\right)}\\<br />&=&\frac{\left(j L \omega+R\right)\cancel{I}}{R \cancel{I}}\\<br />&=&H\left(j\omega+\frac{1}{H}\right)\\<br />&=&\left|G\left(j\omega\right)\right|e^{j\angle{G\left(j\omega\right)}}\\<br />&=&\left|G\left(j\omega\right)\right|e^{j\beta}\\<br />&=&e^{\alpha}e^{j\beta}\\<br />&=&e^{\alpha+j\beta}\\<br />&=&e^{\gamma}\\<br />H&=&\frac{L}{R}\\<br />\left|G\left(j\omega\right)\right|&=&H\left(\sqrt{{\omega}^2+\frac{1}{H^2}}\right)\\<br />&=&e^{\alpha}\\<br />\gamma&=&ln G\left(j\omega\right)=\alpha+j\beta<br />\end{eqnarray}

ということになる。γのことを伝送量と呼ぶ。伝達関数を対数変換したものである。

αは減衰量(Dümpfungsmaß,attenation)でωが大きくなるにつれ大きくなることがわかる。βは位相量(Phasenmaß, phase shift)である。前者の単位はネーパー(Np,neper)で後者はラジアン(rad,radian)である。

同じ頃に米国Bell研究所では常用対数で減衰量を表すベル(B)とその10分の1のデシベル(dB)いう単位を提案している。

\begin{eqnarray}<br />{\alpha}_{db}&=&10 log_{10}\left(\frac{P_1}{P_2}\right)\\<br />\frac{P_1}{P_2}&=&\left|\frac{E_1}{E_2}\right|^2=\left|\frac{I_1}{I_2}\right|^2\\<br />{\alpha}_{db}&=&20 log_{10}\left|\frac{E_1}{E_2}\right|=20 log_{10}\left|\frac{I_1}{I_2}\right|<br />\end{eqnarray}

デシベルは常用対数なので対数変換する前との関係がわかりやすい利点がある。先の電圧比の伝送量とデシベルとの関係は

\begin{eqnarray}<br />\alpha&=&ln\left|\frac{V_1}{V_2}\right|\\<br />\left|\frac{V_1}{V_2}\right|&=&e^{\alpha}=10^{\frac{{\alpha}_{db}}{20}}\\<br />{\alpha}_{db}&=&20 log_{10}\left|\frac{V_1}{V_2}\right|=20 log_{10}e^{\alpha}\\<br />\begin{array}\left|\frac{V_1}{V_2}\right| & \alpha & \alpha_{db}\\<br />1 & 0 & 0 \\<br />10 & ln{10} & 20 \\<br />100 & ln{100} & 40 \end{array}\\<br />1Np&=&\frac{20}{ln{10}}\,dB\\<br />&=&8.686\,dB<br />\end{eqnarray}

という関係がある。自然対数と常用対数は必ず試験にでるので忘れないようにしよう。といってもすぐ忘れる(;´Д`)

著者はこの次にいきなり定Kフィルタを登場させている。先に挙げた参考書では二端子対回路の映像パラメータが登場する。すでに学んでしまったのだが本当はフィルタ理論の初歩で学ぶべきことだったのだ。

ここまで来ると先の2つの回路の周波数ゲイン特性の意味がようやく見えて来る。よく見ると2つの直線の合成になっていることに気づく。H=1として減衰量を対数グラフでプロットすると上の式からも明らかである。



従って傾きを急峻にするには同じような回路を複数縦続接続すれば減衰量は足し算で効いてくるので傾きも上向くはずであるということも予想がつく。

傾きが変化する点はどうやら1/H^2によって決まるらしいことがわかる。Hを下げればグラフは右にシフトしそうである。H=0.1としてプロットし直すと



おお、確かに右にシフトした。しかし傾きも影響を受けているぽい。これはフィルタ理論で言うところの周波数変換である。

この回路のRの代わりにCを使うLC直列回路なら高域でさらに減衰量を増やすことができるとすぐに思いつく。しかし難点もあるLC直列回路には共振点が伴う。零点が存在することになる。しかし現実の回路では必ず回路に損失(抵抗)を伴うのでひとつ研究してみる価値はある。



左の回路の伝送量を導くと

\begin{eqnarray}<br />\frac{V_1\left(s\right)}{V_2\left(s\right)}&=&\frac{\cancel{I}\left(s L+\frac{1}{s C}\right)}{\cancel{I}\frac{1}{s C}}\\<br />&=&\left(L C s ^2+1)\\<br />&=&\left(H s^2+1\right)\\<br />H&=&LC\\<br />ln\frac{V_1\left(j\omega\right)}{V_2\left(j\omega\right)}&=&\left(H \left(j\omega\right)^2+1\right)\\<br />&=&ln\left(1-H{\omega}^2\right)\\<br />&=&ln\left|1-H{\omega}^2\right|+j\angle{\left(1-H{\omega}^2 \right)}\\<br />&=&\alpha+j\beta\\<br />\alpha&=&ln\left|1-H{\omega}^2\right|\\<br />\beta&=&\angle{\left(1-H{\omega}^2\right)}<br />\end{eqnarray}

H=1として減衰量を対数グラフにプロットすると



これも低域通過フィルタの特性を有している。零点の部分は減衰ではなくゲインが大きくなることを意味している。

今日対数グラフのプロットは計算機で簡単にできるけど、計算機も電卓もなかった昔の人は式と対数表を使って一つ一つプロットしていったと思われる。

グラフを描かずとも式を見ればだいたいの傾向が見通せるようでなければならない。対数に変換することでそれも容易くなるのは先人の知恵である。

他にもいろいろそうした知恵が残されているが計算が楽になった現代では有り難みが薄いと軽んじてしまう傾向がある。

もうひとつ古典フィルタ理論に触れている電気回路の本が自宅にあるのを発見した。

「電気回路」木戸正夫、山田嘉夫 共著 朝倉書店

割と薄い本だが電気回路の要点をすべてカバーしている。フィルタは4端子回路の章で「分布定数回路の4端子回路網としての取り扱い」という節の後に登場するドイツ流である。

分布定数回路は4端子回路として扱う場合だけを説明し、フィルタ理論につなげている。多くの電気回路の本は分布定数回路はずっと後にどっさりと教えるという重い扱いをしているので対照的だ。

電気回路の初歩という意味では4端子回路として見るだけでも十分難易度が高いのではないかと思える。

ここで動作減衰量(Betriebsdämpfung)というのが先のドイツの本や「電気回路(1)」で登場する。二端子対回路がLCだけから成る場合、回路の中では電力は消費されず、出力端に接続された負荷の抵抗成分によって消費され、入力端からはその電力だけが供給される形になる。

定K形フィルタや誘導M形フィルタでは映像パラメータが用いられていたが、その後登場した最初からLCラダー回路として合成されることを前提としたButterworth(Wagner)特性やTchebycheff(Chebyshev)特性のフィルタ評価には動作減衰量が用いられるようになったためである。

従ってそれらの近代的な(すでに古典であるが)フィルタを扱わない本では動作減衰量も登場しないということになる。

著者は概説で上記のことを触れるだけで、映像インピーダンスで終端することを前提とした古典フィルタの定K形と誘導M形を解説するにとどまっているため、動作減衰量そのものは必要なく割愛されている。

「電気回路(1)」では逆に定K形や誘導M形を割愛し、より近代的なButterworthとTchebycheffだけに絞っている。そのため動作減衰量の解説が登場する。残念ながらこれが紙面の都合上か結論だけで実にわかりにくい。後のフィルタ特性評価式とのつながりがわからない。

検索してももはや古典的すぎて用語の定義以外はそれが使用された文書や論文しか見当たらない。なおさら理解してやろうという思いが募るのは天の邪鬼な性格のなせる技かもしれない。

結局原理的な解説を載せているのは先に紹介したドイツの理論電気学の教科書である。たぶん今も同じ題名の本の改訂版が増刷されていると思われるが内容が昔とは変わっているかもしれない。

以下の回路で考えてみよう。



供給される電力が最大となるのは、負荷インピーダンスが電源の出力インピーダンスと複素共役となる場合であるのは供給電力最大の法則から自明である。実を言うとすっかり忘れていたのは内緒だ。その条件で以下の関係が成り立つ。

どうすんだこれ(;´Д`)

ドイツ語(Betriebsdämpfung)で検索したら本家だけあって書籍やら講義資料とかたくさんある。でも書いてある人や目的によって導き方が違うのがなんともわかりずらい。

どうやらドイツ語のNachrichtentechnikというのと関係するみたいだけど、日本語訳だと通信工学だけど、ちょっと日本で教えられている通信工学とドイツのそれが同じとは限らない。

一応ドイツ語の教科書もしっかりしたのがあるようだ。ドイツの本を見るとどれも内容が半端じゃない。どの工学の本も一冊あればそれを学ぶのに必要なことは全部書いてあるという感じ。でもわかんねー(;´Д`)

ちょっとわかったことだけ書くと、入力端から供給可能な最大電力は供給電力最大の法則から

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&R_1+j X_1\\<br />P_{MAX}&=&V_1 I_1=\frac{Z_1+\overline{Z_1}}{2}\left(\frac{E}{Z_1+\overline{Z_1}}\right)^2\\<br />&=&\frac{E^2}{4 R_1}<br />\end{eqnarray}

ということになる。一方で出力端の負荷に供給される電力は

\begin{eqnarray}<br />Z_2&=&R_2+j X_2\\<br />P_2&=&V_2 I_2=V_2\frac{V_2}{\frac{Z_2+\overline{Z_2}}{2}}\\<br />&=&\frac{{V_2}^2}{R_2}\\<br />\end{eqnarray}

従って動作減衰量は

\begin{eqnarray}<br />\alpha_{B}&=&10 log_{10}\left|\frac{P_{MAX}}{P_2}\right|\\<br />&=&10 log_{10}\left|\frac{\frac{E^2}{4 R_1}}{\frac{{V_2}^2}{R_2}}\right|\\<br />&=&10 log_{10}\left|\frac{E^2}{4{V_2}^2}\frac{R_2}{R_1}\right|\\<br />&=&20 log_{10}\left|\frac{E}{2 V_2}\sqrt{\frac{R_2}{R_1}}\right|\\<br />&=&20 log_{10}\left|\frac{E}{2 V_2}\right|+20 log_{10}\sqrt{\frac{R_2}{R_1}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。とりあえず出力側は等価電圧源とかは考えなくてもよいらしい。

更に二端子対回路が対称回路の場合には入力と出力のインピーダンスは等しくなるのでZ_1=Z_2と置くと

\begin{eqnarray}<br />\alpha_{B}&=&20 log_{10}\left|\frac{E}{2 V_2}\right|<br />\end{eqnarray}

ということになる。位相遷移も含む複素数の動作伝送量を定義すると

\begin{eqnarray}<br />\theta_{B}&=&\alpha_{B}+j\beta_{B}\\<br />\alpha_{B}&=&20 log_{10}\left|\frac{E}{2 V_2}\sqrt{\frac{R_2}{R_1}}\right|\\<br />\beta_{B}&=&\angle{\frac{E}{2 V_2}\sqrt{\frac{R_2}{R_1}}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

本家ドイツの本には自然対数での定義が説明されていて混乱を招く。

\begin{eqnarray}<br />e^{2\alpha_{B}}&=&\left|\frac{P_{max}}{P_2}\right|\\<br />\alpha_{B}&=&\frac{1}{2}ln\left|\frac{P_{max}}{P_2}\right|\,Neper\\<br />&=&ln\left|\frac{E}{2 V_2}\sqrt{\frac{R_2}{R_1}}\right|\,Neper<br />\end{eqnarray}

という感じ。さてこれで動作量の話は終わりにしよう。

ここまでを最初から携帯のiモードで読み返していたら最初の方でだいぶ式の操作を間違っていたことが発覚(;´Д`)
複素数の絶対値の取り方をすっかり間違えているし。グラフも全部プロットし直した。それとパラグラフが長すぎる。こっそり修正。

人のことは言えないが検索すると減衰量に関して明らかに違和感のある誤用が目立つ。「減衰量は-60dbあります」とかである。減衰量は0以上の正の値をとるはずだが(減衰するのだから入力よりも出力は小さくなるはず)、小さいという意識がマイナス値を違和感なく誤用してしまう。電子部品の商社でさえも当社測定値として伝送回路部品の減衰量に負の値を示している。おそらく測定にゲインフェーズアナライザを使用したのだろう、ゲインで測定すれば減衰は負の値になる。ゲインと減衰量を誤用しているだけであるとすぐ気がつくが、ぱっと見違和感がある。アマチュアのオーディオアンプ制作者の記事とかにも同じ誤用が見られる。

LC回路で作るフィルタに話しを戻そう。共振点である零点は素子の定数を設定することで任意の周波数にできるのでフィルターの基本回路としては有用であることは明らかである。RLやRC回路のように素子定数を変えると傾きの鋭さも影響を受けてしまうということも無い。

右の回路の様にLとCを逆にすると高域を通過させるようになることが想像できる。ちょっとやってみよう。

\begin{eqnarray}<br />\frac{V_1\left(s\right)}{V_2\left(s\right)}&=&\frac{\cancel{I}\left(s L+\frac{1}{s C}\right)}{\cancel{I}s L}\\<br />&=&\frac{s^2 L+\frac{1}{C}}{s^2 L}\\<br />&=&\frac{s^2+\frac{1}{H}}{s^2}\\<br />H&=&LC\\<br />ln\frac{V_1\left(j\omega\right)}{V_2\left(j\omega\right)}&=&ln\frac{-{\omega}^2+\frac{1}{H}}{-{\omega}^2}\\<br />&=&ln\frac{{\omega}^2-\frac{1}{H}}{{\omega}^2}\\<br />&=&ln\left|\frac{{\omega}^2-\frac{1}{H}}{{\omega}^2}\right|+j\angle{\frac{{\omega}^2-\frac{1}{H}}{{\omega}^2}}\\<br />&=&\alpha+j\beta\\<br />\alpha&=&ln\left|\frac{{\omega}^2-\frac{1}{H}}{{\omega}^2}\right|\\<br />\beta&=&\angle{\frac{{\omega}^2-\frac{1}{H}}{{\omega}^2}}<br />\end{eqnarray}

H=L*C=1と置いて減衰量をプロットすると



といい感じである。

右の回路と左の回路を縦続接続して互いの零点を異なる周波数に移動させれば特定の周波数領域を通過させたり、阻止したりするフィルターが組めそうである。

これによってLC回路で以下の4種類のフィルターが実現できることになる。

(1)低域フィルタ(low pass filter: LPF)
(2)高域フィルタ(hight pass filter: HPF)
(3)帯域フィルタ(band pass filter: BPF)
(4)帯域除去フィルタ(band elimination filter: BEF)

(1)と(2)はすでに示した通り。

(3)の帯域フィルタを実現するには、通過帯域の上限周波数にLPFの零点を、下限周波数にHPFの零点を設定して縦続接続すればいけそうな気がする。

LPFとHPFを縦続接続した以下の回路の減衰量を導く



どーすんだこれ(;´Д`)

とりあえず厳密な解析は後回しで、先に導いた左の回路と右の回路のそれぞれの伝送量の式から全体の伝送量をざっくり合成してみよう。

\begin{eqnarray}<br />\frac{V_1\left(s\right)}{V_3\left(s\right)}&=&\left(H_1 s^2+1\right)\\<br />H_1&=&L_1 C_1\\<br />\frac{V_3\left(s\right)}{V_2\left(s\right)}&=&\frac{s^2+\frac{1}{H_2}}{s^2}\\<br />H_2&=&L_2 C_2\\<br />\frac{V_1\left(s\right)}{V_2\left(s\right)}&=&\frac{V_1\left(s\right)}{V_3\left(s\right)}\frac{V_3\left(s\right)}{V_2\left(s\right)}\\<br />&=&\left(H_1 s^2+1\right)\frac{s^2+\frac{1}{H_2}}{s^2}\\<br />&=&\frac{\left(H_1 s^2+1\right)\left(s^2+\frac{1}{H_2}\right)}{s^2}\\<br />\left|\frac{V_1\left(j\omega\right)}{V_2\left(j\omega\right)}\right|&=&\left|\frac{\left(-H_1 {\omega}^2+1\right)\left(-{\omega}^2+\frac{1}{H_2}\right)}{-{\omega}^2}\right|\\<br />&=&\left|\frac{\left(H_1 {\omega}^2-1\right)\left(\frac{1}{H_2}-{\omega}^2\right)}{{\omega}^2}\right|<br />\end{eqnarray}

H1=C1*L1=0.1,H2=C2*L2=1と置いて対数グラフにプロットしてみると



いい感じで零点が帯域通過領域の上下限と密接な関係があることがわかる。

(2011/5/13 H1とH2の関係が逆だったので通過領域に大きなロスが生じてしまっていたのを訂正)

ただしこれは厳密には上の回路の特性ではない。単に意図した場所に零点を持つ伝達関数の周波数特性をプロットしただけである。

キルヒホッフの電流則から以下の関係が成り立つ

\begin{eqnarray}<br />&&\frac{V_1-V_3}{L_1 s}-\frac{V_3-V_0}{\frac{1}{C_1 s}}-\frac{V_3-V_2}{\frac{1}{C_2 s}}=0\\<br />&&\frac{V_3-V_2}{\frac{1}{C_2 s}}-\frac{V_2-V_0}{L_2 s}=0\\<br />&&V_0=0<br />\end{eqnarray}

(2011/05/17 立式が間違っていたので訂正(;´Д`)伝送行列をから求めたのと違っているので手計算の間違いが発覚、伝送行列から求めた方が簡単かも)

分母を払って整理すると

\begin{eqnarray}<br />&&V_1-\left(1+\left(C_1+C_2\right) L_1 s^2\right)V_3+C_2 L_1 s^2 V_2=0\\<br />&&L_2 C_2 s^2 V_3-\left(C_2 L_2 s^2+1\right)V_2=0<br />\end{eqnarray}

第二の式からV3を求めて第一の式に代入してV2について解くと

\begin{eqnarray}<br />&&V_3=\frac{C_2 L_2 s^2+1}{L_2 C_2 s^2}V_2\\<br />&&V_1-\frac{\left(1+\left(C_1+C_2\right) L_1 s^2\right)\left(C_2 L_2 s^2+1\right)}{L_2 C_2 s^2}V_2+C_2 L_1 s^2 V_2=0\\<br />&&V_1-\frac{L_1 L_2 C_1 C_2 s^4+\left(L_2 C_2+\left(C_1+C_2\right)L_1\right)s^2+1}{L_2 C_2 s^2}V_2=0\\<br />V_2&=&\frac{L_2 C_2 s^2}{L_1 L_2 C_1 C_2 s^4+\left(L_2 C_2+\left(C_1+C_2\right)L_1\right)s^2+1}V_1<br />\end{eqnarray}

従って伝送量は

\begin{eqnarray}<br />\frac{V_1\left(s\right)}{V_2\left(s\right)}&=&\frac{L_1 L_2 C_1 C_2 s^4+\left(L_2 C_2+\left(C_1+C_2\right)L_1\right)s^2+1}{L_2 C_2 s^2}\\<br />\left|\frac{V_1\left(j\omega\right)}{V_2\left(j\omega\right)}\right|&=&\left|\frac{L_1 L_2 C_1 C_2 {\omega}^4-\left(L_2 C_2+\left(C_1+C_2\right)L_1\right){\omega}^2+1}{L_2 C_2 {\omega}^2}\right|<br />\end{eqnarray}

ということになる。ここでさっきと同様にH1=C1*L1=0.1,H2=C2*L2=1、ただしC1=L1=1/√10,C2=L2=1と置いてプロットしてみると(2011/5/13 H1とH2の大小関係が逆だったのを訂正)



おお、ちょっと零点の位置がシフトしているけどちゃんと帯域通過フィルタになっている。

当初手計算でやって導いた式が間違っていて思わぬ方向へ進んでしまったが、後で伝送行列を求めてその開放電圧伝達比(A)の式をみたら違っていたので誤りに気づいた次第。

\begin{eqnarray}<br />F&=&\left[\begin{array}1 & s\,L_1\cr 0 & 1\end{arra}\right]\left[\begin{array}1 & 0\cr s\,C_1 & 1\end{array}\right]\left[\begin{array}1 & \frac{1}{s\,C_2}\cr 0 & 1\end{array}\right]\left[\begin{array}1 & 0\cr \frac{1}{s\,L_2} & 1\end{array}\right]\\<br />&=&\left[\begin{array}\frac{{s}^{4}\,C_1\,C_2\,L_1\,L_2+{s}^{2}\,C_2\,L_2+{s}^{2}\,C_2\,L_1+{s}^{2}\,C_1\,L_1+1}{{s}^{2}\,C_2\,L_2} & \frac{{s}^{2}\,C_2\,L_1+{s}^{2}\,C_1\,L_1+1}{s\,C_2}\cr \frac{{s}^{2}\,C_1\,C_2\,L_2+C_2+C_1}{s\,C_2\,L_2} & \frac{C_2+C_1}{C_2}\end{array}\right]<br />\end{eqnarray}

さてそれでは2つのグラフに微妙な差異が出るのはなぜだろう?

伝送行列を計算してみて明らかなのは異なる二端子対回路を縦続接続した場合には合成された回路の開放電圧伝達比は元の部分回路の開放電圧伝達比の積とは異なるのが原因である。

これが古典的フィルタ回路設計の悩ましいところである。ラダー回路は段数を重ねるととたんに多項式の次数が高くなり零点や極を求めるのが困難になる。従って計算機の無い時代には手計算で解析可能な単純な回路で構成されたフィルタを縦続接続するcomposite filterが最初に登場したのは頷ける。

それでは縦続接続した際にそれぞれの部分回路の零点や極が変わらないようにするにはどうすればいいのだろう。

一つの答えは開放電圧伝達比ではなく映像インピーダンスと映像伝達定数を用いるというアイデアである。そうすれば映像インピーダンスがマッチングしている限り、縦続接続された回路の映像伝達定数は部分回路の映像伝達定数の単純な足し算になる。映像インピーダンスは伝送行列の固有値(映像伝達定数)に対する固有ベクトルの成分であるため比較的求め易い。

映像インピーダンスや伝達定数を新たな視点で見直すために以下の図を考える。Z11,Z22はそれぞれ映像インピーダンスである。Z11を接続した状態で出力端子端子対の駆動点インピーダンスはZ22、逆にZ22を出力端に接続した状態で入力端を開放した際の入力端の駆動点インピーダンスがZ11となる。



視点を変えれば、出力端の映像インピーダンスZ22はZ22を負荷として接続した場合に負荷への供給電力が最大となる出力インピーダンスということになる。さてこの場合、等価電圧源E2は入力側の電圧源Eとどんな関係にあるのだろうか?

伝達定数の定義から

\begin{eqnarray}<br />\theta&=&\frac{1}{2}ln\frac{P_1}{P_2}=ln\sqrt{\frac{I_1 V_1}{I_2 V_2}}=ln\sqrt{\frac{{I_1}^2 Z_{11}}{{I_2}^2 Z_{22}}}=ln\frac{I_1}{I_2}\sqrt{\frac{Z_{11}}{Z_{22}}}\\<br />&=&ln\frac{\frac{V_1}{Z_{11}}}{\frac{V_2}{Z_{22}}}\sqrt{\frac{Z_{11}}{Z_{22}}}=ln\frac{V_1}{V_2}\sqrt{\frac{Z_{22}}{Z_{11}}}\\<br />&=&ln\frac{\frac{E}{2 Z_{11}}}{\frac{E_2}{2 Z_{22}}}\sqrt{\frac{Z_{11}}{Z_{22}}}=ln\frac{E Z_{22}}{E_2 Z_{11}}\sqrt{\frac{Z_{11}}{Z_{22}}}=ln\frac{E}{E_2}\sqrt{\frac{Z_{22}}{Z_{11}}}\\<br />e^{\theta}&=&\frac{E}{E_2}\sqrt{\frac{Z_{22}}{Z_{11}}}=\frac{V_1}{V_2}\sqrt{\frac{Z_{22}}{Z_{11}}}\\<br />\frac{E}{E_2}&=&\frac{I_1}{I_2}=\frac{V_1}{V_2}=\sqrt{\frac{Z_{11}}{Z_{22}}}e^{\theta}<br />\end{eqnarray}

ということでI1,I2やV1,V2と同じ関係になるということだった。これは演習問題としては引っかけ問題でよいかもしれない。

上の式を別の観点から見ると、Z11=Z22となる対称回路ではE/E2=I1/I2=V1/V2=e^θという単純で分かりやすい関係になる。

VALKENBURGのNETWORK ANALYSISでは定K形フィルタを登場させるまでに映像インピーダンスやLCリアクタンス回路の性質など今日ではめったに見かけない退屈とも思える議論をしている。おそらく古典フィルタ理論が誕生した時代の試行錯誤的な歴史的な過程を忠実にたどっているのかもしれない。

ひとつ興味深い記述をここに紹介しよう。これまでやったようにラダー形回路は素子数がちょっと増えただけですぐに高次の多項式となり計算で零点や極を割り出すのが困難になってくる。計算機がなかった昔には実際に以下の様な実験回路を組んで、テストオシレータとオシロスコープを使って見いだしたというのである。



二端子対回路ですでに学んだ通り、対称回路では入力側から見た開放駆動点インピーダンスと短絡駆動点インピーダンスがわかれば映像伝達関数もわかるというのである。これは未知のフィルタ回路の伝達定数を評価するの手っ取り早い方法である。実験テーマとしても面白いかもしれない。

図のAnmeterは交流電流計だが、抵抗値の小さい電圧降下用抵抗とオシロスコープの組み合わせでもよい。Sine wave generatorは低周波オシレータを一定の出力レベルを保つように周波数をスイープしていけばよい。これはネットワークアナライザの原型である。

対称回路ではないが先の帯域通過フィルタ回路でこの実験を行った場合を計算でシミュレーションしてみよう。後日時間があったら別途実験をしてみたい。

入力から見たそれぞれの駆動点インピーダンスを求めると

\begin{eqnarray}<br />Z_{sc}\left(s\right)&=&L_1 s+\frac{1}{C_1 s+C_2 s}=\frac{L_1\left(C_1+C_2\right)s^2+1}{\left(C_1+C_2\right)s}\\<br />Z_{sc}\left(j\omega\right)&=&j\frac{L_1\left(C_1+C_2\right){\omega}^2-1}{\left(C_1+C_2\right)\omega}\\<br />Z_{oc}\left(s\right)&=&L_1 s+\frac{1}{C_1 s+\frac{1}{\frac{1}{C_2 s}+L_2 s}}=\frac{{s}^{4}\,C_1\,C_2\,L_1\,L_2+{s}^{2}\,C_2\,L_2+{s}^{2}\,C_2\,L_1+{s}^{2}\,C_1\,L_1+1}{s\,\left( {s}^{2}\,C_1\,C_2\,L_2+C_2+C_1\right) }\\<br />Z_{oc}\left(j\omega\right)&=&j\frac{{\omega}^{4}\,C_1\,C_2\,L_1\,L_2-{\omega}^{2}\,C_2\,L_2-{\omega}^{2}\,C_2\,L_1-{\omega}^{2}\,C_1\,L_1+1}{\omega\,\left( {\omega}^{2}\,C_1\,C_2\,L_2-C_2-C_1\right) }<br />\end{eqnarray}

従って2つの駆動点電流Isc,Iocを導くと

\begin{eqnarray}<br />\left|I_{sc}\right|&=&\left|\frac{E}{Z_{sc}}\right|=\left|\frac{\left(C_1+C_2\right)\omega}{L_1\left(C_1+C_2\right){\omega}^2-1}E\right|\\<br />\left|I_{os}\right|&=&\left|\frac{E}{Z_{oc}}\right|=\left|\frac{\omega\,\left( {\omega}^{2}\,C_1\,C_2\,L_2-C_2-C_1\right) }{{\omega}^{4}\,C_1\,C_2\,L_1\,L_2-{\omega}^{2}\,C_2\,L_2-{\omega}^{2}\,C_2\,L_1-{\omega}^{2}\,C_1\,L_1+1}E\right|<br />\end{eqnarray}

C1=L1=1/sqrt(10),C2=L2=1としてそれぞれをプロットして並べると




|Isc|,|Ioc|はそれぞれの駆動点インピーダンスの零点で最大値をとり極で最小値をとる。実際の回路ではLCのみからなるリアクタンス回路でも抵抗分があるため電流はゼロや∞にはならない有限の値の範囲をとる。Iscが最大値をとり、Iocが最小値をとるもしくはその逆の場合は通過領域である。Iscが最大値か最小値をとる時にIocがそうでない場合、もしくはその逆の場合そこが遮断周波数(cutoff frequency)である。Iscが最大値でIocが最小値またはその逆の場合には阻止領域である。ということらしい。

上のグラフだと真ん中は微妙にIscの最大値とIocの最小値が隣接しているので微妙なところだけど実際には相殺しあって通過領域ということになる。この回路は帯域通過フィルタなので通過領域の両サイドに阻止領域があるのが見てとれる。一方のカーブの傾きが他方と同じ領域は阻止領域で逆なのは通過領域とも見てとれる。確かに以前にプロットした電圧伝達比のカーブと比べてみると、これだけで遮断周波数とかがわかるんだと昔の人の知恵に驚かされる。こういうのは意外と大事かもしれない。

昔の人はこうやって知恵を絞りながらフィルタの研究をしていたのかと感嘆させられる。

この簡単なネットワークアナライザは能動素子を含む回路には使えない。受動素子のみから成る回路の場合だけ2つの駆動点インピーダンスから伝達定数が予想できる。

さて残った(4)帯域除去フィルタはどうやったら実現できるだろうか?

単純に考えてもLPFとHPFの縦続接続では実現できない。前段の遮断周波数より低域もしくは高域どちらか一方が先に遮断されてしまうので、後段で遮断された領域を通過させてもLPF/HPF/BPFにはなってもBEFにはならない。

縦続がだめなら並列にするしかない。そうすればLPFとHPFの双方の通過帯域の倫理和が全体の通過帯域になり、双方の遮断領域の論理積が全体の遮断領域になるという寸法だ。

さてそれを回路にするとどうなるのか考えてみよう、二通り思いつくが本当に期待通りにBEFとして機能するかは計算してみないとわからない。回路シミュレーターが手元にあればもっと簡単に確かめることができるのだが。そうだ先ほどの簡易ネットワークアナライザー技法を使って簡単に予想をつけるという手もある。

著者は具体的にBEFの回路を後に示しているのでここでは割愛しよう。

ところで自宅にもう一冊フィルタ理論を扱った本が買ってあったのを発見。ブックカバーがかけてあったのと専門的な内容に絞った本だったので今まで開く機会が少なかったのだった。

「線形回路理論」高木茂孝著 昭晃堂

まえがきを読んだらフィルタ理論の入門書ということだった。読み直して見ると確かによくまとまっている。なるほどフィルタ理論に絞り込むとかくもすっきりと道筋が整理できるのか。

電気回路一般を扱う本では出てこないもうひとつのフィルタのタイプがこの本には挙げられている。以前に二端子対回路の最後に出てきた、全域通過型である。その後の解説も回路設計の観点から説いているので技術者にはしっくりする。そのため一般の電気回路の本とはだいぶ異なる様相になっている。これはこれで技術の再構成とも言えるかもしれない。

今までとっつき易い開放電圧伝達比に着目してきたが、上記の本ではこれをR-∞型構成としてLC回路フィルタの構成として最初に説明している。出力端を開放すると入力から見た駆動点インピーダンスを連分数展開(Cauer展開)すれば回路が構成できる。分かりやすい。その他、0-R型構成とR-R型構成を例にあげ、最後のものが特性的に優れて実用的であることが示されている。上記の本はそこで終わっているの入門書とまえがきにある所以だ。

それと伝達関数、伝送量等の用語に関する日本語的な紛らわしさもいくつかの参考書で指摘されている。利得(ゲイン)に着目するのと損失(ロス)に着目するのとでは定義が互いに逆数となる。英米では挿入損失(insertion loss)という用語があったらしいが、現代では使われなくなったらしい。あらかじめ伝送量が入力と出力の比率の対数であることを知っていればそう大きな間違いはないが、それを知らないとまったくの誤解を生むことになる。

更に一歩深入りすれば、利得が得られる理由や損失が生じる理屈を知りたいということになる。結果的に入力された電力の一部だけが出力側に出ていき残りは入力に反射して戻ると考えると納得がいく。そうした観点からSパラメータなるものが有用になるが、電気回路理論ではそこまでは必要とされないので割愛されている。高周波回路やマイクロ波回路では必須なのでそこで学べばいいということだろう。

とりあえずフィルタ回路ではインピーダンスの整合が性能に重要な影響を与えることだけは頭にとめておくことことにしよう。



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投稿日時: 2011-5-24 5:11
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定K形フィルタ
いよいよ定Kフィルタについて学ぶことにしよう。

著者は前置きもなく要点だけを解説しているが、それだと天下り的すぎて飲み込みづらいのでValkenburgのNetwork Analysisに書かれている前置きをたどってみよう。

ラダー回路網

ラダー構成は歴史的に重要である。フィルターを構成するために最初に用いられた構造だからだ。それにある種のラダー回路に当てはまることが、格子形回路にも適用できる点である。格子形回路は平衡回路網で構成されたかつてのアナログ電話回路網に不可欠であったためだ。電話網がデジタル化された現代では固定電話の加入者回線網だけが平衡回路として取り残されているだけとなった。

以下の標準的なラダー回路は対称なT字形回路とπ形回路に分解できる。



T字形回路に分解すると



π形回路に分解すると



更にこれらのT字形回路とπ形回路は同一のL字形回路だけで構成できる。



映像インピーダンス

上記のT字回路やπ形回路は左右対称である。L字形回路はそうではない。対称回路か非対称回路のどちらかに適用する公式を導出するために以下の様な非対称T字回路について考える。



すでにご存じの二端子対回路の映像インピーダンスの定義についてはここでおさらいしよう。ZLを接続し状態で開放端子対1-1から見た駆動点インピーダンスをZ11とし、Zgを接続した状態で開放端子対2-2の駆動点インピーダンスZ22とすると、以下の条件が成り立つ時、端子対1-1と端子対2-2で映像インピーダンス整合がとれていると言う。

Z_g=Z_{11}かつZ_L=Z_{22}

Z11とZ22はそれぞれ二端子対回路の映像インピーダンス(Z1i,Z2i)であることは承知の通り。

上の回路の2つの映像インピーダンスを導くと

\begin{eqnarray}<br />Z_{1i}&=&Z_{11}=Z_1+\frac{1}{\frac{1}{Z_3}+\frac{1}{Z_2+Z_{2i}}}\\<br />&=&Z_1+\frac{\left( Z_{2}+Z_{2i}\right) \,Z_3}{Z_3+Z_2+Z_{2i}}\\<br />Z_{2i}&=&Z_2+\frac{1}{\frac{1}{Z_3}+\frac{1}{Z_1+Z_{1i}}}\\<br />&=&Z_2+\frac{\left( Z_1+Z_{1i}\right) \,Z_3}{Z_3+Z_1+Z_{1i}}<br />\end{eqnarray}

ということになり、Z1iにはZ2iがZ2iにはZ1iが含まれる。映像インピーダンスは上記の2つの式をZ1iとZ2iに関する連立方程式として解くことによっても求めることができるが、二端子対回路のそれぞれの端子対を開放および短絡した状態での駆動点インピーダンス(Z1o,Z1s,Z2o,Z2s)から求めることもできる。

端子対2-2を開放および短絡した時の端子対1-1から見た駆動点インピーダンスはそれぞれ

\begin{eqnarray}<br />Z_{1o}&=&Z_1+Z_3\\<br />Z_{1s}&=&Z_1+\frac{1}{\frac{1}{Z_3}+\frac{1}{Z_2}}\\<br />&=&Z_1+\frac{Z_3 Z_2}{Z_3+Z_2}\\<br />Z_{2o}&=&Z_2+Z_3\\<br />Z_{2s}&=&Z_2+\frac{1}{\frac{1}{Z_3}+\frac{1}{Z_1}}\\<br />&=&Z_2+\frac{Z_3 Z_1}{Z_3+Z_1}<br />\end{eqnarray}

ということになる。詳しい導出方法は二端子対回路の時にやったのでそちらに譲るとして、映像インピーダンスを開放および短絡駆動点インピーダンスで表すと

\begin{eqnarray}<br />Z_{1i}&=&\sqrt{Z_{1o}Z_{1s}}\\<br />Z_{2i}&=&\sqrt{Z_{2o}Z_{2s}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。また対称回路では2つの映像インピーダンスは等しいことから

\begin{eqnarray}<br />Z_{1i}&=&Z_{2i}=Z_i<br />\end{eqnarray}

ということになる。これを利用して前出の対称T字形回路の映像インピーダンスを求めると

\begin{eqnarray}<br />Z_{iT}&=&\sqrt{Z_{1o}Z_{1s}}=\sqrt{\left(\frac{Z_1}{2}+Z_2\right)\left(\frac{Z_1}{2}+\frac{Z_2\frac{Z_1}{2}}{Z_2+\frac{Z_1}{2}}\right)}\\<br />&=&\sqrt{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}<br />\end{eqnarray}

ということになる。同様にして対称π形回路の映像インピーダンスを求めると

\begin{eqnarray}<br />Z_{i\pi}&=&\sqrt{Z_{1o}Z_{1s}}=\sqrt{\left(\frac{1}{\frac{1}{2 Z_2}+\frac{1}{Z_1+2 Z_2}}\right)\left(\frac{1}{\frac{1}{2 Z_2}+\frac{1}{Z_1}}\right)}\\<br />&=&\sqrt{\left(\frac{2\,Z2\,\left( 2\,Z2+Z1\right) }{4\,Z2+Z1}\right)\left(\frac{2\,Z_1\,Z_2}{2\,Z_2+Z_1}\right)}\\<br />&=&\frac{Z_1 Z_2}{sqrt{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。



今度は対称T字回路と対称π形回路を構成するL字回路の映像インピーダンスを求めると

\begin{eqnarray}<br />Z_{1iL}&=&\sqrt{Z_{1o}Z_{1s}}=\sqrt{\left(\frac{Z_1}{2}+2 Z_2\right)\left(\frac{Z_1}{2}\right)}\\<br />&=&\sqrt{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}\\<br />Z_{2iL}&=&\sqrt{Z_{2o}Z_{2s}}=\sqrt{\left(2 Z_2\right)\left(\frac{1}{\frac{1}{2 Z_2}+\frac{1}{\frac{Z_1}{2}}}\right)}\\<br />&=&\frac{Z_1 Z_2}{\sqrt{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。これは先に求めた対称T字回路と対称π形回路のそれぞれの映像インピーダンスと等しいことがわかる。

\begin{eqnarray}<br />Z_{1iL}&=&Z_{iT}\\<br />Z_{2iL}&=&Z_{i\pi}<br />\end{eqnarray}

映像伝達関数

対称T字形回路を以下の様に両端を映像インピーダンスで終端した場合の入力と出力の電流比を求めると

\begin{eqnarray}<br />\frac{I_1}{I_2}&=&e^{\gamma}=\frac{Z_2+\frac{Z_1}{2}+Z_i}{Z_2}=1+\frac{Z_1}{2 Z_2}+\frac{Z_i}{Z_2}<br />\end{eqnarray}

これをZiについて解くと

\begin{eqnarray}<br />Z_i&=&Z_2\[\left(e^{\gamma}-1\right)-\frac{Z_1}{2 Z_2}\]<br />\end{eqnarray}

先に求めた対称T字形回路の映像インピーダンスと上のZiは等価なので

\begin{eqnarray}<br />Z_{iT}&=&\sqrt{\frac{Z_2}{4}+Z_1 Z_2}\\<br />{Z_{iT}}^2&=&\cancel{\frac{{Z_2}^2}{4}+Z_1 Z_2}\\<br />&=&{Z_2}^2\[\left(e^{\gamma}-1\right)-\frac{Z_1}{2 Z_2}\]^2\\<br />&=&{Z_2}^2\left[\left(e^{\gamma}-1\right)^2-2\left(e^{\gamma}-1\right)\frac{Z_1}{2 Z_2}+\frac{{Z_1}^2}{4{Z_2}^2}\right]\\<br />&=&{Z_2}^2\left(e^{2\gamma}-2e^{\gamma}+1-e^{\gamma}\frac{Z_1}{Z_2}+\frac{Z_1}{Z_2}+\frac{{Z_1}^2}{4{Z_2}^2}\right)\\<br />&=&{Z_2}^2\left(e^{2\gamma}-2e^{\gamma}+1\right)-e^{\gamma}Z_1 Z_2+\cancel{Z_1 Z_2+\frac{{Z_1}^2}{4}}<br />\end{eqnarray}

(2011/7/27)式の展開一部誤りがあったのを訂正。

整理すると

\begin{eqnarray}<br />{Z_2}^2\left(e^{2\gamma}-2e^{\gamma}+1\right)-Z_1 Z_2 e^{\gamma}&=&0\\<br />\frac{e^{2\gamma}-2e^{\gamma}+1}{e^{\gamma}}&=&\frac{Z_1}{Z_2}<br />\end{eqnarray}

ここで

cosh\,\gamma=\frac{1}{2}\left(e^{\gamma}+e^{-\gamma}\right)

であることから

\begin{eqnarray}<br />cosh\,\gamma&=&1+\frac{Z_1}{2 Z_2}<br />\end{eqnarray}

ということになる。また複素双曲線関数の公式

\begin{eqnarray}<br />cosh\,\gamma+sinh\,\gamma&=&e^{\gamma}<br />\end{eqnarray}

と先のcoshの式から

\begin{eqnarray}<br />sinh\,\gamma&=&\frac{Z_1}{Z_2}<br />\end{eqnarray}

従ってtanhは

\begin{eqnarray}<br />tanh\,\gamma&=&\frac{Z_i}{\frac{Z_1}{2}+Z_2}<br />\end{eqnarray}

また映像インピーダンスZiと開放駆動点インピーダンスZ1oは

\begin{eqnarray}<br />Z_i&=&\sqrt{Z_{1s}Z_{1o}}\\<br />Z_{1o}&=&\frac{Z_1}{2}+Z_2<br />\end{eqnarray}

であることから、それぞれ代入すると

\begin{eqnarray}<br />tanh\,\gamma&=&\sqrt{\frac{Z_{1s}}{Z_{1o}}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

ここで映像伝達定数は2つの実数、減衰定数(α)と位相定数(β)からなる複素数であることを二端子対回路の時に学んだのを思いだそう

\begin{eqnarray}<br />\gamma&=&\alpha+j\beta\\<br />tanh\,\gamma&=&\frac{sinh\,\gamma}{cosh\,\gamma}=\frac{sinh\left(\alpha+j\beta\right)}{cosh\left(\alpha+j\beta\right)}\\<br />&=&\frac{sinh\,\alpha\,cos\,\beta+j\,cosh\,\alpha\,sin\,\beta}{cosh\,\alpha\,cos\,\beta+j\,sinh\,\alpha\,sin\,\beta}<br />\end{eqnarray}

分子と分母を共にcoshαcosβで割ると

\begin{eqnarray}<br />tanh\,\gamma&=&\frac{\frac{sinh\,\alpha}{cosh\,\alpha}+j\frac{sin\,\beta}{cos\,\beta}}{1+j\frac{sinh\,\alpha}{cosh\,\alpha}\frac{sin\,\beta}{cos\,\beta}}\\<br />&=&\frac{tanh\,\alpha+j\,tan\,\beta}{1+j\,tanh\,\alpha\,tan\,\beta}<br />\end{eqnarray}

ということになる。なんだよそんなの当たり前じゃんと一瞬退屈な数式の操作に思えたのだが、ここからやっと昔の人の知恵に感嘆させられることになる。

概説の時に原始的なネットワークアナライザーが登場したがそのときは昔の人がどうやってフィルタの通過域と減衰域、それに遮断周波数(cutoff frequency)を予測するかという知恵に驚かされた。

おそらくフィルタ研究の歴史の初期は思考錯誤で目的の特性を備えたフィルター回路をどうやって構成するか大問題だったに違いない。

考えられたのは通過域では減衰定数αは0となること、減衰域ではα≠0となることは明らかなので、それを先の伝達定数の式に適用すると

\begin{eqnarray}<br />\left. tanh\,\gamma\right|_{\alpha=0}&=&\frac{tanh\,0+j\,tan\,\beta}{1+j\,tanh\,0\,tan\,\beta}\\<br />&=&j\,tan\,\beta<br />\end{eqnarray}

すなわち通過域ではtanhγは純虚数となることがわかる。

同様に位相定数β=0,±π、±2π,...では

\begin{eqnarray}<br />\left. tanh\,\gamma\right|_{\beta=0,\pm\pi,\pm 2\pi,\dots}&=&\frac{tanh\,\alpha+j\,tan\,0}{1+j\,tanh\,\alpha\,tan\,0}\\<br />&=&tanh\,\alpha<br />\end{eqnarray}

従ってtanhγは実数となる。

もうひとつtanβが∞となるβ=±π/2,±3π/2,±5π/2,...では

\begin{eqnarray}<br />\left. tanh\,\gamma\right|_{\beta=\pm\frac{\pi}{2},\pm\frac{3\pi}{2},\pm\frac{5\pi}{2},\dots}&=&\frac{tanh\,\alpha+j\,tan\,\frac{\pi}{2}}{1+j\,tanh\,\alpha\,tan\,\frac{\pi}{2}}\\<br />&=&\frac{\frac{tanh\,\alpha}{tan\,\frac{\pi}{2}}+j}{\frac{1}{tan\,\frac{\pi}{2}}+j\,tanh\,\alpha}\\<br />&=&\frac{1}{tanh\,\alpha}<br />\end{eqnarray}

したがってtanhγは実数をとる。

ここではLとCのみから成るリアクタンス回路に限定すると、tanhγは実数か純虚数のいずれかしか取り得ない。映像インピーダンスおよび映像伝達定数の開放駆動点インピーダンスと短絡駆動点インピーダンスの関係から

\begin{eqnarray}<br />Z_i&=&\sqrt{Z_{1o}Z_{1s}}=\sqrt{\left(\pm j X_{1o}\right)\left(\pm j X_{1s}\right)}\\<br />tanh\,\gamma&=&\sqrt{\frac{Z_{1s}}{Z_{1o}}}=\sqrt{\frac{\pm j X_{1s}}{\pm j X_{1o}}}<br />\end{eqnarray}

以下の組み合わせ条件からそれが明らか。

\begin{eqnarray}<br />\begin{array}Case & X_{1s} & X_{1o} & Z_i & tanh\,\gamma \\<br />1 & \plus & \plus & j X_i & real \\<br />2 & \minus & \minus & j X_i & real \\<br />3 & \plus & \minus & R_i & imaginary \\<br />4 & \minus & \plus & R_i & imaginary \end{array}<br />\end{eqnarray}

従って減衰定数と位相定数との関係も以下の4つのケース

\begin{eqnarray}<br />\begin{array}Case & j X_{1s} & j X_{1o} & Z_i & tanh\,\gamma & \alpha & \beta \\<br />1 & + & + & j X_i & real & \alpha\ne 0 & 0\, or\, \frac{\pi}{2} \\<br />2 & - & - & j X_i & real & \alpha\ne 0 & 0\, or\, \frac{\pi}{2} \\<br />3 & + & - & R_i & imaginary & 0 & \beta\ne 0 \\<br />4 & - & + & R_i & imaginary & 0 & \beta\ne 0 \end{eqnarray}<br />\end{eqnarray}

ここでようやく映像伝達定数とフィルタ理論の結びつきが見えたことになる。やはり二端子対回路と古典フィルタ理論は一緒に学ばないと意味がない。古典フィルタ理論だけ切り捨てると講義時間は短くてすみ、講義も要領良くまとまるかもしれないが、まったく無味乾燥なものとなるだけだ。

ここでようやく通過域(α=0)では映像インピーダンスが実数となり、減衰域では純虚数となることがわかる。

そこで対称T字回路と対称π形回路の映像インピーダンスを以下の様に変形すると

\begin{eqnarray}<br />Z_{iT}&=&\sqrt{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}=\sqrt{Z_1 Z_2\left(1+\frac{Z_1}{4 Z_2}\right)}\\<br />Z_{i\pi}&=&\frac{Z_1 Z_2}{\sqrt{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}}=\sqrt{\frac{Z_1 Z_2}{1+\frac{Z_1}{4 Z_2}}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

通過域と減衰域の境界(遮断周波数:cutoff frequency)では映像インピーダンスが実数と純虚数の間を変化する点であるので、上の映像インピーダンスの式で

\begin{eqnarray}<br />1+\frac{Z_1}{4 Z_2}&=&0\\<br />\frac{Z_1}{4 Z_2}&=&-1<br />\end{eqnarray}

となる特異点を境に映像インピーダンスが実数と純虚数の間を変化することになる。すなわち通過域と減衰域の境界線である遮断周波数の条件ということになる。

まだ定K形フィルタが登場するのに露払いが少々残っている。

最近本を手に取って読もうとすると細かい字が判別できなくなった。連日眼精疲労がたまって左目が特に視力が低下している。しかし本をホテルのベッドの上に置いて、ベット脇の椅子に座った位置から見下ろして読む分にはまったく問題無い。記号の小さな添え字もはっきり見える。なんだ最初からそうすればよかった(´∀` )

映像インピーダンスが通過域では実数(抵抗)になって減衰域では純虚数(リアクタンス)になるということは、賢明な読者なら既に察しの通り、電力が出力側へ移動するか反射するかの違いを意味する。概説の時に描いた等価電圧源を出力側に持つ回路図で考えるといろいろなケースでも納得がいく。もともと出力側の等価電圧源の電圧は対称回路の場合には映像伝達定数と入力側の電源電圧によって決まる。通過域では入力と同じ(α=0)、減衰域では減衰(α≠0)するということになる。

古典フィルタ理論は意図した通過域で実数をとり、減衰域で純虚数をとるような映像インピーダンスを設計すればよいことになる。これが古典フィルタが映像インピーダンスに基づいて設計されると言われる所以だった。わかってしまえば当たり前なのだが、単純に天下りに言われてもピンとこない。

さて残る対称T字形回路の議論を再開しよう。

前半に登場した以下の式からまた別の映像伝達関数の式が導かれることを示そう。

\begin{eqnarray}<br />cosh\,\gamma&=&1+\frac{Z_1}{2 Z_2}\\<br />\frac{cosh\,\gamma-1}{2}&=&\frac{Z_1}{4 Z_2}\\<br />&=&sinh^2\,\frac{\gamma}{2}=\frac{Z_1}{4 Z_2}<br />\end{eqnarray}

再びγ=α+jβを代入すると

\begin{eqnarray}<br />sinh\,\frac{\alph+j\beta}{2}&=&sinh\,\frac{\alpha}{2}\,cos\,\frac{\beta}{2}+j\,cosh\,\frac{\alpha}{2}\,sin\,\frac{\beta}{2}=\sqrt{\frac{Z_1}{4 Z_2}}<br />\end{eqnarray}

LC二端子対回路ではZ1およびZ2はいずれも容量性もしくは誘導性リアクタンスであるので

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&\pm j X_1\,\,Z_2=\pm j X_2<br />\end{eqnarray}

Z1とZ2が互いに正負逆の場合には、Z1/4Z2は負の値をとるためそのべき根は純虚数となる、従って

\begin{eqnarray}<br />sinh\,\frac{\alpha}{2}\,cos\,\frac{\beta}{2}&=&0\\<br />cosh\,\frac{\alpha}{2}\,sin\,\frac{\beta}{2}&=&\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}<br />\end{eqnarray}

という関係が成り立つことを意味する。

これを満たすαとβの解の集合は、α=0もしくはβ=±π,±3π,...の二通りあり、

\begin{eqnarray}<br />\alpha&=&0\\<br />\beta&=&2\,sin^{-1}\,\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}<br />\end{eqnarray}

もしくは

\begin{eqnarray}<br />\beta&=&\pm\pi,\pm 3 \pi,\pm 5\pi,\dots\\<br />\alpha&=&2\,cosh^{-1}\,\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

一方Z1/4Z2が正となる場合、そのべき根は実数となるので今度は

\begin{eqnarray}<br />cosh\,\frac{\alpha}{2}\,sin\,\frac{\beta}{2}&=&0\\<br />sinh\,\frac{\alpha}{2}\,cos\,\frac{\beta}{2}&=&\sqrt{\frac{Z_1}{4 Z_2}}<br />\end{eqnarray}

この場合にはαの解の集合に0は含まれない。これらの条件を満たすのは唯一βが0,±2π、...をとるときである。

\begin{eqnarray}<br />\beta&=&0,\pm 2\pi,\pm 4\pi,\dots\\<br />\alpha&=&2 sinh^{-1}\,\sqrt{\frac{Z_1}{4 Z_2}}<br />\end{eqnarray}

従って

\begin{eqnarray}<br />\begin{array}\le\frac{Z_1}{4 Z_2} & \ge\frac{Z_1}{4 Z_2} & band & \alpha & \beta \\ \hline \\<br />-\infty & -1 & stop & 2 cosh^{-1}\,\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}} & \pm\pi,\pm 3\pi,\dots \\<br />-1 & 0 & pass & 0 & 2 sin^{-1}\,\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}} \\<br />0 & \infty & stop & 2 sinh^{-1}\,\sqrt{\frac{Z_1}{4 Z_2}} & 0,\pm 2\pi,\pm 4\pi,\dots \end{array}<br />\end{eqnarray}

ということになる。(2011/06/20 一部訂正)

これは映像伝達関数の式を-Z1/4Z2をパラメータとして変化させた場合に減衰定数αと位相定数βの解の集合を求めたことを意味する。これは数学的な視点なくしてはいくら試行錯誤で実験や測定を繰り返しても到達できない。

これでようやく定K形フィルタを登場させる舞台準備が整った。



これまでの対称T字回路や対称π形回路、それを構成する上のL字形回路のZ1,Z2が

\begin{eqnarray}<br />\frac{Z_1}{2}2 Z_2&=&Z_1 Z_2=R^2<br />\end{eqnarray}

なる条件を満たすように設計されたものは定K形フィルタと呼ばれる。

Zobelが最初に発表した時は上の式でRの代わりにKが使用されたことから定K形フィルタと称されるようになった。ものの本によっては忠実にKもしくはkをRの代わりに使用している。kは実数定数の意味合いが強いが、実際には単位がZ1,Z2と同じΩであるためインピーダンス値が実数をとるRを使用するのがより適切ということだろう。このRを終端抵抗として使用した場合に通過域で最大電力が伝達されることはこれまでの映像インピーダンスの解析結果から明らかである。

ほとんどの電気回路の参考書は、定K形フィルタの解説をここから出発するので難解なものになっている。やはりこれまでの議論の延長線上でValkenburgの解説を追うことにしよう。

これまで映像伝達関数の解析で用いたZ1/4Z2をここで改めて新しいパラメータとして再登場させることになる。

\begin{eqnarray}<br />x^2&=&\frac{-Z_1}{4 Z_2}<br />\end{eqnarray}

負号が付いているのは、x^2が正の実数となるようにするためで、実際にZ1とZ2は一方が容量性であれば他方は誘導性リアクタンスでなければ先の定K形フィルタの条件式を満足しないからである。

\begin{eqnarray}<br />Z_1 Z_2&=&\left(\pm j X_1\right)\left(\mp j X_2\right)=+X_1 X_2=R^2<br />\end{eqnarray}

今度はRとxを使って最後に登場した映像インピーダンスの式を書き換えると

\begin{eqnarray}<br />Z_{iT}&=&\sqrt{Z_1 Z_2\left(1+\frac{Z_1}{4 Z_2}\right)}=R\sqrt{1-x^2}\\<br />Z_{i\pi}&=&\sqrt{\frac{Z_1 Z_2}{1+\frac{Z_1}{4 Z_2}}}=\frac{R}{\sqrt{1-x^2}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

最後の表にあるように-Z1/4Z2が正の値をとるケースでは減衰域となり

\begin{eqnarray}<br />\alpha&=&2\,cosh^{-1}\,\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}=2\,cosh^{-1}\,x\\<br />\beta&=&\pm\pi,\pm 3\pi,\dots<br />\end{eqnarray}

ということになる。同様に通過域では

\begin{eqnarray}<br />\alpha&=&0\\<br />\beta&=&2\,sin^{-1}\,\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}=2\,sin^{-1}\,x<br />\end{eqnarray}

ということになる。

Valkenburgの議論では対称T字回路と対称π形回路とそれらを共通に構成する非対称逆L字回路を含めてZ1とZ2が先の定K形フィルタの条件を満たす限り定K形フィルタに含まれるのである。既に触れた通りに逆L字回路の2つの映像インピーダンスは、逆L字回路を向かい合わせおよび背中合わせに縦続接続した対称T字回路と対称π形回路の映像インピーダンスと等しいからである。このことは二端子対回路の時に映像インピーダンスを学んだ時に既に承知の通り。

多くの電気回路の本では逆L字回路だけを取り上げて定K形フィルタとして解説している。

著者の場合は、回路図から見てわかるとおり逆L字回路のそれはValkenburgの議論で出てくるものと同じでシリーズインピーダンスがZ1/2でシャントインピーダンスが2Z2となっている。注釈欄でValkenburgと同じように対称T字回路や対称π形回路が同じ逆L字回路から構成されることを示している。ただし回路解析そのものは、他の参考書と同じように逆L字回路に限定したものとなっている。

さて次に登場するのは難解な映像インピーダンス、減衰定数、位相定数をパラメータを変化させてプロットしたグラフである。

映像インピーダンスは複素数なのであるパラメータに従ってプロットするのが難しい。それは周波数でも先のxでも同じである。周波数によってxは0から∞の範囲をとる。それに対して映像インピーダンスは実軸と虚軸上をたどる。しかしこれだと座標軸上を移動するだけなのでわかりづらい。なので絶対値をパラメータに従ってプロットすることになる。しかしMaximaでは簡単にはプロットできない。

しかたないので実軸上に写像する関数と虚軸に写像する関数の2つに分離してプロットする必要があった。



簡単そうで実際にプロットしようとするとわかる先人の苦労。

今度は対称π形回路の映像インピーダンスのプロット。これを見るとValkenburgの同じプロットはR(x)が放物線状だが、実際にプロットするとそうではないことがわかる。極の前後の傾きは実際にはかなり急峻である。



続いて減衰定数αのプロット



最後が位相定数βのプロット



大抵の電気回路の本ではパラメータxの代わりに遮断周波数と周波数の比を使用している。実それはここまでの過程を端折っただけのことで、本当はこの後で登場する。

ここで扱っている標準的な対称T字回路、対称π形回路それを構成する逆L字回路の遮断角周波数ω0はZ1=jωL、Z2=1/jωCとすると

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&j\omega L\,\,Z_2=\frac{1}{j\omega C}\\<br />1+\frac{Z_1}{4 Z_2}&=&1+\frac{j\omega L}{4\frac{1}{j\omega C}}\\<br />&=&1-\frac{{\omega}^2 L C}{4}<br />&=&0\\<br />\omega_0&=&\frac{2}{\sqrt{L C}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。従って先のパラメータxは

\begin{eqnarray}<br />x&=&\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}=\sqrt{\frac{-j\omega L}{4\frac{1}{j\omega C}}}=\sqrt{\frac{{\omega}^2}{\frac{4}{L C}}}\\<br />&=&\frac{\omega}{\omega_0}<br />\end{eqnarray}

ということになる。従ってこの場合の対称T字回路の減衰定数と位相定数は遮断角周波数によって

\begin{eqnarray}<br />\alpha&=&0,\,\,\,\beta=2\,sin^{-1}\,\frac{\omega}{\omega_0}\,\,\,\left{0\le \omega \le \omega_0\right}\\<br />\alpha&=&2\,cosh^{-1}\,\frac{\omega}{\omega_0},\,\,\,\beta=\pi\,\,\,\left{\omega\ge\omega_0\right}\\<br />\omega_0&=&\frac{2}{\sqrt{L C}}\\<br />R&=&\sqrt{\frac{L}{C}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。ここでRは公称インピーダンス(nominal impedance)と呼ばれる。これはω0を遮断角周波数とする低域通過フィルタの例である。

今度は同じ回路でZ1を容量性、Z2を誘導性と逆の関係にすると、パラメータxは

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&\frac{1}{j\omega C}\\<br />Z_2&=&j\omega L\\<br />1+\frac{Z_1}{4 Z_2}&=&1+\frac{\frac{1}{j\omega C}}{4 j\omega L}=1-\frac{1}{4{\omega}^2 L C}\\<br />&=&0\\<br />\omega_0&=&\frac{1}{2\sqrt{L C}}\\<br />x&=&\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}=\sqrt{\frac{-\frac{1}{j\omega C}}{4 j\omega L}}\\<br />&=&\frac{1}{\sqrt{4{\omega}^2 L C}}\\<br />&=&\frac{\omega_0}{\omega}<br />\end{eqnarray}

ということになる。この場合ωが大きくなるとxが小さくなるため前の低域フィルタと逆は逆になり

\begin{eqnarray}<br />\alpha&=&0,\,\,\,\beta=2\,sin^{-1}\,\frac{\omega_0}{\omega}\,\,\,\left{\omega\ge\omega_0\right}\\<br />\alpha&=&2\,cosh^{-1}\,\frac{\omega_0}{\omega},\,\,\,\beta=\pi\,\,\,\left{0\le\omega\le\omega_0\right}\\<br />\omega_0&=&\frac{1}{2\sqrt{L C}}\\<br />R&=&\sqrt{\frac{L}{C}}<br />\end{eqnarray}

高域通過フィルタとなることがわかる。



次に対称π形回路ではどうだろう。

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&j\omega L\\<br />Z_2&=&\frac{1}{j\omega C}\\<br />1+\frac{Z_1}{4 Z_2}&=&1+\frac{j\omega L}{4\frac{1}{j\omega C}}\\<br />&=&1-\frac{{\omega}^2 L C}{4}\\<br />&=&0\\<br />\omega_0&=&\frac{2}{\sqrt{L C}}\\<br />x&=&\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}=\sqrt{\frac{-j\omega L}{4\frac{1}{j\omega C}}}\\<br />&=&\sqrt{\frac{{\omega}^2 L C}{4}}\\<br />&=&\frac{\omega}{\omega_0}\\<br />R&=&\sqrt{\frac{L}{C}}<br />\end{eqnarray}

ということで対称T字回路と同様の遮断角周波数や公称インピーダンスは同じである。映像インピーダンスや減衰定数、位相定数のプロットが先に示したように対称T字回路のそれとは異なるだけである。

今度は以下の様な対称T字回路について考えてみる。



Z1,Z2およびパラメータxは

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&j\omega\frac{L}{2}+\frac{1}{j\omega 2 C}=j\frac{{\omega}^2 L C-1}{2\omega C}\\<br />Z_2&=&\frac{1}{j\omega C+\frac{1}{j\omega L}}=-j\frac{\omega L}{{\omega}^2 L C-1}\\<br />x&=&\sqrt{\frac{-Z_1}{4 Z_2}}=\sqrt{\frac{-j\frac{{\omega}^2 L C-1}{2\omega C}}{-4j\frac{\omega L}{{\omega}^2 L C-1}}}\\<br />&=&\left(\frac{\sqrt{L C}}{2}\right)\frac{{\omega}^2-\frac{1}{L C}}{\omega}<br />\end{eqnarray}

ということになる。定K形フィルタの条件を満足する対称T字回路なので映像インピーダンスの式は以前のものと変わらないが、パラメータxとωの写像関係が異なっている。xの零点が0ではなくZ1およびZ2の共振/反共振角周波数に移動している。極は0である点は変わっていない。これによって減衰定数と位相定数のプロットは、




Valkenburgの描いたβのプロットはちょっと正確ではないことが実際に描いてみてわかった。通過域はあっているのだが、零点が2のすぐそばにあるように描かれてしまっているのだ。コンピュータの無い時代に書かれた本であるので、トレースでなぞった際にずれてしまったのかもしれない。写植字のミスという可能性もある。

いずれにせよこれは帯域通過フィルタであることを示している。ということはZ1とZ2を逆にすれば帯域除去フィルタになるのだろうか、どうやらそうらしい。それを確かめるのは読者の課題としよう(´∀` )

今日の電気回路理論の参考書で定K形フィルタの理論が紹介されているのはせいぜいあと誘導m形フィルタに触れる程度だ。実際にそれらのフィルタ回路の合成方法に関する議論はまったくと言っていいほど割愛されている。というのも合成に不可欠な一端子対回路について割愛していることが多いからだ。そこで学ぶFoster展開が合成の話をするには知っていることが前提となる。

Valkenburgは半世紀前の執筆当時は有益だったと思われる定K形フィルタ合成について引き続きたくさんのページを割いて説明している。貴重なのでここで紹介することにしよう。

ここまで登場した回路は単純なフィルタ特性のものばかりだったが、もし複数の異なる通過域や減衰域を持つフィルタを設計する場合にはどうすればよいだろう。定K形フィルタ回路のZ1,Z2が満足すべき条件式を以下の様に書き直すと

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&\frac{R^2}{Z_2}<br />\end{eqnarray}

1/Z2をアドミッタンスY2で置き換えると

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&R^2 Y_2<br />\end{eqnarray}

ここから以下の例の様に意図した零点と極を持つZ1が一端子対回路で学んだ第一Foster展開(部分分数展開)により、Y2が第二Foster展開で合成できる

\begin{eqnarray}<br />Z_1&=&R^2\frac{\left(s^2+{s_1}^2\right)\dots}{s\left(s^2+{s_2}^2\right)\dots}\\<br />Y_2&=&\frac{\left(s^2+{s_1}^2\right)\dots}{s\left(s^2+{s_2}^2\right)\dots}<br />\end{eqnarray}



具体例を挙げればY2が

\begin{eqnarray}<br />Y\left(s\right)&=&\frac{\frac{2}{L_n}}{\left(s^2+\frac{1}{L_n C_n}\right)}<br />\end{eqnarray}

で表される場合、Z1はその逆回路となるので

\begin{eqnarray}<br />Z\left(s\right)&=&\frac{\frac{s}{C_m}}{\left(s^2+\frac{1}{L_m C_m}\right)}<br />\end{eqnarray}

ということになる。ここで定K形フィルタとなるにはCn,Ln,Cm,Lmの値は以下の条件を満たす関係を持つ必要がある

\begin{eqnarray}<br />Z\left(s\right)&=&R^2 Y\left(s\right)<br />\end{eqnarray}

一般形にすると

\begin{eqnarray}<br />\frac{N_1\left(s\right)}{\left(s^2+\frac{1}{L_m C_m}\right)\left(s^2+\frac{1}{L_{m+2}C_{m+2}}\right)\dots}&=&R^2\frac{N_2\left(s\right)}{\left(s^2+\frac{1}{L_n C_n}\right)\dots}<br />\end{eqnarray}

これが成り立つには、

\begin{eqnarray}<br />L_m C_m&=&L_n C_n=\frac{1}{{\omega_n}^2}\\<br />\frac{L_m}{L_n}&=&\frac{C_n}{C_m}<br />\end{eqnarray}

を満たす場合のみということになる。ここでValkenburgの著書に誤植を見つけた。Cn/CmであるべきがCn/Cnとなっていたのだ。

Foster展開の他にCauer展開(連分数展開)を使うことで同じ特性のフィルタを以下の様にラダー回路で構成することが可能である。



複合フィルタ(composite filter)

同一の映像インピーダンスを持つ定K形フィルタ(対称T字形、対称π形)を縦続接続して構成されるフィルタは複合フィルタ(composite filter)と呼ばれ、半世紀前には代表的なフィルタ回路構成法だった。映像インピーダンス整合がとれているため、n個の縦続接続された複合フィルタの減衰定数は総和となるため

\begin{eqnarray}<br />\alpha&=&2 n\,cosh^{-1}\,\frac{\omega}{\omega_0}<br />\end{eqnarray}

ということになる。nを変えてそれぞれをプロットすると



段数を増やすと減衰定数は増加する。しかし急峻な特性が要求される場合には、非常に多くの段数を必要とすることになる。

定K形複合フィルタの限界は

(1)遮断周波数付近の減衰域で高い減衰を要求される場合、多数のT字回路を必要とする。このことは複合フィルタのコストを高沸させることになる。
(2)複合回路網は必要とされる映像インピーダンスで終端することができない。実際にはそのような終端インピーダンスは現存しないからである。フィルターを定抵抗Rで終端するとある周波数を除くすべての周波数で不整合を招く。

これらの限界から、減衰域での高い減衰を得るためにZobelは1923年に次なる改良された誘導M形フィルタ(m-derived filter)を生み出した。

P.S

やはり二端子対回路で映像パラメータが線形代数の視点から見ると伝送行列の固有値と固有ベクトルだと気づいても、それを生み出した古典フィルタ理論をちゃんと研究しない限り、それは所詮表層的理解に過ぎないということを痛感した次第。特に映像インピーダンス関数や映像伝達関数をωを変数とする1変数関数としてだけではなく、αやβも変数として多変数関数としてその振る舞いを調べることは有用であり、それらの本質や物理的な意味を直感するには不可欠であるということを学ぶことができた。

学校ではカリキュラムが膨大化する中、これらの古典理論に関しては割愛されるに至って久しい。もはや教養としての工学を教えているだけと言ってもいいかもしれない。演習問題を多く解くことも必要だが、演習問題を解くだけでは独力では気づかない数学的な視点などは教わらない限り身につかないだろう。Valkenburgの著書にはそうした時代を経ても普遍の価値を持つことが書かれている。
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投稿日時: 2011-6-1 5:49
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誘導M形フィルタ
定K型フィルタに引き続き誘導M形フィルタを学ぶことにしよう。

誘導M形フィルタで検索すると、"誘導M形","誘導m形","誘導m型"といろいろ出てくる。英語では"m-derived filter"や"M"-drived filterとか見受けられる。web辞書とかでは"derived m-type filter"とまるで和製英語みたいなものも見受けられる。

どれが本当なんだ(;´Д`)

欧米ではm-derivedもしくはm-type filterしか用いられていない。

おそらくderived m-type filterは誘導m型フィルタを英訳した和製英語だろう。m-derived filterで検索すると、m-derivedが英文の先頭に現れる場合だけM-derivedと大文字になっていることから、本当は小文字のmで、英文表記のお約束から文の先頭(主語)になるときだけ大文字のMとなると思われる。なのでそうでないケースでは小文字のmが正しいのだ。そうすると誘導M形という日本語訳も正確ではなく、本来は"誘導m形"とすべきだろう。誰だよ最初に訳したのは、出てこい。

それはどうでもよくて、問題なのは"derived"が"誘導"と訳されている理由だ。誘導Mというとまるで相互誘導インダクタンスのMを彷彿とさせる。これは明らかに誤訳だろう。元々はfに対するf'で記述されるderived function(導関数)とかのように元の形から一定の操作で導出されたものという意味だと思われる。m導出フィルタと直訳したほうがいいかもしれない。まあ導という字があるから許して置こう。

Valkenburgはその著書Network Analysisで定K形フィルタに続いてZobelがいかにして誘導M形フィルタを導き出したかその思考過程を述べている。おそらく信じるにたるものと思われるので、ここに紹介しよう。ほとんどの電気回路理論の本では結論だけを紹介しているのみでそれに至る過程は教えてくれない。

英語版のWikipediaにもそれらしき解説はあるが分かりやすいとは言えない。そもそも書いた本人が理解しているのかもあやしい。

定K形フィルタの欠点はZ1Z2が定数となるように制約を受ける点である。Zobelは定K形フィルタと同様に複数の対称T字回路や対称π形回路を縦続接続してラダー形フィルターを構成する複合フィルタ(composite filter)設計技法を前提に、各部分回路が同一の映像インピーダンスを持ち整合がとれ、かつ遮断周波数付近の減衰域で定K形フィルタよりも大きな減衰定数をとる回路ができないか思案した。

すなわち以下の図様に同じ映像インピーダンスを持ちながら目的の仕様(遮断周波数付近の減衰定数が定Kフィルタよりも大きい)Z1',Z2'というZ1,Z2から導出されたシリーズインピーダンスとシャントインピーダンスが存在すると仮定する。



Zobelは次にZ1'がZ1から次なる関係で導かれると仮定した。

\begin{eqnarray}<br />Z_{1}^{\'}&=&m Z_1<br />\end{eqnarray}

ここでmは定数である。ちょっとこの仮定は唐突な感じが否めない。本来は減衰特性を遮断周波数付近で急峻にする目的とどうつながるのかはこの時点では予想もつかない。

二つの対称T字回路は同一の映像インピーダンスを持つことから

\begin{eqnarray}<br />Z_{iT}&=&\sqrt{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}=\sqrt{\frac{{Z_{1}^{\'}}^2}{4}+Z_{1}^{\'}Z_{2}^{\'}}\\<br />{Z_{iT}}^2&=&\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2=\frac{{Z_{1}^{\'}}^2}{4}+Z_{1}^{\'}Z_{2}^{\'}<br />\end{eqnarray}

という関係が成り立つ。これにZ1'の関係式を代入してZ2'について解くと

\begin{eqnarray}<br />Z_{2}^{\'}&=&\frac{1}{Z_{1}^{\'}}\left(\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2-\frac{{Z_{1}^{\'}}^2}{4}\right)\\<br />&=&\frac{{Z_1}^2}{4Z_{1}^{\'}}+\frac{Z_1 Z_2}{Z_{1}^{\'}}-\frac{{Z_{1}^{\'}}}{4}\\<br />&=&\frac{{Z_1}\cancel{^2}}{4 m \cancel{Z_{1}}}+\frac{\cancel{Z_1} Z_2}{m \cancel{Z_{1}}}-\frac{m{Z_{1}}}{4}\\<br />&=&\left(\frac{1-m^2}{4 m}\right)Z_1+\frac{1}{m}Z_2<br />\end{eqnarray}

ということになる。

この式を回路に反映すると



ということになる。

大抵の電気回路理論の本では、この対称T字回路の半回路(half section)である非対称逆L字回路を誘導m形フィルタとして説明している。

対称π形回路についても同様のアプローチで

\begin{eqnarray}<br />Z_{2}^{\'}&=&\frac{Z_2}{m}<br />\end{eqnarray}

とし。定K形フィルタの対称π形回路のZ1,Z2から導出したZ1',Z2'で構成される新しい対称π形フィルタとでは映像インピーダンスが等しいとすると

\begin{eqnarray}<br />Z_{i\pi}&=&\frac{Z_1 Z_2}{\sqrt{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}}=\frac{Z_{1}^{\'}Z_{2}^{\'}}{\sqrt{\frac{{Z_{1}}^2}{4}+Z_{1}^{\'}Z_{2}^{\'}}}\\<br />{Z_{i\pi}}^2&=&\frac{{Z_1}^2{Z_2}^2}{\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2}=\frac{{Z_{1}^{\'}}\cancel{^2}{Z_{2}^{\'}}^2}{\frac{{Z_{1}^{\'}}\cancel{^2}}{4}+\cancel{Z_{1}^{\'}}Z_{2}^{\'}}\\<br />&=&\frac{{Z_{1}^{\'}}{Z_{2}^{\'}}^2}{\frac{{Z_{1}^{\'}}}{4}+Z_{2}^{\'}}<br />\end{eqnarray}

という関係が成り立つ。Z2'の関係式を代入してZ1'について解くと

\begin{eqnarray}<br />Z_{1}^{\'}&=&\frac{{Z_1}^2{Z_2}^2{Z_{2}^{\'}}}{{Z_{2}^{\'}}^2\left(\frac{{Z_1}^2}{4}+Z_1 Z_2\right)-\frac{{Z_1}^2{Z_2}^2}{4}}\\<br />&=&\frac{1}{{Z_{2}^{\'}}\cancel{^2}\left(\frac{\cancel{{Z_1}^2}}{4\cancel{{Z_1}^2}{Z_2}^2\cancel{Z_{2}^{\'}}}+\frac{\cancel{Z_1 Z_2}}{{Z_1}\cancel{^2}{Z_2}\cancel{^2}\cancel{Z_{2}^{\'}}}\right)-\frac{\cancel{{Z_1}^2{Z_2}^2}}{4\cancel{{Z_1}^2{Z_2}^2}{Z_{2}^{\'}}}}\\<br />&=&\frac{1}{\frac{\cancel{Z_{2}}}{m}\left(\frac{1}{4{Z_2}\cancel{^2}}+\frac{1}{{Z_1}\cancel{Z_2}}\right)-\frac{1}{4 \frac{Z_{2}}{m}}}=\frac{1}{\frac{1}{4 m{Z_2}}+\frac{1}{m{Z_1}}-\frac{m}{4 Z_{2}}}\\<br />&=&\frac{1}{\frac{1}{m Z_1}+\frac{1-m^2}{4 m Z_{2}}}\\<br />&=&\frac{1}{\frac{1}{m Z_1}+\frac{1}{\frac{4 m}{1-m^2}Z_2}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。これを回路に反映すると



ということになる。

m=1とするとTおよびπどちらの形でも元の定K形フィルタと同じ回路になることから、定K形フィルタが誘導m形フィルタの一種にも思える。元々定K形フィルタから派生した誘導m形フィルタ回路なのに、それ自身のバリエーションの一つに元の定K形フィルタ回路も包含されるというのは数学的にも面白い。

これで誘導m形の回路構成を得ることができたので、次は目標としていた遮断周波数付近の減衰を定K形よりも急峻にできるのかどうか確かめるために減衰特性を調べることになる。



最初に上の定K形フィルタから導出した以下の誘導m形フィルタ回路を調べることにしよう。



上の誘導m形フィルタの回路を見ながら、特定の周波数で無限大の減衰が得られるだろうか自問自答してみよう。右のT字回路ではLC直列回路の共振点で回路は短絡され負荷をバイパスすることになるので無限大の減衰が得られる。この共振点は無限大の減衰を与えるのでω∞とすると、

\begin{eqnarray}<br />\omega_{\infty}&=&\frac{1}{\sqrt{\left(\frac{1-m^2}{4m}L\right)\left(m C\right)}}\\<br />&=&\frac{\omega_0}{\sqrt{1-m^2}}\\<br />\omega_0&=&\frac{2}{\sqrt{L C}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。ω0は元の定K形フィルタ回路の遮断周波数であることは今まで学んだ通り。

同様にして右のπ形回路に関してもシリーズのLC並列回路の反共振点でインピーダンスが無限大になり出力に電流が一切流れなくなるため無限大の減衰を与えることになる。

今度は元になっている定K形回路のZ1とZ2をパラメータとして変化させて減衰特性を解析してみよう。

定K形フィルタと同様に今度は導出されたインピーダンスZ1',Z2'によってパラメータx'を以下のように定めると

\begin{eqnarray}<br />{x^{\'}}^2&=&\frac{-Z_{1}^{\'}}{4 Z_{2}^{\'}}=\frac{-m Z_1}{4\left[\frac{1-m^2}{4m}Z_1+\frac{Z_2}{m}\right]}\\<br />&=&\frac{-m^2}{1-m^2+4\frac{Z_2}{Z_1}}\\<br />&=&\frac{m^2}{-\left(1-m^2\right)+\frac{1}{x^2}}\\<br />x^2&=&\frac{-Z_1}{4 Z_2}<br />\end{eqnarray}

ということになる。ここでxは元の定K形フィルタのパラメータである。従って、

\begin{eqnarray}<br />x^2&=&\frac{1}{1-m^2}<br />\end{eqnarray}

が成り立つ場合にx'が無限大の値を取り、減衰量(cosh^-1 x')が無限大となる。無限大の減衰量を与えるxをx∞と置くと、

\begin{eqnarray}<br />x_{\infty}^2&=&\frac{1}{1-m^2}<br />\end{eqnarray}

これを用いて先のx'の式を書き換えると

\begin{eqnarray}<br />{x^{\'}}^2&=&\frac{m^2}{-\frac{1}{x_{\infty}^2}+\frac{1}{x^2}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。ここで上記の式は、xが定K形フィルタに関連した正規化周波数、x'が誘導m形フィルタに関する正規化周波数とするxに関する関数で、x∞がx'を無限大にするxの値、mが誘導m形フィルタ回路の定数である。この関数をxがx∞未満の時、それからx'^2が負の時、xがx∞より大きくx'^2が正の時に関して評価する。これら3つの条件に通過域、減衰域、それに減衰量の式を関係づけるために、定K形フィルタの時のように表で要約する。

\begin{eqnarray}<br />\begin{array}Sign\, of & Limits\, of & Type\, of & Attenation & Phase\, shift\\<br />{x^{\'}^2} & x^2 & band & & \theta \\<br />positive & 0\le x^2 \le 1 & pass & \alpha=0 & \beta=2\,sin^{-1}\,x^{\'}\\<br />positive & 1\le x^2\le {x_{\infty}}^2 & stop & \alpha=2\,cosh^{-1}\,x^{\'} & \pm\pi\\<br />negative & {x_{\infty}}^2\le x^2\le\infty & stop & \alpha=2\,sinh^{-1}\,\sqrt{\frac{Z_{1}^{\'}}{4 Z_{2}^{\'}}}=2\,sinh^{-1}\,j\,x^{\'} & 0\end{array}<br />\end{eqnarray}

またしてもValkenburgの著書に誤植を発見。x^2の範囲でx∞とあるのはx∞^2でなければならないはず。(2011/6/5 それとx'^2が正のケースでのαの式が不適切だったので、定K形フィルタの時の解析結果に立ち戻って正しい形に書き直した。)

以下のx∞とxをパラメータとして変化させた場合の減衰量と位相量のグラフをプロットすると

\begin{eqnarray}<br />x^{\'}&=&\frac{m}{\sqrt{-\frac{1}{{x_{\infty}}^2}+\frac{1}{x^2}}}\,\,\,x_{\infty}=\frac{1}{\sqrt{1-m^2}}<br />\end{eqnarray}

m=0.6としてプロットすると、



ということになる。比較するためにm=1として元の定K形フィルタ回路のそれと同様にプロットすると



確かに比べると誘導m形フィルタでは減衰量(α)の立ち上がりが遮断周波数(通過域と減衰域の境界)に近いω∞近傍で急峻になっていることがわかる。

それ以外の点では、誘導m形の場合、xが大きくなればなるほどαminという最小値に近づくのに対して、定K形ではαは大きくなる一方である。

誘導m形フィルタと定K形フィルタはそれぞれ長所と短所があるが、同じ映像インピーダンスを持つのでそれらを組み合わせた複合フィルタを作ると互いの欠点を長所で補い合うことが可能である。

誘導m形フィルタではx=x∞で位相定数がπと0との間を変化する不連続点が現れる。またx∞以上では位相定数は0となり位相推移がまったく生じないことを意味する。

またx∞を1に限りなく近づけるほど(mを0に近づければ近づけるほど)、遮断周波数近傍の減衰が急峻となることが予想される。m=0とするとはたしてどうなってしまうのだろうか?

それとαminなる値はxがx∞以上の場合の位相定数の式から

\begin{eqnarray}<br />\alpha_{min}&=&\lim_{x\to\infty}2\,sinh^{-1}\,j\,x^{\'}=\lim_{x\to\infty}2\,sinh^{-1}j\,\frac{m}{\sqrt{-\frac{1}{{x_{\infty}}^2}+\frac{1}{x^2}}}\\<br />&=&2\,sinh^{-1}j\,\frac{m}{\sqrt{-\frac{1}{{x_{\infty}}^2}}}\\<br />&=&2\,sinh^{-1}j\,\frac{m}{\sqrt{\frac{-1}{\frac{1}{1-m^2}}}}\\<br />&=&2\,sinh^{-1}\frac{m}{\sqrt{1-m^2}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

あるいは複素双曲線関数の公式から

\begin{eqnarray}<br />cosh^{2}\,\frac{\alpha_{min}}{2}&=&1+sinh^{2}\,\frac{\alpha_{min}}{2}=1+\frac{m^2}{1-m^2}=\frac{1}{1-m^2}\\<br />tanh\,\frac{\alpha_{min}}{2}&=&\frac{sinh\,\frac{\alpha_{min}}{2}}{cosh\,\frac{\alpha_{min}}{2}}=\frac{\frac{m}{\cancel{\sqrt{1-m^2}}}}{\frac{1}{\cancel{\sqrt{1-m^2}}}}=m\\<br />\alpha_{min}&=&2\,tanh^{-1}\,m<br />\end{eqnarray}

ということになる。

最後の式からmが0に近づくにつれαminもまた0に近づくことになる。大小2つのmに関してαをプロットして比較してみると



mが小さくなるαminも小さくなっていき、m=0では0となることもわかる。つまりあまりmを0に近づけても遮断周波数近傍の減衰域は急峻になるものの、それ以外の減衰域ではほとんど減衰しないという都合の悪いものになってしまう。

従って対称T字形フィルタや対称π形フィルタで構成される誘導m形フィルタの場合で取り得るmの値の範囲は

\begin{eqnarray}<br />0\,\lt\,m\,\lt\,1<br />\end{eqnarray}

ということになる。

(この制限はラダー回路フィルタのみにあてはまる。1よりも大きなmは線形位相特性を持つ格子形回路に使用される。)

Zobelの誘導m形フィルタに関する特許明細文書を読むと、確かに導出に関してはValkenburgが記述しているのとあっている。ただその後の性能評価に関するValkenburgの議論はZobelの特許が映像インピーダンスを直接評価している点と大きく異なるため独自の解釈法に基づくものと思われる。特許の文章では数式を除いては一貫して大文字のMが用いられていることも驚きだ。

Zobel, O J, Electrical wave filters, U.S. Patent 1,850,146, pp. 2–3, filed 25 Nov 1930, issued 22 Mar 1932.

申請は1930年だが公開年が1932年のスタンプがついている。Zobelは誘導m形だけでなく誘導mm'形という定K形から誘導m形を導出したのと同じ過程を誘導m形に対して適用することで得られるフィルタも一緒に申請している。誘導mm'形はあまり紹介されることはないが、誘導m形よりも更に通過域のインピーダンスがフラットだという特徴がある。そのためその半回路(逆L字形回路)を定抵抗終端とのインピーダンス整合に用いることができる。同じ過程を更に繰り返すことも可能だが、素子数が増えるだけでほとんど変わらないためこの特徴のある2つだけ申請したと思われる。後に誘導m形回路の半回路についても有用な特性があるので最後に紹介しよう。

誘導m形半回路(もしくはL)の映像インピーダンス

これまで登場した対称T字形フィルタや対称π形フィルタはいずれもその元となる定K形フィルタと同じ映像インピーダンスを持ったものだった。それらを2つの半回路に分割した場合、意外な映像インピーダンス特性を持つことが発見された。これはあくまでおまけの効果で、元々の誘導m形フィルタに求められていたものではなかったと思われる。

対称T字形フィルタや対称π字形フィルタを二分割するとそれぞれ異なる非対称L字形回路となる。これは定K形フィルタでは同一のL字形回路が現れるのとは対照的である。このため半回路の映像インピーダンスは定K形フィルタの場合とは異なってくる。定K形フィルタの場合は対称T字回路の映像インピーダンスと対称π形回路の映像インピーダンスを持っていたが、誘導m形フィルタの場合は、2つの映像インピーダンスの片方は定Kフィルタと同じZiTかZiπになるが、もう片方はそれとはまったくユニークなものになる。回路図で表すと、



ということになる。

ここでZiTmは

\begin{eqnarray}<br />F&=&\left[\begin{array}1 & 0\\ \frac{1}{\frac{1-m^2}{2 m}Z_1+\frac{2}{m}Z_2} & 1\end{array}\right]\left[\begin{array}1 & \frac{m}{2}Z_1\\ 0 & 1\end{array}\right]=\left[\begin{array}1 & \frac{m}{2}Z_1\\ \frac{2\,m}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1} & \frac{4\,Z_2+Z_1}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1}\end{array}\right]\\<br />F_i&=&\left[\begin{array}\frac{4\,Z_2+Z_1}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1} & \frac{m}{2}Z_1\\ \frac{2\,m}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1} & 1\end{array}\right]\\<br />F_{Tm}&=&F F_i=\left[\begin{array}1 & \frac{m}{2}Z_1\\ \frac{2\,m}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1} & \frac{4\,Z_2+Z_1}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1}\end{array}\right]\left[\begin{array}\frac{4\,Z_2+Z_1}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1} & \frac{m}{2}Z_1\\ \frac{2\,m}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1} & 1\end{array}\right]\\<br />&=&\begin{bmatrix}\frac{4\,Z_2+\left(1+{m}^{2}\right)\,Z_1}{4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1} & m\,Z_1\cr \frac{4\,m\,\left( 4\,Z_2+Z_1\right) }{{\left( 4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1\right) }^{2}} & \frac{4\,Z_2+\left(1+{m}^{2}\right)\,Z_1}{4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1}\end{bmatrix}\\<br />Z_{iTm}&=&\sqrt{\frac{B}{C}}=\sqrt{\frac{\cancel{m}\,Z_1{\left( 4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1\right) }^{2}}{4\,\cancel{m}\,\left( 4\,Z_2+Z_1\right)}}=\sqrt{\frac{\cancel{4^2}\,Z_1 {Z_2}\cancel{^2}{\left( 1+\left(1-{m}^{2}\right)\,\frac{Z_1}{4 Z_2}\right) }^{2}}{\cancel{4^2}\,\cancel{Z_2}\left(1+\frac{Z_1}{4 Z_2}\right)}}\\<br />&=&\left( 1+\left(1-{m}^{2}\right)\,\frac{Z_1}{4 Z_2}\right)\sqrt{\frac{Z_1 {Z_2}}{1+\frac{Z_1}{4 Z_2}}}\\<br />&=&R\frac{\left(1-\left(1-m^2\right)x^2\right)}{\sqrt{1-x^2}}\\<br />R^2&=&Z_1 Z_2\\<br />x^2&=&\frac{-Z_1}{4 Z_2}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

同様にZiπmは

\begin{eqnarray}<br />F&=&\begin{bmatrix}1 & \frac{1}{\frac{1-{m}^{2}}{2\,m\,Z_2}+\frac{m}{2\,Z_1}}\cr 0 & 1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1 & 0\cr \frac{m}{2\,Z_2} & 1\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}\frac{4\,Z_2+Z_1}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1} & \frac{2\,m\,Z_1\,Z_2}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1}\cr \frac{m}{2\,Z_2} & 1\end{bmatrix}\\<br />F_i&=&\begin{bmatrix}1 & \frac{2\,m\,Z_1\,Z_2}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1}\cr \frac{m}{2\,Z_2} & \frac{4\,Z_2+Z_1}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1}\end{bmatrix}\\<br />F_{i\pi m}&=&F F_i=\begin{bmatrix}\frac{4\,Z_2+Z_1}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1} & \frac{2\,m\,Z_1\,Z_2}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1}\cr \frac{m}{2\,Z_2} & 1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1 & \frac{2\,m\,Z_1\,Z_2}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1}\cr \frac{m}{2\,Z_2} & \frac{4\,Z_2+Z_1}{4\,Z_2+\left( 1-{m}^{2}\right) \,Z_1}\end{bmatrix}\\<br />&=&\begin{bmatrix}\frac{4\,Z_2+\left(1+{m}^{2}\right)\,Z_1}{4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1} & \frac{4\,m\,Z_1\,Z_2\,\left( 4\,Z_2+Z_1\right) }{{\left( 4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1\right) }^{2}}\cr \frac{m}{Z_2} & \frac{4\,Z_2+\left(1+{m}^{2}\right)\,Z_1}{4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1}\end{bmatrix}\\<br />Z_{i\pi m}&=&\sqrt{\frac{B}{C}}=\sqrt{\frac{4\,\cancel{m}\,Z_1\,{Z_2}^2\,\left( 4\,Z_2+Z_1\right) }{{\cancel{m}\left( 4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1\right) }^{2}}}=\frac{2\,\sqrt{Z_1}\,{Z_2}\,\sqrt{4\,Z_2+Z_1}}{\left( 4\,Z_2+\left(1-{m}^{2}\right)\,Z_1\right)}\\<br />&=&\frac{\sqrt{Z_1\, Z_2}\sqrt{1+\frac{{Z_1}}{4\,Z_2}}}{\left( 1+\left(1-{m}^{2}\right)\,\frac{Z_1}{4\,Z_2}\right)}\\<br />&=&R\frac{\sqrt{1-x^2}}{\left(1-\left(1-m^2\right)x^2\right)}\\<br />R^2&=&Z_1 Z_2\\<br />x^2&=&\frac{-Z_1}{4 Z_2}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

それぞれの映像インピーダンスをいくつかmを変えてxに関してプロットしてみると



同じ表側の映像インピーダンスZiTを持つ定K形フィルタ(m=1の場合)と比べると、m=0.6の誘導M形フィルタの半回路である逆L字形フィルタの裏側の映像インピーダンスは通過域でフラットなインピーダンス特性を示している。これはこの回路を定K形フィルタや誘導M形フィルタを組み合わせた複合フィルターの両端に使用すると定抵抗Rで終端した場合でも通過域でインピーダンス不整合が最小で済むという長所を持つ。

同様に対称π形フィルタの半回路についてもプロットしてみると



やはり同様にm=0.6の時が通過域での映像インピーダンスがフラットな特性となっている。

このことから定K形フィルタの利点(xが∞に極を持つ)と欠点(遮断周波数近辺の減衰の立ち上がりが緩やか)と誘導M形フィルタの利点(遮断周波数付近の減衰の立ち上がりが急峻)と欠点(xが∞に近づくにつれ減衰定数がαminに近づく)は2つのフィルタを組み合わせることで補完し合うが、通過域での映像インピーダンスがフラットではないため、どちらかの半回路を両端に接続することによって通過域での映像インピーダンスをフラットにすることができる。定K形フィルタおよび誘導M形フィルタの対称T字形回路と対称π形回路、およびそれらの半回路を組み合わせたラダー回路として古典フィルタが設計されたことが納得がいく。

電気回路理論でのフィルタ理論はここまでだが、Valkenburgの議論はこの後、複合フィルタ回路(composite filter)の設計法の議論に入って行く。

P.S

日本では何故にいつ頃から誘導M形フィルタと呼ばれるようになったのか謎が解けていないが、誘導M形フィルタで検索するといくつかの学校では"誘導M形変換"として教えているところもあるらしい。これは興味深い。というのも、元々定K形フィルタ回路にmをまぶして変換したものが誘導M形フィルタ回路であるわけなので、なんらかの変換操作ととらえることが自然である。

ところで誘導というと電気回路理論ではInductionとかで既に広く使われているのでderivedの訳としては適切ではないと思うのだが、数学の世界では誘導とあるのはinducedの対訳として存在する。derivedというのは既に挙げた通りderived functionという古い用語の他に新しくはDerived Algebraic Geometryというものがある。どんなものか知りたいがとても敷居が高そうなのでまたの機会にする。

単純に考えても定K形フィルタから誘導M形フィルタへの変換は線形変換では表せない。ならばどう表現するのか。またその逆の変換はあるのか、とか興味は尽きない。映像伝達関数を多変数関数として解析するあたりは、これからもいろいろな機会で役立つと思うのだが、すでに教えられる機会が無くなってしまったのは残念だ。整理された結論の式だけを追ってもおそらく表層的な理解にとどまるか、数年で忘れてしまうだろう。しかし数学的な解析手法は一生忘れることはない。今回定K形フィルタから誘導M形フィルタを導出するプロセスを知ることによって、それが後に別の様々なシーンで役立ちそうな予感がし、おそらく一生忘れることはないと思われる。最終的な映像インピーダンスの式を忘れても、自分でまた導出する方法は忘れないからである。

P.S

Zobelをはじめどの本にもmは正の実数であることを前提とした議論にとどまっている。ふと、mを複素数の範囲に拡張したらどうなるのだろうか。そう考えた時、一瞬だけ先人を超えたような気分になれる。単純にmが準虚数をとると、リアクタンスは正か負の抵抗に変わるが。しかし映像パラメータは変わらない。半世紀前はこうした議論は無意味だったかもしれない。しかし負性抵抗が理想ジャイレーターや理想オペアンプで実現できることがわかっている現代では新たな意味を持つのではないだろうか。mが複素数だとZ1'やZ2'はインピーダンスになるがZ1,Z2が誘導性か容量性かによって正負性抵抗を伴うインピーダンスとなる。これはちょっと素子数が増えるので使い勝手は悪いかもしれない。しかし解析すれば、予想もしない特徴が見いだせるかもしれない。そうした解析の楽しみは読者の課題として残して置くことにしよう(´∀` )

webadm
投稿日時: 2011-6-10 5:50
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登録日: 2004-11-7
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複合フィルタ(composite filter)
フィルタの章に関してはこれまでメインテキストとしていた「詳解 電気回路演習(下)」に代えて、M. E. VAN VALKENBURGの半世紀前の著書「NETWORK ANALYSIS」の"CHAPTER 13, TWO-TERMINAL-PAIR REACTIVE NETWORKS(FILTERS)"をテキストとして学ばさせて頂いている。前者のフィルタの章は他の電気回路本と同様に逆L字回路での解析結果だけを示すだけでその導出については触れられていない。

今日的には古典フィルタを設計する機会は少ないかもしれないが、先人はここから学んできているため、近代のフィルタ理論もそうしたバックグラウンドがあってこそ優位点を理解できるはずである。

古典フィルタの定K形、誘導M形はどちらも特性に一長一短があるが、2種類を併用すると互いの長所が互いの欠点を補い合う、また誘導M形の半回路(逆L字)を端に使用すると公称インピーダンスを持つ定抵抗で終端しても通過域でのインピーダンス不整合を最小にすることができる。従ってこれらの3種類の基本フィルタ回路を縦続接続することによる複合フィルタ(composite filter)設計をどうしても学ばないと意味が無い。



これまで結合フィルタと勝手に訳していたが、専門用語辞書を見るとどうやらcomposite filterの正式な訳は複合フィルタだったらしい。以前に書いた箇所をこっそり修正したのは内緒だ。

複合フィルタでは、これまで学んだ、
・定K形フィルタ回路(T字、π形)
・定K形フィルタ半回路(T字の半回路、π形の半回路)
・誘導M形フィルタ回路(T字、π形)
・誘導M形フィルタ半回路(T字の半回路、π形の半回路)
の8種をプロトタイプ(prototype)フィルタと呼び、それらを複数縦続接続してラダー形フィルタを構成する。

複合フィルタをこれらのプロトタイプフィルタを組み合わせて構成するために守るべきことは
(1)それぞれのプロトタイプフィルタ間で映像インピーダンスが整合すること
(2)それぞれのプロトタイプフィルタの減衰特性は目的とする複合フィルタ全体での減衰特性を満足するように選択すること
の2点である。

具体例から考えよう。定K形プロトタイプフィルタをひとつと誘導M形プロトタイプフィルタをひとつを縦続接続した以下の様な低域通過フィルタを構成するものとする。



定K形プロトタイプが中央に、誘導M形プロトタイプは通過域でのインピーダンス整合をよくするためにT字回路を二分割して裏側を外向きに接続し、入出力端は公称インピーダンスRをもった定抵抗で終端できるようにする。プロトタイプフィルタ間は映像インピーダンス整合がとれている。入出力端が定抵抗終端なので厳密には整合がとれていないが、映像インピーダンスで終端した場合とおおよそ近い。x=ω/ω0に対してプロットすると




複合フィルタ全体での減衰定数は、それぞれのプロトタイプフィルタの減衰定数の和となる。

\begin{eqnarray}<br />\alpha_{t}&=&\alpha_{k}+\alpha_{m}<br />\end{eqnarray}



位相定数も同様に

\begin{eqnarray}<br />\beta_{t}&=&\beta_{k}+\beta_{m}<br />\end{eqnarray}



複合フィルタの入力インピーダンスと減衰特性は定K形フィルタや誘導M形フィルタ単独よりも凌いでいる。定K形フィルタと誘導M形フィルタのそれぞれの直列インピーダンスが共に減衰を強める方向に働くからである。


一部のケースでは、上の構成でも遮断周波数近辺での傾きが足らず十分な減衰特性が得られない場合がある。このケースでは2つ以上の誘導M形フィルタを映像インピーダンス整合と併せて使用する。回路図で表すと



プロトタイプとなる定K形(π)フィルタとm=0.3の誘導M形(π)フィルタが中段に、初段と終段はm=0.6の誘導M形(π)を二分割した半回路をインピーダンス整合のために内向きに接続されている。

このフィルタの減衰定数はそれぞれのフィルタの減衰定数の総和となるので

\begin{eqnarray}<br />\alpha_t&=&\alpha_k+\alpha_m\left(0.3\right)+\alpha_m\left(0.6\right)<br />\end{eqnarray}

ということになる。同様に特性をプロットしてみると





ということになる。位相定数に関してプロットするのは読者の課題としよう( ´∀`)

厳密には終段が映像インピーダンスではなく定抵抗Rで終端されているため、上記のプロットは映像インピーダンスで終端した場合の理想特性ということになる。

終端を定抵抗Rとすることによる影響については後ほど議論する。

ここまでの解析結果から複合フィルタの設計手法に関して

(1)最初に、周波数の関数としての減衰定数に対する要求仕様を決めなければならない。減衰定数の仕様は以下の式の様に定K形フィルタと誘導M形フィルタのいくつかの組み合わせで満足される可能性がある。

\begin{eqnarray}<br />\alpha_t&=&A\,\alpha_k+\sum_{j=1}^{n}B_{j}\,\alpha_{m j}<br />\end{eqnarray}

ここでAは定K形回路の数、Bjは特定のmを持った誘導M形回路の数、nは異なるmの数である。通常、必要とされる定K形回路の数や誘導M形回路の数を決定する一意的な方法は無いので、試行錯誤が要求を満たす答えを得るのに必要とされる。

(2)定K形回路プロトタイプを選択し、素子定数を求める。この素子定数から、残りすべての誘導M形回路の素子定数を求める。

(3)少なくともm=0.6を持つひとつの誘導M形フィルタ回路をフィルタの初段と終段に入れる。これによって最適な映像インピーダンス特性が得られる。

(4)選択したプロトタイプのタイプと使用される回路の数は通常コスト面の配慮で制限される。

と言える。

終端の問題

定K形フィルタや誘導M形フィルタおよびそれらの半回路は互いに共通の映像インピーダンスで整合した形で接続することが出来る。しかしそれは前段と後段がそれぞれ映像インピーダンスで終端されることを前提としている。そうした映像インピーダンスと同じ特性を持つように複合フィルタの前後に接続される回路の入力インピーダンスや出力インピーダンスを設計することは困難である。一番簡単なのは定抵抗で終端することである。定K形フィルタや誘導M形フィルタの映像インピーダンスは

\begin{eqnarray}<br />Z_{iT}&=&R\sqrt{1-x^2}\\<br />Z_{i\pi}&=&\frac{R}{\sqrt{1-x^2}}\\<br />Z_{iTm}&=&R\frac{1-\left(1-m^2\right)x^2}{\sqrt{1-x^2}}\\<br />Z_{i\pi m}&=&R\frac{\sqrt{1-x^2}}{1-\left(1-m^2\right)x^2}<br />\end{eqnarray}

で表される。xが0に近づくといずれもRに収束するのと、誘導M形ではm=0.6で通過域の映像インピーダンスがRとして近似出来ることから定抵抗終端の値Rは定K形フィルタの条件より

\begin{eqnarray}<br />R^2&=&+Z_{1}Z_{2}<br />\end{eqnarray}

で定まる。

Valkenburgは著書の注釈で、誘導M形π半回路ではRりも若干小さく、誘導M形T半回路ではRよりも若干大きくするとより良い近似となると書いている。その理由を考えるのは読者の課題としよう( ´∀`)

問題は定抵抗Rで以下の図の様にこれまで学んで来た複合フィルタを終端すると映像インピーダンスの前提が崩れてしまうのでこれまで議論してきた特性がどうなってしまうのだろうかという点である。



ここまでの理論では(1)回路中の素子値は乖離が無い、(2)互いに映像インピーダンスで整合している、ことを前提としてきた。実際の回路では素子は理想的なinductanceやcapacitanceから乖離して損失(抵抗)を伴う。その場合どうなのだろうか?また終端を映像インピーダンスではなく公称インピーダンスRで置き換えることによる影響は?

最初の疑問に関しては乖離が有限範囲にとどまる限りにおいて特性上の大きな乖離は生じないことが判っている(素子感度が低い、という)。たとえばinductanceの抵抗分によってQが低下しても15を超えるならば実用上許容範囲内である。実際に確かめるのは読者の課題としよう( ´∀`)

第二の疑問に関しては先の信号源と負荷の間にフィルタを挿入した場合にもたらされる損失、挿入損失(insertion loss)を定義する必要がある。挿入損失は以下の式で定義される。

\begin{eqnarray}<br />e^{N}&=&\left|\frac{I_{2}^{\'}}{I_{2}}\right|<br />\end{eqnarray}

ここでNは挿入損失で単位はネーパー、I2'は信号源に直接負荷を接続した場合に流れる電流、I2はフィルタを挿入した場合に負荷に流れる電流とする。挿入損失を数値計算する際に、I2'=I1とする。すなわち、信号源から流れ出す電流はフィルタを挿入してもしなくても変化ないものと仮定する。そうすると挿入損失は回路全体の電流伝達比から導くことができる。

最初に登場した複合フィルタを例に実際に挿入損失を計算しプロットしてみよう。

回路全体の伝送行列をFとすると、短絡電流伝達比は

\begin{eqnarray}<br />\begin{bmatrix}V_1\cr I_1\end{bmatrix}&=&\begin{bmatrix}A & B\cr C & D\end{bmatrix}\begin{bmatrix}V_2\cr I_2\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0\cr I_2\end{bmatrix}\\<br />&=&\begin{bmatrix}B I_2\cr D I_2\end{bmatrix}\\<br />\frac{I_1}{I_2}&=&D<br />\end{eqnarray}

ということになる。

(2011/7/17)
ふう、あっという間に一ヶ月以上間が開いてしまった。研究も勉強も進まなくても継続して考え続けることが大事で、一端まったく休止してしまうと休止する前に戻るのが億劫になる。毎日問題だけでも忘れないように記憶をリフレッシュする時間を作って後退だけはさせないようにすべきだ。

ここでValkenburgは誘導m型と定K形から成る同じ低域通過フィルタの両端を影像インピーダンスで終端した場合と、公称インピーダンス(R)で終端した場合の挿入損失のグラフをプロットして比較している。




自分でプロットしてみると公称インピーダンスで終端した場合のプロットがValkenburgのと異なる点にだいぶ嵌ってしまっているためだ。



通過領域ではインピーダンス不整合によってわずかであるがリップルが生じている点は合っている。通過領域だけを拡大プロットし直してみると



確かにω/ω0=0.5あたりに減衰のピークがあり、その右に零点があって、今度は減衰ではなくゲインのピークが現れている。

ピークゲインが存在すること、減衰域での減衰定数と挿入損失との優劣関係が交代する周波数があることが、それらが無く挿入損失Nが全般的に減衰定数よりも特定的に劣化している(通過領域で挿入損失があり、阻止領域で挿入損失が減衰定数を下回ることを示している)Valkenburgのプロットとは異なっている。

全般的に公称インピーダンス(R)で複合フィルタの両端を終端しても特性として致命的な乖離が生じることは無いことがこれで確かめられる。

さてこのプロットの仕方が間違っているのか、それともValkenburgのプロットとやり方が違うのか釈然としない点が残る。おそらくValkenburgの執筆年代では計算機が無かったので、挿入損失の式の零点を求めて原点と途中の零点と極を結ぶ高次の曲線を雲形定規で適当に補間しながら描いたのではないかと思われる。

挿入損失Nのプロットに使用した式は、回路から伝送行列を求め、その短絡伝達係数Dの絶対値を対数変換したものを使用し、影像インピーダンスで終端した場合の減衰定数αは複合フィルタの両端に影像インピーダンスをシリーズに接続した対称二端子対回路の伝送行列の短絡伝達係数Dの絶対値を対数変換したものを使用した。式の導出およびプロットにはMaximaを使用した。読者自身で式をたててプロットしてみることを推奨するので、ここでは具体的な式は伏せておくことにしよう( ´∀`)

影像インピーダンスで両端を終端した場合の減衰定数αは複合フィルタの伝送行列の固有値の絶対値そのものである。Maximaで複合フィルタの伝送行列の固有値をMaximaで求めて、その絶対値の対数をプロットする方法でも同じ結果が得られた。実際に読者が手を使って確かめてみることを強く推奨する( ´∀`)

グラフの極の数が1つの場合はまだ式が簡単だが、上の例にある誘導m形フィルタを二種類使ったものは式が複雑となり、Maximaでも簡単にはプロットできない。こちらはまだ逆双曲線関数を使ってプロットする方法が簡単である。昔の人は計算機こそもってなかったが知恵があった。

さすがにそれでも極や零点が複数ある楕円関数フィルターとなると手計算では困難となる。これらの応用は計算機の登場を待たねばならなかった。
webadm
投稿日時: 2011-7-18 1:22
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登録日: 2004-11-7
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投稿: 3107
抵抗減衰器
さて元のテキスト「詳解 電気回路演習(下)」の内容を無視してValkenburgの著書から古典フィルタ理論を詳しくまなんだが、元のテキストでは最後に抵抗減衰器を紹介している。

いわゆる抵抗アッテネーター(attenuator)と称されるものである。

使用される回路網によって平衡形と不平衡形がある。

平衡形はH形やO形、不平衡形はT形とπ形である。



これは二端子対回路の伝送行列の要素がすべて実数であるため、周波数によらずパラメータは常に実数となる。LC回路のみから成る二端子対回路のZ行列やY行列はすべての要素が純虚数であることから歪Hermitian行列であったが、抵抗のみからなる二端子対回路はちょうどその逆ですべての要素が実数であるHermitian行列ということになる。線形代数で習ったことを時々思い出すように心がけよう。

Hermittian行列の固有値は実数であるので、影像伝達定数もまた実数となる。

従って周波数によらず常に一定の減衰定数を持つことになる。

抵抗減衰器が非対称回路で構成される場合、2つの影像パラメータは互いに異なる実数値を持つことになる。これは異なる特性インピーダンスを持つ入力と出力の整合を行うことを可能にする。ただし抵抗で出来ているので電力を消費し必ず一定の挿入損失が伴う。広帯域のインピーダンス変換(例えば50Ωと75Ωのインピーダンス変換)が必要とされる場合には抵抗減衰器が用いられる。そうでない特定の帯域だけでインピーダンスを整合する場合には挿入損失の低いLC回路や分布定数回路が用いられる。



上の回路が影像インピーダンス整合されている場合

\begin{eqnarray}<br />Z_{i1}&=&Z_S=\sqrt{\frac{A B}{C D}},\,\,\,Z_{i2}=Z_L=\sqrt{\frac{D B}{C A}}\\<br />e^{\theta}&=&e^{\alpha}=k=sqrt{A D}+sqrt{B C}<br />\end{eqnarray}

が成り立つ。

回路が対称な場合、伝送行列の要素AとDは等しいことから

\begin{eqnarray}<br />Z_{i1}&=&Z_{i2}=Z_S=Z_L=sqrt{\frac{B}{C}}\\<br />\alpha&=&ln\,k=ln\left(A+sqrt{B C}\right)<br />\end{eqnarray}

従って電源と負荷のインピーダンス、Zs,ZL、それに減衰比kが与えられれば、それを実現する抵抗減衰器の4端子定数が定まり、その抵抗値も定まることになる。

本当は近代的なフィルタ理論を学びたいところだが、別の機会にしよう。

これで古典フィルタ理論は終わり、演習問題に臨むことにする。

P.S

更にフィルタ理論を勉強したい人には同様の減衰定数αと挿入損失Nの比較プロットを、(1)入力端に信号源と直列に公称インピーダンスRを挿入し出力を開放端にした場合(R-∞型構成)、(2)入力端に信号源を直接接続し出力を公称インピーダンスRで終端した場合(0-R型構成)についても行ってみよう。先の比較では両端が公称インピーダンスRで終端するケース(R-R型フィルタ)と呼ばれ、回路素子の定数が乖離しても特性が変化しにくい(素子感度が低い)特徴を持っている、(1),(2)と比較して本当にそうかどうか確かめてみるとおもしろいかもしれない。これに関しては以前に紹介したフィルタ理論の入門書「線形回路理論」高木茂孝 昭晃堂、の"抵抗量終端型LCフィルタの素子感度"に興味深い証明が載っている。
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