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投稿者 スレッド
webadm
投稿日時: 2011-9-22 13:23
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3107
過渡現象
上巻の交流回路理論からフィルタ理論までは主に周波数領域での回路解析が中心だったが、今度は一転して時間領域での回路解析に足を踏み入れることになる。

複素周波数が登場してからはインピーダンスの式にもっぱら複素周波数sをjωの代わりに用いてきたのは、前者の方が式を整理する際に他の係数や変数と同様に記号として扱うことができ、複素数としての例外を当面考えなくて済むという便利さがあった。

複素周波数はs=α+jωであり、実数部は時間領域での振幅の指数関数的変化を表し、虚数部は周波数軸上の座標を示すので、α=0とおけばs=jωとなり、周期をもった定常状態の繰り返し応答だけを扱うことになる。これは今まで扱ってきたやり方である。s=0(α=0かつω=0)は上巻で最初に学んだ直流解析となる。

今度からは繰り返し性のないα≠0(ω=0なら直流、ω≠0なら交流)の場合を扱うことになる。

いろいろな本を見比べると、大抵は上巻でインダクタンスとキャパシタンスが最初に登場した時のように数学の微分積分を使って回路方程式を表していたように、いきなり数学の微分積分の前提知識があることを前提としたスタイルになっている。実はこれがおそらくは若い学生にとって試練となるだろう。それが伝統的な教授法となっているような気がする。

歴史的には微分積分の概念が確立するのに非常に長い年月を要しているが、数学で微分積分を教えるときも、工学でそれを利用するときも、歴史的な順序に従ってではなく、いきなり結論から切り出すことが当たり前になっている。そうすることによって講義時間の大部分を微分積分の概念を理解するのに費やされることが避けられるからだ。それらの理解はもっぱら受講者に委ねられている。

手元のドイツの理論電気学の古本も最初の持ち主は日本人でこれで勉強しようと試みたようで、最初の部分には熱心に万年筆や赤鉛筆で細かな書き込みがしてある。もしかしてドイツの大学から持ち帰ったものかもしれない。しかし簡単な直流抵抗回路とキルヒホッフの法則の後にいきなり微分方程式がわんさか登場するあたりから書き込みがぱったり無くなって綺麗なページばかり続いている。持ち主はドイツ語には堪能だったらしいが、微積分の知識は皆無だったと見える。そのページで挫折したのは想像に難くない。

学生の分際であればそれに従うしかないのであるが、もはや学生ではないので、そうした流儀に従う必要はないと考える。自分の納得のゆくやり方で理解するのが一番である。

ということでまたしても卓袱台をひっくり返す形で始まるのであるが、過渡現象をどこから考え始めたらよいか自分が納得のゆくスタートポイントを見いだすことからはじまる。

率直に現状を告白すると、上巻でインダクタンスやキャパシタンスが登場したときのことをすっかり忘れてしまっている。当時は天下りに近いかたちで書き写すのが精一杯だったようだ。自分ではあんちょこを見ながらでないと誰かに説明できないのである。本当は何も見ず、何も手にもたずに、黒板にすらすらとことの始まりから説明できるのが理想だ。

一方で伝統的なスタイルに関しても目を通す必要がある。なにか抜け落ちていたりしないかどうかはチェックしたい。

下巻では著者は、Valkenburgのスタイルとよく似た章立てをしている。具体的には最初は一次の導関数を伴う線型微分方程式で扱える回路の過渡現象を解析する。次にちょっと面倒な二階以上の微分方程式を解くためにLaplace変換を導入する(昔はここで演算子法が導入されていたが、徐々にLaplace変換に置き換えられている)。

その後に、日本独特の分布定数回路の定常状態(周波数領域解析)と過渡現象(時間領域解析)が登場する。ものの本によっては、二端子対回路(伝送回路)をやったあとに分布定数回路が登場するものがある。その方がつながりとしてスムーズであるとも言える。ただし分布定数回路の過渡解析は難しいので一般の回路の過渡解析の後に成らざるを得ない。

数学の微分方程式がツールとして用いられるのだが、伝統的なスタイルでは数学が主で工学が後追いみたいな形に読めるのは否めない。そもそも数学での微分方程式の扱いも応用数学という意味合いが強く、解法も最終的な解が既知の初等関数のどれになるか推定する方法が堂々と使われていたりする。ちょっとがっかりする。これも結論が先にあって、辻褄合わせで埋めている感じが否めない。なぜそうするかと聞いても、「自然界には初等関数で表されるものが数多く存在するから」ということらしい。これは歴史的な過程はすっとばして結論だけを利用しているに過ぎない。

とは言え、微分方程式のことの始まりを歴史的にたどると大変時間を要するので考え物だ。多数の数学者が長い年月を経て関わっているからだ。それでもその追体験をする意味はあると確信している。

歴史をひもとけば、電気回路の解析に微分方程式が登場したのは電信と海底ケーブルの時代に、Thomsonが最初であろう。電信技師だったHeavisideはデンマークでの電信業務で長距離電信伝送の誰も説明できない信号現象を目の当たりにしてその謎に迫ろうとしていた。その後統一されていなかった電磁気理論を統一することに成功したMaxwellが「A Treatise on Electricity and Magnetism」を出版されている。Heavisideは16歳で学校を中退しただけの数学的な知識(代数と三角関数程度)でその難解な理論を独力で理解しようと決意した時代である。

Thomsonは世界で最初の海底ケーブルが使い物にならない理由として初めて後に学ぶことになる分布定数回路からインダクタンス成分を除いた伝送路モデルを以下の微分方程式として表した。

d^2v/d^2x=KCdv/dt

いきなり説明もなく∂とかが登場するのは伝統に従っている(´∀` )

xはケーブル端からの距離でtは時間である。この方程式を解くとケーブル端からの距離xの時間tにおける電圧vの式が得られる。Kはケーブルの単位長当たりの抵抗値。Cは単位長当たりの静電容量である。つまり海底ケーブルを微少なRとCの逆L字回路が無数にラダー接続されたフィルターとして回路モデル化したことを意味する。



これは数学上では二階偏微分方程式である。歴史的にはいきなり一番こんな難題が先だったわけである。

Thomsonはこの式が良く知られているものであるとだけ述べている。それはFourierの一次元の熱伝導方程式を海底ケーブル線路に適用したものであることは明らかである。

HeavisideはMaxwellの電磁気理論を研究する中で自身が経験した電信線路の非対称な信号挙動の謎をThomsonのモデルに更に誘導成分(単位長さ当たりのインダクタンスs)を追加することで今日知られる電信方程式の元とその画期的な解法(演算子法)を編み出した。

d^2v/d^2x=kcdv/dt+scd^2v/dt^2

これは更に面倒な偏微分方程式で、これを解くためにHeavisideは有名な演算子法も編み出した。かくしてこの時点で電気回路の過渡現象を解析するための手法がすでに確立したかに見えた。数学者が厳密性に関して批判するのとは裏腹に技術者は自らが抱えていた問題を解くのに演算子法を利用しない手はなかった。

Heavisideの演算子法がどんなものだったかは共立出版の「数学公式 改訂増補」にそのHeavisideオペレーターの応用例が多数載っている。それ以外は戦後すぐに出版された電気回路理論の本を見つけて読むしかない。ほとんど現在教えられているLaplace変換と一対一で対応するのに驚くかもしれない。

引用:

技術メモ:Heavisideの抵抗オペレーター

1887年の論文の書き出しで、Heavisideは抵抗オペレーターの定義を次のように与えている:"瞬時的なOhmの法則を単に数学的な観点から見ると、式V=RC [Cは19世紀における電流の記号であった]において抵抗を表す量Rは、電流が定常である時、電流Cを電圧Vに変換するオペレーターであると見ることができる。それ故、電流が変化する際には、Rの代わりに抵抗オペレーターで置き換えるのが相応しい。"
そこでHeavisideの行ったことを示す。3つの基本的な、個別の受動電気素子(抵抗、キャパシタ、インダクタ)に関して、電流を近代的な記号i(それにキャパシタにC)を使った場合を示す。



もしくは、Heavisideのp=d/dtオペレーターを用いて、



または、v/i=Zとして定義すると



Paul J. Nahin "Oliver Heaviside" より拙訳


共立の数学公式には近代的なLaplace変換と対比して紹介されている

引用:

3.ベクトルの複素数表示の利用とインピーダンス
3.1 外からの作業がQ=E0sinωtの場合
1. E0e^iωtとおいて二次元ベクトルの複素数表示を用いて、複素数の解を求めるとその虚数部分が求める解となる。
又はとおいて

2. 自由振動の部分を取り除いた特別解はe^iωtに比例する。e^iωtに比例する解に対してはd/dtはpを掛けること。∫dtは1/pを掛けることと同等で、解は


実数解は





4・2 Heavisideオペレーター

1.Laplace変換とHeavisideオペレーター

インピーダンスZ(p)の系について1(t)に対するA(t)は

(1)(pの実数部分が正の場合)なる積分方程式で与えられる。従って1/Z(p)がA(τ)のLaplace変換になっている。

(2)Bromwichの積分公式



以上の関係を1/Z(p)なる量が1(t)をA(t)に変換するオペレーターになっていると考え、次のように表しΩ(p)をHeavisideオペレーターという。

(3)


共立 数学公式改訂増販より


この本は戦後すぐ編纂されたものなので表記が今風になっておらずなんのことを言っているのか、当時の執筆者も専門外だから良く判っていないのかもしれない。電気では虚数単位としてjが使われるのが普通だがここでは数学でのiがそのまま使われている。1(t)はheavisideのstep関数で、t<0で0をt≧0で1をとる特殊な関数である。Ω(p)は今で言う伝達関数をLaplace変換したものに相当する。pをsに置き換えれば、今までよく登場した複素周波数を使用した交流回路の方程式、すなわちLaplace変換そのものである。ちなみにZ(p)のインピーダンスという用語を初めて用いたのもHeavisideである。

Laplace変換では入力関数1(t)もLaplace変換して出力関数のLaplace変換を得る点が異なるが、その他は同じである。

とどのつまり、過渡現象解析はHeavisideによって突破口が見いだされた微分方程式の解法に帰着することになる。

これ以上歴史を辿ると、Heavisideが独学で到達した長い道のりを追体験することになるので、それはちょっと酷すぎる。現時点で最初のThomsonの方程式を解く知識も有していない以上無理である。当時それが解けたのは一握りの応用数学者、それにThomsonやその終生の友人Storkes、そしてHeavisideぐらいである。

分定数回路理論でその解法を学ぶことになる。

当面はもっと単純な回路でその準備をすることにしよう。

P.S

若き日のHeavisideを魅了してやまなかったMaxwellの「A Treatise on Electricity and Magnetism」についても、別の機会に詳解電磁気学演習に取り組む際に研究することにしよう。今日電磁気学の本でMaxwellの方程式として紹介されているものは、すべからくMaxwellのオリジナルのものではなく、Heavisideがベクトルポテンシャル項を取り除いて簡潔で扱い易くしたものであることは良く知られている。Heaviside自身は晩年、自宅に籠もって再び難解なMaxwellのオリジナル方程式(ポテンシャル項を含む4元数表記)の解釈に取り組んでいたらしい。

webadm
投稿日時: 2011-9-24 22:12
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3107
集中定数回路の過渡現象解析
先に述べた通り、歴史的にはThomsonやHeavisideが行ったように海底ケーブルや長距離の電信線路のような今日で言う分布定数回路の解析問題が先だが、これに最初から取り組むには数学的な知識の準備がかなり必要なので、伝統に従って後回しにせざるを得ない。当面はそこを目指すのだというモチベーションを保つだけにとどめよう。

伝統的に過渡現象解析はこれまでも扱ってきた集中定数回路について研究することになる。集中定数回路であれば時間tだけを変数に持つ一変数関数だけを扱えばよいので比較的ハードルが低い。

ほとんどの電気回路の教科書は読者が既に微分方程式の解法の知識を有することを前提に何の説明もなくdy/dtなどの記号を登場させていきなり微分方程式を紹介している。ある程度見知っていてもこれは抵抗がある。

そもそも数学の微積分の本ですらdy/dt以外にも同じ概念の異なる表記が登場するので頭が混乱する。いったいどうなっているんだと数学の御大に問いただしたいところであるが、身近に居ないので手元の岩波「数学事典」をひもとくしかない。そこには微分法についてこう前書きしてある。

引用:

微分法
【第一階微分係数】
y=f(x)は実数の区間Iで定義された実数値をとる関数とする。x,x+h∈Iとし、xを固定し、hを0に近づけるとき、有限の極限値が存在するならば、fはxにおいて微分可能可微分または可微(differentiable)であるといい、この極限値をxにおけるfの微分係数微係数(differential coefficient)あるいは微分商(differential quotient)と名づけて、と表す。fが集合A⊂Iの各点で微分可能ならば、fはAにおいて微分可能であるという。またxにf'(x)を対応させて得られる関数をf(x)の導関数(derived function, derivative)とよぶ。f(x)からf'(x)を求めることを'f(x)を微分する(differentiate)'という。

岩波「数学事典」第2版より


なんだ最初から混乱してるじゃん(´Д`;)

微分に関しては以下のように書かれている

引用:

【微分】上の定義によれば、記号dy/dxにおけるdy,dxは別々に固有の意味を持っていないが、次のように意味づけることができる:xをx(=h)だけ増したときのyの増分(increment)f(x+x)-f(x)をyで表すならば、fがxにおいて微分可能なときy/x=f'(x)+εと置けばε→0(x→0)。Landauの記号で書けば、y=f(x)x+o(|x|)(x→0)、すなわちx→0のとき、yはxに比例する部分f(x)xと、xより高位の無限小とから成る。この意味のyの'主要部分'f'(x)xをy=f(x)の微分(differential)と名づけ、dyで表す。微分dyはxおよびxという2つの独立変数の関数である。特にf(x)=xとすれば、dx=1・x=x。故にdy=f'(x)dx、f'(x)=dy/dxが成り立つ。

岩波「数学事典」第2版より


というこじつけ事らしい。こんな感じで何でもありな定義なのは長い数学の歴史的な事情による。微分方程式が最小に登場したのはNewton()やLeibniz()の論文であるが、今日知られているものはBernoulli家の数学者ら、Clairaut, Riccati, Euler, Lagrange()の古典解析の研究成果に負うところが多い。それら古典解析の成果を温存しつつ近代的な微積分につなげたのがCauchy(Df(x))の時代とされるという。微積分は数学の歴史の紆余曲折がそのまま記号や概念に名残を残している。それだけに記号の意味を初見で理解するのは無理がある。

近代数学の微積分では厳密性や解の存在の判定とか理論の根幹に関わる部分が中心であり、応用には触れない。まあそのおかげで安心して応用出来るわけではあるが。

さて何の話しだったか。

ああ、集中定数回路の過渡現象解析ね。

集中定数回路の過渡現象解析は時間を変数とする関数を解とする一階もしくは高階の線型常微分方程式を解く問題に帰着する。これは古典解析の時代に様々な解法が得られていて、それらの成果を応用して解くことが出来る。

しかしここでそれを紹介するといきなり微分記号が式に現れることになるので、挑むべき問題を整理しておく必要がある。

そもそも集中定数回路の過渡現象解析で得たいものは何なの?

自分の胸に聞いてみるしかない。何が解らないの?

・ある定常状態から回路状態が変化した場合に以前の電圧や電流がどのように変化するか謎
・再び定常状態に落ち着くのにどれだけの時間を要するか謎

ということになる。

最初の謎は、電源が接続されていない回路に電源をある時点(t=0)でつないだ場合に過渡的に回路の電流や電圧がどのように変化するのかがわからないという意味になる。同様に既に接続されていて十分長い時間が経過して定常状態で落ち着いている回路から電源を取り除いた場合に何が起こるのかもわからない。過渡的に発生する電圧や電流が過大だと素子が壊れたり劣化したり故障や事故、誤動作に繋がるおそれがある。電源を入れたり外しても即座に次の定常状態に変化するのは抵抗のみから成る回路だけで、エネルギーを蓄えるキャパシタやインダクタを含む回路ではそうならないことが古くから知られている。実際のところ抵抗から成る回路でも回路の電圧や電流は瞬時に静定するが、周囲の空間の電磁界が急変するためそれが電磁波(電波)となって遠くへ伝搬していく副作用をもたらす。嘘だと思うならAMラジオを聞いている状態で実験してみると良い、回路に電源をつないだ時と外した時にラジオからノイズが聞こえるはずだ。

二番目は、1番目の過渡的なばたつきがどれくらい長く続くのか知りたいというもの。一般に制御とかでは静定時間とか時定数とか言われているものに相当する。

こうした疑問が解析結果により解消されることを目的として問題に挑むことにすればモチベーションが保てる。

ここから最初の例題を研究することにしよう。ただし、伝統的なアプローチでは最初に一般的な線型常微分方程式の解を知った上で進めるのではなく、それらを知らないという前提で始めることにする。すなわち、これまで学んで来たこと以外の新たな知識を借りる場合には特別な注意を払うということである。それはHeavisideの時代に既に知られていた知識だけで考えてみようということである。もちろん最終的には今日知られている微分方程式の解法のどれかを使う必要があるが、最初からそれがあることを前提とはしないということである。これは解析に挑むためのモチベーションを高く保つために必要なことである。今日書かれている本はそれをあまりに殺いでしまっている。

伝統的にはValkenburgの著書にある通りの例題から進めていくことで問題ないと思う。LとRの直列回路である。ただし、ここでは近代的な微積分の知識をフル活用するのではなく、今まで学んだ知識だけで解析することにする。



上の回路はLR直列回路に2つの電源(ひとつはE、もうひとつは微少なE)が直列に接続された回路。この回路は今まで学んだ重ね合わせの理を使って解析できそうである。すなわちEだけを接続した場合に回路に流れる定常状態での電流をIとし、Eを加えた場合に電流の変化量をIとするのである。

ここでEが微少時間tの間に変化する微少量だとして、Iは定常状態ではEに比例するとしても過渡的にはLの影響で時間と共に変化することが予想される。Lの両端の電圧降下は流れる電流の変化速度に比例することをすでに上巻で学んでいるので、瞬時的には以下の関係が成り立つことになる。



また



であるのでこれを代入すると



ということになる。これをI/tに関して整理すると



これから電流Iの時間に関する関数を求めるにはどうすんだ(´Д`;)

いきなり難しくてはまった。

Valkenburgの本を見ると、これを解くには、まず



置いて



としてから両辺にe^Ptを乗じると



ここでIe^Ptの微分を考えると



ということになる。これは元の微分方程式の右辺と同値なので



ということになる。これなら両辺を時間で積分すればよく



と解ける。これが先の常微分方程式の一般解である。

ここでt→∞とすると



ということになることから、一般解の第一項が定常解で、第二項が時間とともに消失する過渡解と呼ばれるものであることがわかる。

なんだ簡単じゃないか(´∀` )

ところでKは積分定数だが、この値はどうやって決まるのだろう?

元々電源が入っていない状態から瞬間的に加えた場合にはt=0でI=0なわけだから、K=-E/Rということになる。





今度は既に電源Eが入っている状態(I=E/R)から電圧をE1に瞬間的に変えた場合はどうだろう。定常状態(t→0)の電流はE1/Rとなるはずであるから、K=E/R-E1/Rということになる。



上の式より、E1=0となった場合(電源が取り去られた場合)



ということになる。



過渡解の指数部は時定数T=L/Rと定義すると



と表される。時定数Tの5倍の時間が経過するとほぼ定常状態とみなせることはt=0とt=5Tの時のe^{t/T}を計算すれば明らか。



どの本にも書いてない定常状態での電源Eと電流Iを設けて変化分のEを考えた理由は、どの本にも当たり前に書かれている微分方程式の立式が違和感のあるものだったからである。最初どこに違和感があるかわからなかったが、自己流で解析してみてその理由がわかった。

NewtonやLeibnizの時代の微分法は変化量が有限値をとりその積分も連続で区間内ですべて微分可能であることを前提としている。その後の古典解析でもこの前提は変わっていない。それに対してHeavisideが挑んだ電信線路では直流のON/OFFという不連続点を持ち、その積分も区間内でその点では微分不可能な関数を扱う必要があった。今日でもなお誰もこのことについては触れずに古典解析の成果を流用している点に漠然と違和感を感じていたのだった。

Heavisideは独自にこの問題に取り組んだ。その際に階段関数と呼ばれる階段状に取りうる値が飛躍する超関数を導入する必要があった。

Heavisideと同時代の応用数学者BromwichはHeavisideと親密に手紙を交換し協力を得ながら、Heavisideの演算子法の調和解析版とも言える逆Laplace変換として知られる複素積分(Bromwich積分)の存在を探し当てた。Bromwichのその論文は既に完成していたが、Heavisideの死後に出版されるまで発表されなかった(現在もその本"An introduction to the theory of infinite series."は増販されている)。その際にHeavisideが生前に書き残した"Campbridgeの数学者でさえ(演算子法の)正当性を証明できないであろう..."という言葉を引き合いにしてやったりな前文を載せている。同僚の数学者からHeavisideとの共同の成果であるにも関わらず死後にあざ笑うかのようなことをするのは人道に反すると猛烈な非難を浴びた。そして精神的に追い込まれたBromwichは家族と子供を残して自殺。その生涯を終えた。

話しを元にもどそう。

電気回路の電源のON/OFFのような不連続入力に関する挙動を解析するために古典解析の手法を騙し騙し使うのは危なっかしいということが理由も含めてこれでわかったと思う。t=0以前との連続性を考えるためには電源のON/OFFのような不連続関数が連続関数の無限の重ね合わせで表せればよいわけである。そうすればそれぞれの連続関数毎に電源を対応させて重ね合わせの理で解析可能である。しかし無限の数の重ね合わせひとつひとつについて解析するのでは無限の時間がかかる。なので古典解析を使うのは諦めたほうがよいという結論に達する。もちろん入力が有限数の連続関数であればその必要はないかもしれない。

すでに上巻でFourier級数やFourier変換を学んだ時点で調和解析の手法を知っているわけで、本来であれば古典解析を持ち出すことなく最初から調和解析を使えばよいのである。実際手元の電気学会出版の「過渡回路解析」では古典解析は序章だけで、第二章から演算子法(実際にはLaplace変換)が解説され以降はそれのみを用いている。

最初に違和感を感じる原因である時間t=0の前後での関係関数の不連続性である。そのため古典解析の手法を使う時には、t>0についてのみ考える必要がある。しかしこれは違和感がある。直感的には時間軸上でt=0での変化を無視してその直後の状態で方程式を立てなければ行けない点を誰も説明していない。方便と言ってしまえばそれまでだが。もう少しまともな見通しのよい考え方を何故しないのか。

ちょうど崖っぷちを背にして「君たちは今私が立っている位置から先に行かないように、そして今見ている方向だけを考えるように、けっして反対側を振り返ったり後ずさりしてはいけない」と教えてくれるならまだしも、何を言わずに崖っぷち付近を調べるようにと言われれば誰かかしら崖から落ちるに決まっている(´∀` )

(2011/9/25) youTubeでMITのdifferential Equationの講義を8つ受講してようやくRC直列回路の話しがちらっと出てきたときにはだいぶ理解した。そこまで理解するのに8時間もの講義が必要なのかというのに驚き。手元のどの数学の本にも書いてない基本的な前提知識を繰り返し教えてくれる所為で、勘所を理解した。少なくとも微分や不定積分の公式のうち2つは知っていることが前提ということも確認。大学の物理学コースとかでは、微分と積分の公式を繰り返しドリルで完全に頭と手に憶えさせる方法をとっているところもあるらしい。ロシアの物理学者Landauもセミナー参加希望の学生にはまず積分の問題を与えて、解けたものだけを受け入れていた。

それなのに今日の微積分の書物の内容はお粗末過ぎる。

さて本題に戻ろう。RC直列回路についてさっきより良いやり方で解析してみよう



RL直列回路の時と違って、電源はE(t)と時間の関数にした。このほうが任意の初期条件を与えられる。あとは回路を流れる電流を解けばいいわけだ。

Cの両端の電圧はCに蓄えられた電荷(電流の時間積分)を静電容量Cで割った値が電圧なので、それが出てくる。抵抗Rの両端の電圧降下は流れる電流I(t)に比例する。CとRの両端の電圧降下の合計が電源e(t)と常に均衡しているという式がたてられる。



積分項が含まれているので積分方程式になっているが、これは時間で両辺を微分することによって一階の微分方程式になる



これでRL直列回路の時と同様に標準形に整理すると



ということになる。

ここで同様にintegral factor(e^{Pt})を両辺に乗じて整理すると



ということになる。あとは両辺を時間で積分すればよく



ということになる。

部分積分項が消えないのですが、どうしたらいいですか(´Д`;)

初期条件を



とするとt<0は既に定常状態でI=0であるとすれば、不定積分の範囲は0+(0を除く+寄りの近傍)からtの範囲だけでよいので



ということになる。

積分定数Kが残るのですがどうすればよいですか(´Д`;)

t<0では定常状態であるとしたので、電源電圧がE1に変わった際の初期電流I0は



ということになる。従ってt=0+でI=I0とすれば積分定数Kは



ということになる。

従ってこれを元の解に代入すると



ということになる。

例えばE0=0、E1=1、C=R=1とした場合のIをプロットすると



ということになる。

逆にE0=1でE1=0とした場合には



ということで導出がかなり面倒でトリッキーだが電圧を加えた際と取り払った際のどちらの解も含んでいる点ではどの本にも書かれていない解き方である。

電圧Eを一定の力、電流Iを速度に読み替えると、RL直列回路の場合は弾み車、RC直列回路はバネみたいなものであることがわかる。

これをやってみてわかるのは、たかだか一階の常微分微分方程式であっても解くのには十分な注意を払う必要だということと、複数のケースひとつの解で表すことは困難が伴うということである。数学的に一般解が存在したとしても、目的の初期条件を満たす特殊解を最終的に得る必要がある。

実はこのような初歩的な微分方程式の解では、Heavisideが挑んだような電信回路の解析にははなはだ不十分である。というのも当時の電信は後に標準となったモールス符号のような電流の単純な断続ではなく、多値伝送であったからだ。ちょうど現代のGigabit Ethernetのようにひとつの伝送路に与える電圧レベルを複数段階設けて、それぞれに異なる信号の値をもたせていたのである。受信側では検流計の針の振れ具合を見てどの値が送られてきているか電信技師が経験的に判別していたのである。それがHeavisideが独自の階段関数を導入する必要があった理由でもある。加えて伝送路は集中定数回路ではなく分布定数回路である。分布定数回路の過渡現象解析は下巻の最終章で学ぶことになる最も難解なテーマである。

先の簡単なRL直列回路やRC直列回路の例では電圧の変化直前は定常状態としていたが、定常状態でない時に変化させた場合にはこの解とは異なるものとなる。電信時代の海底ケーブルを使った通信では一定の間隔を置いて信号を変化させる必要があった。それは前の信号変化による過渡現象が十分静定する前に次ぎの信号を送ると過渡応答が兼ね合わさって受信側が判別を誤る(伝送誤りが生じる)からである。そのため海底ケーブルをつかって電信電文を送っても送信するのに多大な時間を要し、解読するのにも多大な時間を要したのが実際である。それでも船で手紙を届けるのより早く安全だった。

初歩的な電圧のステップ変化だけでも変化時点の扱いについては本によってまちまちである。今日の数学では関数の不連続点が有限であれば積分可能とされているのは、不連続点を除いた連続な範囲の積分を総和することでCauchyの主値が得られるとするからである。これはRiemann積分でも受け継がれている。これを根拠に変化点を除いて積分するということがほとんどの電気回路の過渡解析の説明では使われている。その方が確かに講義時間も少なくてすむし、受講者の負担も少なくて済むというメリットをもたらした。しかし問題の本質を隠してしまうという損失をもたらしている。

どの本にも書いてある過渡現象解析の方法は常微分方程式の解法を電気回路に応用したものである。このあたりは数ページの解説を読んで理解できるものではなく。小学生の時のドリルのように易しいものから段々と難しいものへ演習を積み重ねていって体で覚えるしかない。独力で解けそうもない難題を独力で解くことをひとつの目標に置くのが大事で、それによって長くモチベーションを保つことが出来る。先人の苦労の追体験でもある。歴史が数百年かけてたどってきた道を猛スピードで追体験することになるのだから覚悟が必要である。

そこでどうしても常微分方程式の解法について体系的な知識を獲得することが避けられない。これも伝統ではあるがこれを無くして過渡現象解析がしたいというのは、過渡現象解析をせずに結果だけ知りたいと欲しているのと同じである。回路シミュレーター等はそうした要求を満たしてくれるため複雑な電子回路ではそれに頼ることが多いが、結果がどれだけ妥当性があるか判断するにはやはり数式による解析が不可欠であろう。

P.S

たどたどしい解析になってしまったが、結局は常微分方程式を解くことになる。数学的な解法だとちょっと危なっかしいので、もっと簡便で間違いの少ない解法を使うのが望ましい。そうした
共通の悩みに画期的な方法を提供したのがHeavisideであった。一階常微分方程式程度であれば数学のおさらいのつもりで教科書的に解を求めてもよいかもしれない。高階偏微分方程式になったら伝家の宝刀を使うのが良いだろう。
webadm
投稿日時: 2011-10-10 3:34
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3107
一般的な常微分方程式とその解法
著者は冒頭でいきなり常微分方程式論を初めているが、いささか唐突すぎる感があるのは否めない。そこで最初に問題ありきでそれに対して数学的な光をあてるのが適当であるように思う。

歴史的には微分方程式と微積分学は同時期に生じたものであるが、伝統的には微積分学が解析学入門で重視され、微分方程式論は後回しか応用数学として扱われる。確かに微分方程式の解法には微積分学の成果に依存しているので現代的に見れば構造的にはそれであっている。

しかし目的という視点でみると、最初に微分方程式の解法が主眼にあって、微積分学がそれに伴って必要になったといのが歴史的な順序になる。その方が微積分学の重要性をよく認識できる。ただこの順番だと微分方程式の解法理論の中でその都度微積分学の細かな内容に踏み込まなければならないので議論として見通しが悪いということは言える。

結局どうすんだこれ(´Д`;)

手元の数学の本を見ても高木貞治「解析概論」は元来初等関数の解析を主眼としているので、微分法と積分法は登場するが、微分方程式論はまったく扱っていない。第7章の「微分法の続き(隠伏関数)」の中に微分方程式の形をした式を扱っているが微分方程式という言葉自身が索引にも無い。

それに対して工学者向けの数学概論である寺沢寛一「数学概論(増訂版)」には第6章に「微分方程式の初等解法」が登場する。しかし初等と書いてあっても、微分方程式の解法は歴史的に様々の方法が登場しており、多数のページ数が割かれている。これを最初に学ぶのは大変時間がかかると予想される。

当面は受動素子のみから成る集中定数回路の過渡解析が出来ればよいので、微分方程式の中でも以下の様な定係数線型微分方程式に限って解法を研究するので十分である。



xはtを独立変数とする関数で、dx/dtは変数tに関する導関数である。微分方程式は不定元が関数xであり、それを求めるのが微分方程式を解くという意味になる。

線型(linear)という名前がついているのは、左辺が関数とその導関数の線型結合(一次結合)で表されることに由来する。電気回路的ではさしずめ重ね合わせの理ということになる。線型代数の線型方程式(一次方程式)と良く似ている。解き方は自ずと異なるが相似性がある。

右辺のf(t)は左辺の導関数とは独立だが同じtを変数とする関数。

f(t)=0だとちょうど線型方程式みたいになるので、解き方が簡単になる。それは線型同次方程式(linear homogeneous differential equation)と呼ばれる。f(t)≠0は線型非同次方程式(linear non-homogeneous differential equation)と呼ばれる。同次という言葉は古くは斉次という言葉が使われていたが、原語の意味に近い同次が最近では使われているようだ。

ところでそもそもhomogeneous(同次もしくは斉次)ってなんですか(´Д`;)

どうやら数学的には変数を係数倍しても変わらない(同形)という意味らしい。線型同次微分方程式を以下の様に関数Fとして表すと



という意味らしい。すなわち変数をスケーリングしても式の持つ意味は変わらない(同形)ということになる。結果が0なのだから当たり前だよね。

右辺がf(t)≠0となると話しはまるで違ってしまう。

nは0より大きい整数だが、n=1の時を1階微分方程式と呼ぶ。線型方程式の場合の次数と相似だが、二次以上の微分方程式も考えられるので導関数の最高次数は階数呼ぶようだ。微分法ではn次の導関数と呼んでいるのが、微分方程式論ではn階ということになる。英語では次数はdegreeで階数はorderと区別されていることに由来する。それとは別に歴史上の理由から次数では1次には線型(linear)、二次にはquadratic、三次にはcubic、4次にはquartic,
5次にはquinticなどという別名がある。5次以上の方程式は代数的に解くことが不可能なのは有名だよね。1階はfirst order、2階がsecond orderとこれは普通。

前出の寺寛本では最初に一番簡単な一階同次微分方程式が手始めに出てくるのは嬉しい。

寺寛本は最近見たMITの微分方程式の講義と同様に一階同次微分方程式を幾何学的な観点から見ることからはじまる。



という一階同次微分方程式を微分商dy/dx(yの一次導関数)に関する以下の形に書き直す



これはx,yを与えると微分商dy/dxが一意に決まる関係式となる。微分商dy/dxは求めようとする関数y=F(x)が描く曲線上の一点(x,y)を通る接線の傾きを意味する。

MITの講義では簡単な微分方程式を例に実際に黒板上でdy/dxを求めて解となる関数が積分曲線として浮かび上がるのを説明している。Maximaのplotdfパッケージを使うと同じことがコンピュータ上で簡単に出来る。

試しに



なる微分方程式について(x,y)の各格子点について微分商dy/dxを計算してその傾きと、それらと接する形で描かれる解となる関数(積分曲線)を描くには、

load("plotdf")
plotdf(x+y,[trajectory_at,2,-0.1])

とするだけでよい。



(x,y)の格子点は実数域であれば無限に存在するので、解が無限に存在することになる。これが微分方程式の一般解である。特定の条件(例えば予め決められた点を通るような曲線)を与えて得られる解を特別解(特解)と呼ぶ。

特別解を解く問題には2つあり、ひとつはx=0の時に特定のy軸上の点を通る曲線を求める問題は初期値問題(initial condition problem)と呼ぶ。与えられた条件を満たす解が一意に決まる場合にはこの解法が使える。

問題によっては、初期値問題で解が複数存在する場合もある。例えばx=0,y=y0を通る積分曲線が複数あるような場合である。この場合には、もう一点別に特定の点を通るような条件を与える必要がある。区間内の2点を条件として解く問題は境界値問題(boundary condition problem)と呼ばれる。

最初に解いたLC直列回路やRC直列回路の問題の微分方程式を同様に微分商に関する式に書き直すと



となるから、これを初期条件t=0,i=1、T=1としてplotdfでプロットしてみると。

plotdf(-y,[trajectory_at,0,1],[x,-1,5],[y,-0.1,1]);



という具合に指数関数曲線が浮かび上がる。

幾何学的な視点からの微分方程式はこの程度にして、そろそろ解法について考えてみよう。

前出のRL直列回路、RC直列回路の微分方程式を具体例に様々な解法を試してみることにしよう。

・変数分離法

一階同次微分方程式の場合には変数分離法が使える。



この微分方程式はdi,dtを別々の記号として扱い、両辺にdtを掛け、iで割ると



と両辺にdi,dtが分離できる。これをt=0のときi=i0として両辺を積分すると



と解ける。

最初に初期条件を与えた定積分でなくても不定積分することで一般解



が得られる。ここで初期条件t=0,i=i0を与えることで



と特解を導くこともできる。

・積分因子法(もしくは定数変化法)

変数分離法が使えないような定数項を含む場合には積分因子法が使える。積分因子法は微分方程式の解が初等関数で表される場合に、それを両辺に乗じて積分可能な方程式に書き換えるテクニックである。

変数分離が出来ない以下の方程式を考える



予め積分因子として使用する初等関数としてX(t)とG(t)を考え以下の関数が解となりえるか調べることにする



これを微分すると



この2式を代入すると



ここで



と仮定すると



と変数分離形となる。

積分すると、



ということになる。これを仮定した等式に代入すると



このX(t),G(t)を元の仮定解の式に代入すると



が一般解ということになる。

もしくは既に示した通りに、部分方程式の両辺に



を乗じると



また



であるから



ということになる。

両辺を積分すればよく



これが一般解となる。以前に同じ方法で導いたものと同じである。

一般に冒頭に現れた常微分方程式の解はどの本にも書いてある通りに、



となる。ここでp1,p2,...,pnは以下の特性方程式(characteristic equation)の根である



pjがk重根の場合には、Ajを係数とする項を



とすればよい。

P.S

ここで紹介した微分方程式の解法は戦後改訂加筆された谷村功「無線用高等数学」を参考にしたが、積分因子法とある方法の最初のものはどうも今日では定数変化法と呼ばれているものである。なにもそんな古い本を持ち出さなくてもと思うかもしれないが、最近のものは微分方程式の解法に関する詳しい解説が省かれているものがほとんどであるのと、数学書では具体例が乏しいというのが理由である。
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投稿日時: 2011-10-10 10:09
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RLC直列回路の過渡現象解析
これまで登場したRL直列回路、RC直列回路はいずれも一階の微分方程式であったが、既にn階の微分方程式の解について学んだので2階の微分方程式が現れるRLC直列回路の過渡現象解析に挑むとしよう。

手元のドイツの電気理論の教科書では一番最後の章で電磁気の過渡現象解析をひとまとめに扱っている。この時にラプラス変換(ラプラス積分とドイツ語では書いてある)も別途解説されている。それよりずっと以前の最初の方で微積分は電磁気関連の計算でいやという程登場するがRC直列回路やRL直列回路のような簡単な過渡現象解析を扱っているものの微分方程式の解法についての解説は一切なく、さらりと目的の解を求めておしまいという感じ。1階と高階の微分方程式の2つの例が出てくるが、高階の方は先に述べた特性方程式を使って直接一般解を求めている。まあ電気回路の解析が目的で微分方程式の解法を学ぶの目的ではないからそれでいいのかもしれない。

そういえば今年の数学オリンピックではドイツの女子高生がただ一人満点をとったとか。さすが数々の大数学者が生まれた国だけある。

話しを元にもどそう。



上のRLC直列回路に関してキルヒホッフの電圧則で微分方程式をたてると



ということになる。

式の中に積分項があるので、両辺をtに関して微分すると



ということになる。

ところで、ここからどうすればよいですか(´Д`;)

電気学会「電気工学ハンドブック」にもRLC直列回路の過渡解析が載っているけど、いきなり右辺が0になって同次形にして過渡解(補解)を求めるというやり方しか示していない。非同次の場合は定常解と過渡解の線型結合になるのだが。そのやり方までは紙面の都合上示していない。きっと面倒なのだな。

ここに来て過渡解析と微分方程式論の用語がこんがらがってきた
ので整理しよう。

著者が書いているように微分方程式の一般解は物理的な観点から見ると、定常状態の解である定常解と時間とともに消失する過渡状態の解である過渡解の和で表される。

数学的には、定常解と呼ばれているものは特殊解あるいは特解(particular solutionもしくはparticular integral)、過渡解と呼ばれているものは補解(complementary solutionもしくはcomplementary function)と呼ぶらしい。

特殊解を間違って解釈していたことが発覚(´Д`;)

著者が書いているような過渡解析の手順はValkenburgも同様のことを書いている。違うのは用語と定常解を先に求めるか補解を先に求めるかの順序の違いのみ。

定常解については今までの直流回路や交流回路での定常状態での回路解析でやったことと同じ。あとは同次微分方程式の解である補解を求めてそれを足せばよいということになる。

なんだ簡単じゃないか(´∀` )

手元に電気回路の本でR.E.SCOTT「LINEAR CIRCUITS」という本があり、これは2分冊で「PART 1/TIME DOMAIN ANALYSIS」と「PART 2/FREQUENCY DOMAIN ANALYSIS」から成る。前者は初歩の直流回路や抵抗回路解析からはじまって、時間領域だけで過渡現象解析を行うという分厚い本である。Heavisideの話しは登場するが、演算子法やおろかLaplace変換もこの本には登場しない。それはどちらかというと複素周波数領域での解析手法であるから、別編の周波数領域解析で登場する。そこまで徹底的に時間領域だけにこだわった内容だけを豊富に紹介しているが、最後まで読むのは大変である。おそらく手元にある本のなかで一番ページ数が多いし内容も豊富だ。

その本で最初に微分方程式の解法が登場する後半の章の前書きが異常に長い。著者のこだわりがぷんぷん伝わってくる。それによると、やはり電気回路では定係数線型微分方程式でことたりるのと、それはおそらく数ある微分方程式の中で一番単純であるということ。非同次微分方程式の解は定常解と同次方程式の解(過渡解)の和であるということ。

うすうすわかってきた。

前にすでに定係数常微分方程式の一般解について知っているので、それを使って先のRLC直列回路の微分方程式を解いてみよう。

まず二階の微分方程式であるから、解は以下の形で表されることがわかっている。



これを微分して一次と二次の導関数を求めると



ということになる。これらを先の微分方程式の同次形に代入すると



ということになる。

ここでA1=A2=0であるような自明な場合を除くとp1,p2はいずれも以下の特性方程式の根であることがわかる。



これをpに関して解くと



ということになる。

特性方程式が2次方程式なので根は2つあり、それぞれp1,p2ということになる。

pの式をよく見ると興味深い事実が明らかになる。ω0^2>0であることからべき根の絶対値がαの絶対値を超えることは決してないが、α<ω0のケースではべき根が純虚数となる点である。すなわちpが複素数となりω0を角周波数とする自由振動を伴うということである。α≧ω0の場合はpは負の実数となり振動は伴わない。α=ω0の場合はpは重根を持つことになる。これらのケースについては後で議論しよう。

さて残るは係数A1,A2を求める必要がある。初期条件で求めればいいのだが、不定元がA1,A2と2つあるので普通に考えれば初期条件も2つ必要になる。

どうすんだこれ(´Д`;)

高桑昇一郎「微分方程式と変分法」によると前に学んだ微分方程式の解法の中で、定数変化法を使って二階の微分方程式を解いている。

定数変化法では一般解のA1,A2をそれぞれ独立した関数A1(t),A2(t)に置き換え



で表されると仮定し微分すると



ということになる。これを元の微分方程式の左辺に代入すると



ということになる。

いいところまで来たけどこっからどうすんだ(´Д`;)

元々A1,A2が定数の場合も解であるから、その場合



が成り立つことになる。とすると前の式は



と簡単になってしまう。

従って同次形および非同次形それぞれの解は以下の連立微分方程式を満たすことになる



これを線型代数の行列表現に書き直すと



Lは実数、p1,p2は非0の負の実数か複素数であるため行列Φは正則(可逆)であるので、Φの逆行列を両辺に乗じると



ということになる。

従って両辺をtで積分すればA1,A2は



ということになる。

従って非同次微分方程式の解は



ということになる。

WはΦの行列式でロンスキアン(Wronskian)もしくはロンスキー行列式と呼ばれ、微分すると



という面白い性質をもっていることが手を動かして計算してみて初めてわかる。

これは一階の微分方程式なので解は



ということになる。

これを先の非同次微分方程式の一般解に代入すると



ということになる。

なんか未知数が増えたような(´Д`;)

最初の積分記号がある2つの項はt→∞にしてもdv/dtが0でない限り0にはならないため定常解である。残りの積分定数が係数になったものはp1,p2の実数部が負であるためt→∞で0となる過渡解ということになる。これで一般解は定常解と過渡解の和であることがわかる。

とりあえず、同次方程式の解ではv(t)がt=0を除いて一定の場合、t=0を除いてはdv/dt=0であるから解は



と最初に求めたものと一致する。直流電源の場合にはキャパシタが回路に直列に入っているので定常解は0であることは明らか。

(2011/10/29)賢明な読者であれば、この結果がt=0における特異点の事象と因果関係があることに気づくだろう。そもそも加える電圧に変化が無ければ電流にも変化が生じないからである。19世紀の数学ではまだt=0の事象を扱う手段が無かったのでとりあえず対象から除外するしかなかったのである。しかし依然としてt=0の事象そのものは消し去ることはできずその後に影響を及ぼしているのである。Heavisideの階段関数、Diracのδ関数などは当時の数学ではおよそ関数に含まれないものであった。様々な先人の努力の積み重ねを経て、最終的にL.Schwartzが系統的に関数の概念を拡張し超関数(distribution)の理論としてまとめるまで数学的な根拠が無くその応用には疑問を差し挟む余地があった。一端数学的な根拠が与えられると物理学や工学の分野でその応用が大手を振ってできるようになったわけである。信号処理とかでは必ず最初に登場するのでその恩恵は計り知れない。ただし電気回路理論ではまだそれを使わずとも古典解析の範疇でなんとかごまかせる。

さて過渡解を具体的に求める前に、p1,p2の3つのケースについて研究する必要がある。

特性方程式の解をαとω0で表したが、重根を持つ場合のRの条件式を臨界抵抗(critical resistance)Rcrと定義しよう。



この臨界抵抗Rcrと回路のRの比を減衰比(damping ratio)ζと定義する。



他にはRによらずCとLによって決まる自由振動角周波数ω0がある



これらを用いて最初の微分方程式を表すと



ということになる。従って特性方程式も



と表されその根は



ということになる。従って同次微分方程式の一般解も



ということになる。これでだいぶ見通しが良い式になった。

問題の3つのケースは

・ケース1:ζ>1、特性方程式の根は実数
・ケース2:ζ=1、特性方程式の根は実数で重根
・ケース3:ζ<1、特性方程式の根は複素数かつ共役

に分類できる。

ζは0から∞まで取り得るので、ζ=0の場合を考えると特性方程式の根は



と純虚数となる。

ζ<1の場合は特性方程式の根が複素数となるので、以下の様に既に知っているところの複素周波数と同じものになる



また共役でもあるので



という関係が成り立つ。

従ってζ<1の場合の根の軌跡は複素平面上の左半面に半円を描くことになる。



また-σに対する偏角は



とζのみで決まる。

今度はζ=1の場合を考えると、虚数部が0となり、負の実軸上の以下の一点に重根を持つことになる。



更にζ>1の場合には、2つの根は負の実軸上で再び独立しそれぞれζが大きくなるにつれ互い逆向きに軌跡を描くことになる



ζ^2が1に比べ十分大きい場合、根は-2ζω0と0にそれぞれ近づくことになる。

そこで3つのケースで明らかに異なる過渡解について詳しく調べることにする。

手元にあるどの本もここから先が大事なのにまるで息切れしたかのように、あるいはページ数に限りがあることに気づいて書き急いだかのように見通しがわるくまとまりがない説明になっている。

ここまでで大事なのは、線型微分方程式の一般解は定常解と過渡解の重ね合わせとして考えることができるという点。とりあえず同次微分方程式を解いて過渡解を求めれば過渡現象解析の半分は終わったことになる。残りは定常解をそれに加えるだけだ。定常解に関しては今まで交流回路理論でやったやり方でいけるはず(かどうかは本当は別途証明する必要がある)。

そんな理由から、最初から過渡解だけを中心に説明している本が最近のものは多い。定常解を含めた解を求める例があったとしても初期値問題として解いているだけである。上で出てきた定数変化法での解法を示している電気回路本はほとんどない...と思ったらあった(´∀` )

下巻しかもっていないけど室住熊三「第1級無線技術士用 電気回路〔下巻〕」の第13章には"13.4 R.L.C直列回路の場合"と題してかなり多くのページ数を割いてHeavisideの抵抗オペレータ(演算子)を使って微分方程式を解いている点が現代的ではないものの、その結果が定数変化法で求めたものと同じ結果を導く過程が詳細に記述されている。



導出の過程が丁寧に省略されずに書かれているので2ページ程飛ばして、1/T1=-p1, 1/T2=-p2と読み替えれば定数変化法で求めた式と同値であることがわかる。



それ以降の章でも同様の部分積分項を持つ式が登場する。演算子法の時代ではこれが当たり前だったのか。定常解の奇妙な積分式が気になるが。とりあえずは過渡解について調べてみよう。

(2011/10/29)

さていろいろと微分方程式に関する下調べをしていたらあっという間に時間が経ってしまった。それはそれで収穫がいろいろあった。戦前戦後の頃の微分方程式論や最近出版された国内の本を読み比べてみると新たな視点が見えてくる。特に線型代数の視点から見ると線型微分方程式と難解だと思われがちなベクトル解析は同じものであることが見えてくる。これに関してはベクトル解析がいきなり登場する電磁気学理論を学ぶ時に思い出すことにしよう。電気回路では古典的な線型定係数微分方程式の範疇でことたりるからだ。

RLC直列回路の過渡現象解析の3つのケースを最も簡潔に少ないページ数でまとめているのはやはりドイツの電気理論の教科書である。ここまでの議論に1ページしか必要としていない。また一般解の式も初期条件から得られた式が使われていて複雑な積分項は最初から無い。それにはここでのやり方(特異点t=0を除いた歯に衣が挟まったような議論)と比べて簡潔かつ巧妙である。それもまた後に演習問題を解く時に紹介する機会があると思う。ここではその後半の3つのケースについて解析することにする。

・ケース1:ζ>1、特性方程式の根は実数

一般解から初期条件を与えて特解を得る段階でいきなり躓いた(´Д`;)

二階の同次微分方程式の初期値問題を解くためには2つの未定係数C1,C2を解く必要がある。それには少なくともC1,C2を含む2つの独立した方程式が必要である。

初期条件としてt=+0でi(+0)=0とすると



ということになる。これだけではC1,C2が解けないので

Lの両端の電圧降下をuとすると



であるからして、初期条件としてt=+0でu(+0)=v(0)=E0を与えると



従ってC1,C2に関して解くと



ということになる。

これらを元の同次方程式の一般解の式に代入すると



ということになる。遂に姿を現したな宿敵双曲線関数(;´Д`)

これがどんな曲線を描くかは最後の楽しみにとっておいて、残りのケースを調べよう。

・ケース2:ζ=1、特性方程式の根は実数で重根

n階定数係数微分方程式の一般解で特性方程式の根が重根を持つ場合には解として



ということになる。これに基づいてケース1と同様に初期条件を与えてC1,C2を解くと



ということになりC2だけを求めればよく



ということになる。

従って解は



ということになる。

これとは別にケース1の式でζ→1として極限値を求めても同じ結果が得られる



であるからして



ということになる。

なんだ簡単じゃないか(´∀` )

次へ急ごう

・ケース3:ζ<1、特性方程式の根は複素数かつ共役

ケース1の式をζ<1の場合に以下の様に書き換えることができる



ここで



であるからして



ということになる。

正弦関数が現れた。どんな波形になるかは自ずと想像がつく。

それではいよいよこれらの3つのケースの波形をE0=1,L=1,ω0=1でプロットしてみよう。



ということになる。

ζ=1のケースは振動がなく最も早く定常状態に収束する。
ζ>1のケースでは定常状態に収束するまで時間がかかる
ζ<1のケースは振動が伴う。

最後のケースはω0を大きくζを小さくすれば以下の様に振動がはっきり確認できる。



これは地震波形と良く似ている。

ζ=1のケースを臨界減衰(critical damping)
ζ>1のケースを過減衰(overdamping)
ζ<1のケースを振動的減衰(oscillatory damping)

などと自動制御理論のどっかで教わった記憶がある。

RC直列回路やRL直列回路の挙動は一階の微分方程式で表されたが、それは単エネルギー回路であるとも言う。

RLC直列回路では二階の微分方程式が必要になる。これはLとCとがそれぞれエネルギーを蓄えて放出を繰り返すことにより固有周波数をもった振動が伴う可能性がある、こうした回路は復エネルギー回路と呼ばれる。

さてこれで意図通り基礎理論は終わったので演習に入ろう。
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