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webadm | 投稿日時: 2009-10-21 11:57 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
真空中の電荷分布による静電界 工学系の電磁気学の本は大抵最初に静電界からはじまる。
手元にある20世紀初頭に出版された物理学の本では古典物理学のオムニバスなネタがてんこ盛りでが今日の物理学では当たり前に登場する原子に関しては一切登場しない、それでも最後の方に電磁気に関してページ多くの章が割かれており、やはりそこでも最初に静電気とCOULOMBの法則が紹介されている。他にも既に当時実用段階だった発電機や電動機、ソレノイドや磁気回路についての章はあるが、電磁誘導や電池、電話機、はたやホイットストーンブリッジなどの電気回路の話も出てくるが、Maxwellの電磁気理論は説明だけで方程式は登場しない。その代わりMaxwellの光の電磁波説やヘルツの電波の発見に関する章は登場する。その中に放射線現象やX線とかも登場する。つまり当時の物理学は物理現象やその応用をテーマとしたオムニバスな自然科学の延長線上にまだあったと言える。電磁気や放射線は当時最先端のテーマで、後に原子物理学、量子力学や理論物理学に分かれていったものと思われる。電磁気学も応用理論として電気工学と電磁気学に分かれていったように見える。 そうもともとはみんな物理学の対象だったのだが、今ではそうではなくなってしまっている。 そしていつしか物理学の頃には説明されていた歴史的な経緯とかは捨て去られて結果としての式だけを教えるということになってしまった。 Maxwellの電磁気学の著書を見ても、古いドイツの理論電気学(電磁気学と電気理論を統一したもの)では主に電場と磁場(電界と磁界)の概念の説明にほとんどのページを割いて、最後に式が登場する形で書かれている。Maxwellの電磁気学の著書に至っては一番最後の2ページでようやく12の方程式が登場して終わる。それに至るのに電場と磁場の説明が必要なのだった。 今日では物理系ではMaxwellの方程式が最初に出て、それを支える電場と磁場の理論が続くという形になっている。工学系では逆に電界と磁界の理論があって最後にMaxwellの方程式に帰着するという伝統に従った形になっている。どちらも同じなのだが、順序が違うとこうも別物に見えるものは他にはないかもしれない。 20世紀初頭ではまだ光も様々な物理現象も量子レベルの振る舞いを支配している力が未知だったために説明することができなかったが、Maxwellの電磁気学理論によって光、静電気、磁気が統一された理論で互いにつながった。アインシュタインによってニュートン力学が修正され電磁気理論と統一されたが、今日まだ重力と電磁気を統一する理論は完成していない。 そういったまだ発展途上の発端のひとつが電磁気理論である。今のところ電磁気理論は現実の現象を説明するのにうまくいっている。もちろん量子レベルの現象についてはそれでも説明できないものが残されているが。少なくとも我々が電気や電子機器で利用していることは電磁気理論で説明でき予測できるから設計が出来たのである。 電気回路理論と電磁気理論の違いは、電気回路理論では抵抗、コンデンサやインダクタンス素子の挙動は電磁気理論に基づく近似を使うがそれ以外では電磁気現象の影響が無視できるとしている。もしくはそれに代わる近似理論を用いている。電磁気理論は実際の設計計算を行うのが難し過ぎるためである。今日のように高性能で電子計算機が手軽に利用できるようになってようやく電磁気理論に基づいたシミュレーションや計算が容易に可能になったが、数十年前まではそれすらも現実的ではなかった。 それでも年々、電子機器が高性能化、低電圧化や微細化が進むと、電磁気現象の影響を設計上無視できなくなってきている。これからの時代こそ電気と電磁気の理論の統一的な理解が急務となるのは疑いない。これまで半導体や光工学の世界では既に電磁気理論を応用して成功しているが、更に微細化が進むと量子力学の世界に入ってしまう。 MaxwellもFaradayも本当のところ電磁気がなんなのかは最後までわからなかったのは我々と同じであるが、少なくとも電場と磁場という概念を利用するとすべて辻褄が合う説明ができるということを誰よりも先に発見したのである。電場も磁場も現実に存在するものではないが、存在するとして考えるとすべての現象がうまく数学的に辻褄があう。それがどうしてかは量子力学が進歩しないとなにもわからない。 またMaxwellとFaradayが現在の電界と磁界の概念を主張した当時は、それとは別に遠隔作用論が支配的だった。これはニュートン力学が2つの質量点は重力で互いに引き合う(遠隔力)が発生するとしているためである。常に2つの質量点が存在して初めて重力が現れるという考え方である。確かに重力は質量に働くので、質量が0になった途端重力は消え失せるように見える。これは後にアインシュタインによって修正されるまで権威ある理論として時代を支配していた。今ではアインシュタインが主張するように質量やエネルギーが存在するだけで周囲の空間が歪むというMaxwellとFaradayの考えていた電場や磁場と同じ考えが受け入れられていて、うまく自然現象を説明できている。もちろん遠隔作用論がまかり通れば、どれだけ遠くに離れていても瞬時に遅れなく情報が伝わってしまうことになるので現実と矛盾する。今では電磁波も重力も近接作用であると考えるとうまく自然現象が説明できる。それによって真空中を進む光の速度が決まる。光の速度は我々が太陽系で生活する中編み出してきた独自の時間の単位、秒単位で進む距離が定められている。これは座標系によらず一定で、時間は座標系によって遅れたり進んだりするものと考えるとこれまた物理現象を説明するのに都合が良い。 ということで遠くの山の頂上を見定めたはいいが、まだ麓にもたどりついていない。 それでは一歩づつ歩み始めよう。静電界もしくは静電場という麓にむかって。 |
webadm | 投稿日時: 2013-11-18 4:56 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
Re: 静電界I:真空中の静電界 4年前に意気込んでみたものの、二兎を追う者は一兎をも得ずの理にあるように電気回路理論をやるだけで精一杯で、あれもこれも同時期には手を付けることができなかった。
ようやく電気回路理論おもちゃ箱が完結したので、やっと他にも手が出せるようになった。 電気回路理論おもちゃ箱で数学の下地のようなものを学んだような気がする。やっと電磁気学理論で使われている数学に手が届くようになってきた。そこまでステップアップしないとやはり無理なのだ。 当初はMaxwellの著書にも目を通して、現在のベクトル表記の公式を学ぶだけでなく、根本にある理念もつかみ取ろうという野心があったが、どうもそれも今では出来るかどうか怪しい。 というのも電気回路理論おもちゃ箱の最後の方で分布定数回路の過渡現象解析をやったのだが、これが一次元空間と時間の二変数関数を扱うので、その偏微分方程式を解くというのはかなりハードルが高かった。ましてや3次元空間と時間の4次元時空間を扱う電磁気学理論では3変数または4変数の多変数関数を相手にすることになり、必要とされる数学的なレベルも高いものが要求される。 とはいえ、昔の人はそれなりに身につけてきたはずなので、駄目もとでも取り組んでみるべきだろうという考えは変わらない。 完璧を目指すのではなく、判らないところがあって、判るところだけでもつかんでいこうという考えに変えた。 そうしないと、電気回路理論おもちゃ箱でもあったように、沢山の袋小路や未踏領域に足を踏み入れたら最後、戻ってこれなくなる可能性が大であるからである。 まあそういうところに知らずに足を踏み入れたら、足跡だけ残してまたすぐに元に戻ればよい。 参考書はどれも難しいので余り買いそろえてはいない。 多少とも19世紀の雰囲気を感じとるために、MaxwellやHevisideの著書をちらっと見るぐらいはいいだろう。 基本的には詳解電磁気学演習に沿って学んでいくことにしよう。 |
webadm | 投稿日時: 2013-11-18 5:45 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
Coulombの法則 言わずと知れたCoulombの法則から
歴史をひもとくと最初にこの理論を論文として発表したのがフランス人のCoulombだったから電荷の単位としてもその名前がついている。 実はいろいろな本を読むと、Coulomb以前に同様の研究を行い同様の結果を得ていたイギリスのCavendishが居たことを知るだろう。彼の死後、遺稿の整理を任されたMaxwellがそれを発見した。その他にもオームの法則にも辿りついていたことが知られている。 Coulombの時代には既にNewtonがPrincipiaで万有引力の法則に言及していたので、電荷力にも似たような逆二乗法則があることが簡単な実験から予想できる。問題はそれを確かめる方法だが、これは現在でも完璧に証明することはできないが、高精度で測定することは可能になっている。 物理学の世界では、理論の完璧な証明というのは難しくて、測定結果が理論の予想とかなりの精度で一致していれば理論は現時点で正しいとされる。物理学では理論は近似でしかないので、完璧に宇宙の仕組みがわかるまでは本当の理論というのは登場しないからである。 CoulombやCavendishの時代には理論を裏付けるに十分な精度で実験結果を測定することが難しいだけに、その裏付けは後の時代に委ねられ、測定技術の進歩によって今日では揺るぎないことになっている。 その他にも電荷の単位がCoulombと名づけられたのも時代的な背景がある。物理学では物理量に独特の単位があり、それぞれに偉人の名前がつけられている。実はこうした単位系は最初からあったのではなく、様々な理論や公式と辻褄が合うように、また不便のないように後付できめられたものである。ある物理量が他の物理法則と無関係に単位をきめることができる場合とそうでない場合がある。 それについてはまた機会を見て学ぶことにしよう。 Newtonの力学が既にあったので、Coulombもそれをなぞる形で電荷によって働く力を測定した。 引力と違うのは、電荷には斥力と引力の2つがある点である。 同じ極性の電荷を持つ同志は斥力が働き、異なる極性の電荷を持つものの間には引力が働く。これが重力と電磁気力が違うものであることを決定的にする。 最初は似たようなものだと予想していたが、だんだんと違う力の仕組みだということが判ってくる。 Coulombの時代は空気中で実験していたが、すぐに空気のまったくない真空中ではどうなのかという疑問が生じる。当時は真空がなんなのか予想がつけられていなかった。ある人はエーテルという媒体が満ちていると考え、ある人はまったく何もないと考えるが、いずれも矛盾がある。 重力が真空中も作用するのと同様に電荷も真空中で作用する。現代では真空中でCoulomb力が測定され、それを基準に他の媒体内での測定と比較される。それは歴然とした違いが見つかる。異なる媒体内では同じ電荷条件でも働く力が違ってくるのだ。 Coulombの実験した当時は大気中だけで実験したので、他の媒体では変わるかもしれずと、ある定数に力が比例するという定式化を行っただけだった。それでも距離の二乗に反比例する実験結果を発表した。 今なら都合の良いデータだけを使った捏造論文になってしまうが、当時はまあそれでも歓迎されたわけである。 Cavendishの実験では誤差も考慮された上で逆二乗法則に言及している。Cavendishの方法を改良して更に精度高く測定したのがMaxwellだった。Maxwellにとってはどうしても逆二乗法則が確たるものでなければならなかったのである。彼の理論体系を堅固なものにするためにも。 さて真空中を含め様々な媒体内で同じような測定を高精度に行えるようになって、やはり媒体によって結果が係数kが違ってくるということが明らかになり。それをどうするかということになった。 ここで単位系との関係が出てくる。またMaxwellが様々な電磁気力の間の関係を数学的に定式化することによって今まで知られている物理量の単位を決める必要があった。そうでないと勝手に決めた単位によって同じ物理量でも値が異なってきてしまうし、関連する公式も異なってきてしまいやっかいである。 この事はこれから現れる公式を鵜呑みにする分には知る必要はないが、どうやって公式が導出されたのか知りたい場合には単位系の歴史に足を踏み入れる必要がある。 Coulomb力Fは距離の逆二乗に比例するので、距離が近づけば近づく程強くなる。例えば原子レベルの距離になると大変強い力が働くことになるのは想像に難くない。なので、電磁気力は強い力と称されている。それに比べると質量を持った物質間に働く引力は大変弱いことになる。例えば原子を構成する量子間の間では量子の質量が小さいので引力も無視出来るほど弱いことになる。 引力と電磁気力の決定的な違いは、引力は途中に何があっても遮ることができないのに対して、電磁気力は簡単に遮ることができる点である。引力は途中に恒星があろうとブラックホールがあろうとその先まで作用するが、電磁気力は電界もしくは磁界が張っている領域内でのみ作用する。電界や磁界が遮られてしまった空間の外には影響を与えない。この性質については後々学ぶことになる。 著者のCoulombの法則の公式として最初に以下のものが出てくる newton[N}は力Fの単位である。この公式では先に挙げた昔の式の係数kが となっていることになる。 著者はまた真空誘電率ε0について以下の様に定義を与えている ここでcは真空中の光が1秒間に進む距離(速度 m/sec)である。 この定義を先のCoulombの法則の公式に代入するとおかしなことに4πが相殺されて消えてしまう。なんなんだこれは。 とするとkは ということになる。 従って、kにQ,Q'の電荷の単位[C]を二回乗じて、かつ電荷間の距離の二乗で割るので、最後はFの単位がNになるという辻褄が合う結果になる。 なので公式を憶える際には単位系を共通のもので統一しないと矛盾が発生したり、物理量を換算し直さないといけなくなる。 電荷の単位にCoulombの名前を採用するにあたって、その定義も同時に与えられる必要がある。 上の式と単位系では、著者が述べたように、1 Coulombの電荷を持った2電荷が1mの距離を置いて離れている場合、互いに1/4πε0 Newtonの力(正なら斥力、負なら引力)が働くことになる。 無論Coulombの時代には電荷の単位など決まっていなかったし、測定方法も無かったので、とにかくCoulombはNewtonの定式化に習って距離の逆二乗則だけを言及したわけである。 当然ながらその後、電磁気学と従来の物理学を理論的に統一する古典物理学の完成へ向けて、重要な単位の決定と単位系の提案がなされるようになった。 何故に直線上で距離を隔てた2つの点電荷の間の関係式に円周率のπが出てくるのかは、単位系のしわ寄せみたいなものである。重要な公式や定数に円周率が含まれるのを良しとしない単位系では演習立はあまり重要ではない定数に円周率がしわ寄せとして押し付けられてしまう。円周率が表に出てきてしまうと公式としては美しくないといぶかる先生達の仕業である。 Newtonの運動方程式では質量だった部分が電荷に置き換え、重力定数だった部分を光の速度の二乗から割り出された定数に置き換えるとCoulombの公式となるように電荷の次元が定められて実験結果と一致するように単位が決定したことになる。 ということでCoulombの法則には光の速度が強く関係していることが判明した。というのも今日の単位系の根拠には光の速度が系によらず一定不変であるというEinsteinの相対性理論がある。長さの単位や基準も1秒間に進む光の距離に基づいている。そう言えば時間も系によって変化するのであった。 光の速度が定まった歴史についても興味深いものがあり、19世紀の欧州で起きたドラマに関しては諸説がある。 さてCoulombの法則についてはこの程度にして。疑問点は後々折りを見て解決していくことにしよう。 実のところ本格的な電磁気学の入り口というのは、次の電界の概念を学ぶことである。 |
webadm | 投稿日時: 2013-11-25 0:14 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
電界の強さと電位 電界という用語がここで登場する。欧州のあちこちで同じ概念が考えられていたが、国によってその諸説がまちまちである。
英国ではFaradayが数学によらない直感的な電気力線(electric line of force)という仮想の線が電荷から四方八方に伸びて負の電荷は正の電荷の方へ、正の電荷は負の電荷の方へ向かうように線がつながっているという仮説で電荷の間で働く力を矛盾なく説明できないかと考えていた。 Faradayには数学の知識が無かったので後にそのアイデアにインスパイアされて数学的に定式化したのはMaxwellだった。電気力線や磁気力線の概念は電界と磁界という勾配ベクトル場として定式化され、それに関連する様々な法則も説明できるようにした。 一方ドイツではそれとは別にOhmとKirchhoffが電気に関する重要な法則を発見していたこともあり、それを応用したアプローチが行われていた。 ドイツで教えられている電界測定の実験では、薄鋼板上に離れた2つの端子を設置してそこに直流電圧を印可した状態で、別に容易した電圧計の測定端子の一方を鋼板上の任意の点に接続し、もう片方の測定端子を電圧が等しい鋼板上の位置を探す。電圧が等しい点が見つかったらその測定端子の位置を記録する。これは電圧を印可した2つの端子から四方八方に電流が流れて鋼板の電気抵抗に応じた電圧勾配が生じそれによって電位差が無い等電位線が存在するはずである。それ鋼板上の2点間の電圧測定で見つけるのである。 そうやって等電圧な点を紙の上にプロットし、それらを線で結ぶと等電圧線が浮かびあがる。 FaradayやMaxwellが考えていた電気力線とは、上の等電圧線に対して法線方向に電圧の高い方から低い方へ向かう勾配ベクトルの軌跡(積分曲線)だったわけである。 Maxwellの歴史的な著者である、"AN ELEMENTARY TREATISE ON ELECTRICITY"にも同じ用な図がある。こちらはFaradayの電気力線のアイデアに関して触れている文章の後に登場する。 こちらは巻末にあるいくつかの等ポテンシャル線及び電気力線図のひとつで、同じ極性で大きさの異なる2電荷がある場合のもの。2つの電荷は互いに反発しあうのでそれぞれの電荷から伸びる電気力線は互いに引き合うことはない。 まったく違う場所で同じ概念を正反対の方向から探っていた歴史的偶然性がここにある。 さて問題はこの等電圧線にしてもそれと垂直に交わる電気力線にしても数式で表さないと満足にプロットもできない。実のところどちらも微分方程式の解の集合なので微分方程式を解かないと描けないということになる。 ここからが数学の腕の見せ所ということになる。実際に電気回路理論では最後に学んだ分布定数回路の過渡現象解析でちらっと見え隠れしたStokesの定理とかを当たり前の様に駆使する必要がある。なので一連のそうしたベクトル解析の基礎を先に学ぶ流儀と知っていることを前提とする流儀がある。ベクトル解析の理論は多変数関数の解析学をまだ数学者が定式化出来ない頃から工学や物理学の理論の基礎固めに必須だったため応用数学として独自に発展して純粋数学とは長い間亀裂が出来た状態だった。なのでその頃のベクトル解析を学んでも後で今風のベクトル解析を再度学び直す必要がある。戦前の古い本は要注意である。20世紀後半にようやくベクトル解析も純粋数学との辻褄合わせが出来るようになって見通しが良くなった。それを学んだ方が良いだろうと思う。得に純粋数学の微分形式に基づいた考えが理解の早道である。とは言え、 さて電界の定式化へ向けたアプローチにはドイツ流と英国流とがあって、それは互いにアプローチが直交している。互いに譲ることはしない。 ドイツ流は上の実験結果を根拠に電流密度や電荷密度等の物理量の概念を導入し数学を駆使して最終的にMaxwellの方程式につないでいく。 英国流は初めにMaxwellの理論ありきで、初めに電界ありきでそこに点電荷が置かれた場合に働く力(Coulombの法則)の公式を導出する。つまりほとんどの電磁気に関する物理法則はMaxwellの方程式から導出できることを理解することが電磁気学を学ぶことの意見である。 もちろんドイツで英国流の教科書も出版されているし、逆も真なりで、日本でも数々の電磁気学の教科書が出版されているが、それぞれの著者がどちらの流儀に沿っているかは調べてみると面白いかもしれない。 電気回路理論で登場する数式は分布定数回路の過渡現象解析を除けば全て時間を変数とする一変数関数であったが、電磁気学ではいきなり最低でも3次元、それに時間軸が加わると4次元となり3変数もしくは4変数の関数を扱うことになる。なので座標系も2変数までなら直交座標でいけたが、3変数や4変数になると、問題によっては別の座標系を使った方が都合が良い場合が多々ある。最終的に直交座標へ座標変換すれば良いわけだが、たぶん一回やれば懲りるぐらい大変だ。しかし理解する上では一生に一回はやっておいた方がよい。 電磁気学で使う座標系には直交座標の他に極座標、球座標、円柱座標、双極座標、円環座標、等がある。それ以外にも物理学で扱う座標とかも登場するかもしれない。それらの間の座標変換が理解できることも要求される。 易しい直交平面座標が出てくるのは最初だけと心得ておいた方が良いかもしれない。 ところで著者はいきなり微分を使って電界の定式化を始めてしまうので、初心者はまずここで躓いて、次のページを開く前に本を閉じてしまうだろう。 著者のアプローチは、先の等電圧線が描かれた図を地図の等高線と同様に、低い位置からより高い位置へ一定の質量を移動するのに要する仕事は経路によらず高さの差で決まるという法則を使っている。 これはある種のエネルギー保存則、数学的にはStokesの定理の応用である。 なんのことを言っているのかわからなくなった。 ドイツの理論電気学の本をひもとくともう少し古い時代の思考過程が示されていて、数学に疎い者でもついていけそうである。 Faradayが考えたように2つの電荷の間に働く力は、2つの電荷の間を結んでいる電気力線の数に比例すると仮定する。 先の鋼板上の電界測定モデルで、2つの電荷に働く力は鋼板上を流れる電流の総量、すなわち電気力線の総数に比例するはずである。 そこで鋼板の断面の面素dAを貫く電気力線の数を線密度Gとして以下の様に定義する また1Aの電流が1cm平方の面積を貫くことは10^6本の電気力線が同じ面を貫くのに相当すると定義する。 また面積がAの閉曲面を貫く総電流がIであれば電気力線の密度Gは ということになる。 次に電気力線が面素dAを角度α傾いて貫くときにdAの法線方向に流れる電流は ということになる。 これは三次元空間のベクトルの射影を考える必要があるので図で描くと ということになる。 従って任意の閉曲面を貫く総電流Iは、積分することによって ということになる。 ところで上の|Gn|はGと面素dAの法線ベクトルとの内積であるから、以下の様に書き直すことが出来る。 上の式での・はベクトルのスカラー積(内積)の意味である。dUは面素dAの面積を大きさとして持つ法線ベクトル。 さて電気力線と電界がどういう関係にあるかはここからだから。 ここで先の鋼板上の実験で、鋼板中を流れる電流の経路が電気力線と一致することは予想できる。 そこで先の等電位線の図を地図の等高線にみたてて、高さの高い方から低い方へ向かう勾配の向きでの高低差の変化を考えるように、電位差を考えることにする。 電位φ(海抜高)の等電位線(等高線)からdφだけ低い電位(φ-dφ)方向へ貫く電気力線(勾配曲線)の大きさ|E|は ということになる。 もうここまで来れば大丈夫だよね。Eはスカラー場φの勾配ベクトルなんだ gradはgradientの略で勾配の意味。勾配はスカラー場の一次微分のことでφがx,y,zの3座標変数の関数であれば、gradを使わずに同じことを表すと と言う意味に。 gradだと長いので、Hamiltonが最初に演算子記法として使った∇で表すと と簡単に記述できる。i,j,kはHamiltonの四元数に由来する3つの直行座標軸方向の単位ベクトル。∇は一次微分演算子なのでHamiltonian(H)とも呼ばれる。ポテンシャル関数φはそのため0次微分形とも称される。0次微分形に一次微分演算子を作用させると一次微分形が得られるというわけ。 これでもまだ著者の解説を理解することは無理だ。 微少な電位差のある等電位線を斜めαの角度で横切る場合を考える 図に加わったのは点a,bと、その間を結ぶ任意の曲線abがポテンシャルφと微少なポテンシャルdφだけ異なる等電位線を法線方向から見てαだけ傾いて横切るとし、横切る際の微少な経路ds。 2つの等電位線の微少間隔dnと曲線abが横切る際の微少経路dsとの間には 従って2つの等電位線の間の微少な電位差dφは ということになる。 また曲線abとの接線方向の勾配ベクトルGsの大きさは ということになる。 これを先のdφの式に代入すると ということになる。 Gsは曲線ab上の勾配ベクトル成分なので、点aと点bの電位差Uabは曲線に沿って線積分すればよく ということになる。勾配ベクトルがポテンシャルの大きな方から小さな方への向きを正とすると、積分の方向は逆になり ということになる。 また、曲線ab上の任意の点のdsに並行な微少接ベクトルdξを考えると、微少な電位差dφは勾配ベクトルEと接ベクトルdξの内積となるので ということになる。 従って点a,b間の電位差Uabは曲線abに沿って微少な電位差を線積分すればよく Eは電位ポテンシャル場の勾配ベクトル場であるので ということになる。勾配ベクトルの向きはポテンシャルの大きい方から小さい方への向きを正としている点に注意。 とどのつまり、2点a,b間の電位差はそれぞれの点に置ける電位ポテンシャルの差で決まり、経路にはよらないということになる。 これはちょうど位置ポテンシャルと相似で、ある質量の点をある高さから別の高さに移動するために必要な仕事は経路によらず、出発点と到着点における位置ポテンシャルの差に比例するのと同じ。 さて先の鋼板上での電位測定実験に基づいた考察をまだ続ける必要がある。 鋼板は電気抵抗を持つため、電流が流れると電位差が生じる。鋼板の微少間隔dnの微少断面dAを持つ微少体積素の抵抗値Rは ここでχは鋼板の導電率である。 これを用いて、微少な電位差dφは ということになる。 従って ということになる。 従って最初に登場した電気力線密度Gは ということになる。 逆に鋼板の電気抵抗率をρとすると、 という関係になる。 すなわちFaradayの予想した電気力線(もしくは電気流力線)という概念は数学的には電位勾配ベクトル場と等価であるということが明らかになる。 さてこの後ドイツの教科書では勾配ベクトル場のその他の性質が解説されているが、それは後でもいいので先に著者の解説に追いつくことにしよう。 最初の電気力線密度の概念をCoulombの実験を想定して、薄鋼板で行った特殊な空間の議論を三次元の自由空間に拡張して考える。 例えば立方体の鋼材内の離れた二点に直流電圧を印可することができて、一定の電流が流れているものとする。 とすれば薄鋼板の時と同様に立方体内に電位差が生じ、等電位面が現れるはずである。 電圧を加えた点からは四方八方に電流が流れ出す(もしくは流れ込む)はずであるから、その点からの距離r離れた球面上を貫く電気力線の密度は ということになる。 4πr^2は半径rの球体の表面積である。 従って勾配ベクトルEは鋼材の導電率χと電気力線密度Gから ということになる。 段々見覚えのある形になってきた。 従って給電点の表面までの距離r0の電位と給電点からrだけ離れた点Pの間の電位差U0pは ということになる。 従って、給電点からr0だけ離れた給電端子表面の電位U0は ということになる。 ところで何故給電点そのものの電位を使わないのかというと、給電点からの距離が0になってしまうので、電気力線密度が無限大になってしまうからである。なのでr0≠0の電気力線密度を基準に考える必要がある。そこが電気力線モデルの難点でもある。 鋼材内での電気抵抗率Rは ということになる。 またr0での電位U0を基準にすると距離rの点Pとの電位差U0Pは ということになる。 また電位差U0Pは電位ポテンシャルφの差でもあるので 従って距離r離れた点の電位ポテンシャルは ということになる。 今度は給電端子が半径r1の空洞球体の場合を考える。導体内ではその給電端子に電流Iが供給され、周囲へ総電流Iが流れ出しているものとする。給電端子表面の電位ポテンシャルをU0とすると、給電点からr2だけ離れた球体表面の電位ポテンシャルφ1との間で以下が成り立つ 従って、給電端子表面の電位ポテンシャルU0は ということになる。 これは以下の様にも解釈することが出来る すなわち、断面積が4πχr1r2で長さr2-r1の円筒の導体に電流Iが流れた際の電位差と等価である。 導体内にもう一点の電流Iが流れ込む端子を設けた場合には、その端子点からの距離rの点の電位ポテンシャルは 電流の方向が先ほどの給電点とは逆になるので極性が逆になっている。 従って給電点からの距離r1、流出点からの距離r2にある導体内の点Pの電位ポテンシャルは重ね合わせの理によって と表すことができる。 ここで電位ポテンシャルが等しい等電位線上では が成り立つので、等電位線上ではr1,r2の関係が以下の条件を満たす必要がある ここでkは算術数列でk=0,1,2,3,...である。 ここまで判ると等電位線が描けそうだが、直交平面上にプロットするには座標変換する必要があり、思った程簡単ではない。 また同様に距離lだけ隔てた2つの給電点から周囲に電流Iが今度はそれぞれ流れ出している場合には、任意の点Pの電位ポテンシャルは重ね合わせの理によって ということになる。 さてドイツの教科書に沿って長々と導体内の電位分布に関して議論してきたが、その方が易しいし、事実ドイツの教科書では初等の直流回路でOhmの法則とKirchhoffの法則を教えると、すぐに導体内の電位に関して教えることになっている。真空中の議論はその後で登場する。なにせ真空中は電流が流れないことになっているから、最初にそこからやると間違いなく躓く。導体内なら電流が流れて抵抗があるから場所によって電位差が生じるのはすぐに理解できる。 著者の場合は、電界についての議論を吹っ飛ばしていきなり電界内に点電荷を置いた場合に働く力と、点電荷を移動するのに伴う仕事の議論を始めている。 少なくとも上の導体内の静電場の議論のように、真空中に置かれた1Cの点電荷から距離rにおける電気力線の距密度Gと電位勾配の大きさは ということになる。ここでε0は真空中の誘電率である。 これだと導体内の議論と対称性があって憶え易い。 従って、1 Coulombの点電荷から距離rの点に別のQ Coulombの点電荷を置いた場合にそこに働く力は ということになる。 これでようやく著者の解説に間に合うことになる。 点電荷Qが作る電場E内で1Cの点電荷を距離rの位置に置いた時に働く力Fに逆らって微少な距離drを移動する時の仕事は 従って1Cの点電荷を点aから点bまで移動するのに要する仕事はaとbを結ぶ任意の曲線上で線積分すればよく ということになる。 このことから、電界内で点電荷をaから移動してbへその後aへまた戻すような閉曲線上を移動した場合、仕事は0となる これはStokesの定理を利用して と導くことができる。 このことから電位勾配ベクトル場に関して という関係が常に成り立つ。 これは電位勾配ベクトル場では決して渦が生じないということである。これは電気力線は決して互いに交わらないというFaradayのアイデアが正しかったことを裏付ける。 gradが登場した時はたいしたことなかったが、rotが出てきて更にgradに作用するということになってここで挫折して本を閉じる読者が大半に登ると予想される。ここはベクトル解析のあんちょこでも知っていない限り素通りすらできないところだ。 (2013/11/30) 実のところ著者がrotをこんなに早い時点でしかも説明無しに出してきていることにかなり動揺している。ドイツの教科書では数百ページある本の後半になってやっと出てくる概念だからだ。それにStokesの定理も用いるのは簡単だが、その証明は微分形式を学べば簡単だが、微分形式を用いないでとなると数学者でも訝るぐらいに面倒である。なので大学ではrotの詳しい数学的な解説は省略して結果だけ利用することが多い。昔の古い本だとここのところが現代的ではないけれども19世紀的な方法で解説している。それを現代的になぞることを試みてみよう。 ベクトル場rot Eを座標軸毎の成分に分割すると ここまではよし。 面積ベクトルを図で表すと ということになる。面積ベクトルの向き付けに一定の規則を設ける必要がある。それは面要素dydz,dzdx,dxdyをネジの頭だとしてそれを回転させた場合に、ネジが進む方向を正とするのである。面要素の記号もこの回転する向きに合わせて付けてあり、dydzはdyをdzに重なる方向に回転させるとネジはx軸の正の方向に進むようにしてある。 ここまではよいよね。 rot Eの成分はそれぞれの面要素上で電位勾配Eを線積分したものと考えることができる。 これでrot Eの成分はそれぞれの単位ベクトルを法線ベクトルとする面要素の境界線上で電位勾配Eを積分したものと等しいことになる。面要素の境界線上に沿った積分とは 従って ということになる。 ちなみにrotはドイツ仕込み、英国仕込みだとMaxwellが著書で用いていたcurlを伝統的に使用する。前者は数理的な視点、後者は直感的な視点からの命名と思われる。 この辺で電界の強さと電位について終わりにしよう。 著者の1ページ半にはこんだけの内容が隠されていたということになる。電磁気学恐るべし。判っている人に言わせればMaxwellの方程式だけ1ページにならべて、これが全てという人も居る。いずれにせよ電磁気学は現実での経験と矛盾しない整然とした理論を構築できるかの実験的な科学なので物理学と同じである。数学的に突き詰めようとしても根拠が実世界での実験結果や経験なので、新しい実験や測定によって結果が変わることだって将来あり得る。そういう性質のものには純粋数学者は背を向けるのが普通。なので未来永劫この世界は数学は辻褄合わせのための技巧として用いられるのみである。そういう意味ではFaradayが持っていなくてMaxwellが持っていたものはそうした数学的な技巧の知識であったと言えるかもしれない。 P.S 最初の章なのにベクトル解析の大部分がここで出現するのには参った。一応予習はしてあったのだが、いざやってみるとどうにも腑に落ちない点がはっきりしてくる。ベクトル解析派と純粋数学派のいいとこ取りをしようと思ってもどうにも矛盾が出てくる。具体的にはrot E = 0というのが出てくるのだが、これは二次微分形を導出した結果として出てくるのであって、それ単独では得られない。そのあたりが納得がいかないところ。なのでどうせなら最終的な結果(Maxwellの方程式)から始めるという流儀もわからなくもない。でもLandau & Lifshitz本とかには∫E・ds=0ではなく、右辺に電場以外の項が書いてあったりする。物理学では違うのだな、電磁気学では静電場が登場するときには電場以外は考えないことにするという暗黙の了解があったりするのかもしれない。いくら純粋数学者が異論となえたとしても、ベクトル解析屋の以下の定式化が憶え易い。 i,j,kはそれぞれ単位面積ベクトルである(少なくともrot Eがベクトル場である限りにおいて)。古い電磁気学の教科書には大抵この形式が載っている。今日はめったに見ない代わりに本によっていずれも異なった定式化をしている。というのもMaxwell自身が電磁気理論に言明した際に簡明な定式化を与えなかったことに原因がある。今のベクトルの微分形で定式化したのはその後のHevisideやHerzなどのベクトル解析屋だった。当時はまだ純粋数学者は一変数関数の解析学をなんとか完成させようとしていて、多変数関数の解析学は未だに未完成である。 上とまったく同じ結果を以下の様に記載している本もある これだけ憶えておけばよいと教える大学もある。確かにこれより一般的な場合(n次元の場合に同じ記述が可能か?)とか考えなければそれで済む。どちらも行列式の中に単位ベクトルi,j,kが成分ではなくベクトルのまま出てきているのは線型代数を学んだ後では大いに違和感を感じるのは私だけだろうか?。こうしてみると、これは一種の規則であり技巧であることがはっきりしてくる。これらは大いなる辻褄合わせに過ぎない。 ここで取り上げたMaxwellの著者である"AN ELEMENTARY TREATISE ON ELECTRICITY"にもいくつか版があり、それらは改版中にMaxwellが他界してしまったため後に残された人が編集したものである。2分冊での章立ても増えている。Maxwellの初版は時代にそぐわない判り難い数式が使われていたので、その時々の代表的な形式に書き換えられている。それでも序文や電気力線に関する議論等は初版の熱気がそのまま保たれている。 それと数式を記述する際にベクトルを太字にしてスカラー量と区別しようとするのだが、レンダリングされた画像を見るとスカラー量も太字に見えたりしてなにがなんだか判らなくなってしまう。Maxwellはベクトルを使わずにそれらを座標軸成分毎に式を書いたので誤記はあっても誤読の心配はなかった。しかし憶えにくいことは確かだ。実のところこのあたりは出版業界の技術的な進歩を待たねばならないところで、数学者もそれぞれ苦心して簡明かつ誤読の少ないようにそれぞれ工夫して原稿を書いたりしていた。今日これほど数式の表現に多様性があって標準がないのはそうした事情による。 当初は微分形式を使った解説を試みたのだが、実際にやってみたら良く判っていなかったことが判明して、古典的なベクトル解析をなぞっただけになってしまった。機会があれば微分形式と時空間で電磁気学を定式化してみたいものである。最新の微分形式を用いれば元々20もあったMaxwellの方程式がたった2つに凝縮されることになる。これもまた数学的な技巧に過ぎないのではあるが。簡単になるし使えるものは使ったほうがよい。 |
webadm | 投稿日時: 2013-12-1 17:04 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
点電荷による電界 既に前の節で出てきてしまったが空間中の1点に電荷が存在する場合の電界を考える。現実世界では無数に電荷が存在するので、それらを重ね合わせの理で表すためのお膳立て。
電界を表すには2つある ・電位ポテンシャル場で表す方法 ・電位ベクトルポテンシャル場で表す方法 後者は前者の一次微分形である。なので前者は0次微分形とも呼ばれる。 前者は座標を与えると電位スカラー値を返す関数として表すことができる。 後者は前者と違って座標を与えると電位の高い方から低い方へ向かう勾配の向きと大きさをもったベクトルを返す関数として表すことができる。 前者はスカラー場、後者はベクトル場である点でまったく異なる。 つまり一言で電界と言った場合に、そのどちらも意味するし、片方かもしれない。前者は後者を積分することによって導くことができる。逆に後者は前者を微分することによって導くことができる。注意しなければいけないのは、その他の2つのベクトル場(div,rot)それとは事情が異なる。それらはポテンシャル場の二次微分形であるが、積分だけでは電界を導くことはできない点に注意。 さて著者はいきなり結論だけ書いているが、どうやって導出したんだか式を見ても判らない。 点電荷Qがあるとき、そこからベクトルrだけ変位した点での電界の強さと電位を考えよう。 点電荷Qからは一様に全方向に電気力線が延びていると仮定する。その場合、ベクトルrだけ離れた点と接する点電荷Qを中心とする半径|r|の円球表面が等電位面となり電位ポテンシャルφrは ということになる。 従って電界Erは ということになる。 著者はベクトルrの大きさを端にrと記述しているので紛らわしい。厳密にはベクトルrの大きさなので、ここではベクトルrの要素を定義して、その大きさも併せて定義した。これによって電界が勾配ベクトルで空間の位置によって向きと大きさが異なるというのがはっきりする。 実際に電位ポテンシャルを微分すると極性が電位と同じになることがわかる。 同様に異なる点電荷Q1,Q2,...Qnがあって、それぞれの変位ベクトルがr1,r2,...rnである点Pでの電位と電界は重ね合わせの理で。 ということになる。 何事も丁寧にやれば見えないところも見えてくる。 P.S 著者は触れていないが、点電荷からの距離は0より大きいことが前提となる。点電荷の中心では電位や電界が不定となるためである。著者はその点"ベクトルr"として端に距離rではないことを強調している。大きさ0のベクトルなんて誰も考えないからだろうか。果たしてそうだろうか? 教科書によってはこの問題を避けるために、点電荷は議論せずに前節で論じたように中空の導体球から始めている。それによって常に電荷が一様に分布した導体球面からの電位と電界を求めることになるので不定になる点が存在せずかつ電位と電界は連続であるという利点がある。これによってオリジナルのFaradayの電気力線のアイデアに対して最大限の敬意を払うとともに辱める心配もない。 今日では電荷の源である単位電荷は電子の持つ電荷であり、電子そのものは原子核の表面に一様に分布しているというと仮定されている。なので点電荷を考えるのは古典的な理論を議論する時だけに限定される。これはFaradayにとっても幸いなことである。 |
webadm | 投稿日時: 2013-12-2 2:10 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
連続的電荷分布による電界 次は電荷が線上、面上、体積内に一様に連続して分布している場合を考える。
線電荷 太さが点電荷と同じ線上の線要素dsあたり一定の電荷が密度λで分布していると仮定する。これは実際には太さが0でない電荷を帯びた電線を十分離れた距離であれば太さが無視できる場合に線電荷と見なすことを可能とする。 線電荷から十分離れた点Pにおける電位φpは線分ds上の電荷λdsからの電位を積分することによって得られ ということになる。 面電荷 厚みが点電荷と同じ面上の面要素dSあたり一定の密度σで電荷分布していると仮定する。これによって実際には厚みが0ではない電荷を帯びた球面や平面、任意の曲面導体も厚みが無視できるような十分離れた距離から見れば面電荷とみなすことが可能となる。 面電荷から十分な距離r離れた点Pにおける電位は面要素ds毎の電荷σからの電位dφを積分することによって ということになる。 体積電荷 閉空間内の体積要素dVあたり一定の密度ρで電荷が分布していると仮定する。これによって電荷を帯びた気体分子などが閉空間内に一定の密度で存在する場合に体積電荷と見なすことができる。 体積電荷から十分な距離r離れた点Pにおける電位は体積要素ds毎の電荷ρからの電位dφを積分することによって ということになる。 点Pでの電界については、点Pでの電位φpから ということになる。 また上記の線電荷、面電荷、体積電荷は点電荷と同様に複数共存した場合、重ね合わせの理が使える P.S 積分の際にはそれぞれの電荷の分布形状に最も適した座標系を選んでその上で積分するのが普通である。そのために各種の座標変換を駆使しなければならないので演習の前に慣れて置くことは必須だ。ものすごい勢いでビタミンが欠乏するのでビタミン剤も欠かせない。結局は大半数学的な視点や技巧を学ぶことになる。これは電気回路理論おもちゃ箱で経験したのと似ている。 |
webadm | 投稿日時: 2013-12-9 13:58 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
電気双極子による電界 次は電気双極子(electric dipole)に関する理論を扱う。
電気双極子とは、極めて近い距離δを隔てて同じ電荷量だが互いに極性の異なる点電荷が置かれているものを指す。 ちょうど2つの点電荷から同じ距離にある点の集合は電位ポテンシャル0の等電位面ということになる。それ以外の空間の任意の点はなんらかしらの電位ポテンシャルを持つことになる。また一方で、電気双極子が電界の中に置かれた場合、2つの点電荷が対で拘束されている場合それぞれの電荷が受ける力は正反対方向であるため回転を始めることになると予想される。 Maxwellの著書には電気双極子という概念は登場しない。代わりに電気影像法というのに同じ様な状況が考察されているが、基本的に異なるものと思われる。 おそらく電気双極子の概念はMaxwell以後に付け加えられたもので、Maxwellが言及した他の概念よりも優先して学習すべきものとして定着したものと思われる。 おそらくそれは19世紀末から始まった物理学上での水素原子モデルおよびその分子モデルの議論と関係が深いと思われるがここではそれには触れない。 さて電気双極子の言葉の定義まではよいね。 しかしそれから先の定式化については著者も含めどの本もまったくといって同じ記述でどっかの手本をなぞっているだけでつまらない。 最初にこの定式化を行ったのが誰かも書かれていない。全然納得できないのである。 独自に検索で調べたところ、どうやら事の原典は19世紀のH.Herzの論文¨fte electrischer Schwingungen, behandelt nach der Maxwell'schen Theorie”にあるらしい。だいたい予想は当たっていたことになる。 Herzは有名な実験によって世界で初めて電気振動を作り出して、電磁波の存在を裏付けたことで知られる。 Herzの論文では極座標系による上の電気双極子が作り出す電界が登場する。 実際の空間は球座標となるが、電気振動を扱う場合には極座標平面で十分であるためである。 Herzの論文の目的は、電気双極子が回転することによって、周囲の電界と磁界が回転に応じて変化し、更にそのまた外界の電界と磁界を変化させる電磁波を生じるということを示すことにあった。その議論は電磁気学の後半に扱う変化する電界と磁界の議論になるのでここでは触れない。 さて由来が判ったところで議論をなぞってみることにしよう。 次に電気双極子モーメント(electric dipole moment)という聞き慣れない物理量が登場する。それは2つの電荷の位置の変位ベクトルδに電荷量qを乗じたベクトル 変位ベクトルδの向きは電荷の低い方から高い方への向きを正とする。 ところで二電荷の中点から距離rだけ離れた点Pの電位は、それぞれの電荷の中心からの距離における電位の重ね合わせだから だめだわかんね(´Д`;) 極座標でそれぞれの点電荷からPへの距離を表すと これを代入すると ここで点Pは2電荷間の距離δに比べて十分遠い距離にあるとすれば|r|>>|δ|が成り立つので以下の近似が成り立つ 同様に各項を二項定理で近似展開すると ということになる。 従ってこれを代入すると点Pの電位は ということで見事に電気双極子モーメントで表されることになる。 最後の式の変形は上の図での以下の関係を用いている これは内積の概念を知っていれば容易に導けるはず。ただし逆は難しいかも。cosθが出てきたらベクトルの内積が存在すると思えばいいのかも。 なんだやればできるじゃないか( ´∀`) 本を見るとどれも=を使って定式化しているので、左辺と右辺は同値であると錯覚してしまうが、数学的な近似というテクニックが隠されていたのだった。隠すのはよくないと思うぞ。この式を鵜呑みにして超厳密な測定装置とか作ったら目もあてられない。 さて点Pの電位ポテンシャルが導くことが出来たら、次はそれの勾配ベクトル場である電界を導くことができる。 極座標形式での一次微分の公式を思い出せない場合には、それを先に導く必要がある。 どうすんだこれ(´Д`;) まずもって電位ポテンシャルが極座標で表されているので、勾配ベクトルも極座標表記ということになる。 (2013/12/14) いろいろ検索してみたが、まったく同一内容の結論をコピーしているものは多数みつかったが、導出方法を提示しているところは見あたらなかった。 どの電磁気学の本も数式を多用しているが、かといって数学書のように厳密に記号の定義が記述されているのは皆無といってよい。暗黙の前提でどの著者も同じ記号を定義を書かずに使用している。それが難解な要因のひとつでもある。もうひとつは導出に必要な数学的なテクニックやその導出過程は紙面を削減するために徹底的に割愛されている。書いてあったとしても結論の一歩手前までである。 そこで各人がひとつひとつ定義をし直して導出を行う必要がある。 どこまで厳密にすべきかは問題だが、とりあえず数式上に現れてくる記号だけは定義しようということにする。 まずは距離ベクトルrを定義する。太文字で書くと暗黙の了解でベクトルという規則に従う。 これは直交座標系での距離ベクトルrの定義である。 極座標では以下の様になる 電位は上記の距離ベクトルrを変数とする実関数である。 pは先に出てきた電気双極子モーメントで ということになる。 qは電気双極子の2つの点電荷がそれぞれもつ電荷量で実数、ベクトルδは2つの点電荷を電荷の低い方から高い方へ結ぶ距離ベクトルである。 ここでやっと電気双極子の2点の電荷の中点を原点とした極座標平面を考え、原点から距離ベクトルrの点Pに関する電位とその勾配ベクトルである電界を導くというのが問題である。 著者はいきなり平面極座標での∇の公式を用いているが、そもそも電磁気学の本で平面極座標を扱う本は少ない。ほとんどの場合が3次元直交座標で済んでしまうので、大抵のベクトル解析も3次元直交座標系だけ扱っている。それ以外の座標系を扱うと電磁気学の公式が美しくなくなってしまうのが第一の理由だが、それ以前に∇などの微分演算子を導出するのが面倒というのがある。それでも場合によっては座標系を変えた方が式が美しくなるというメリットがある。電気双極子の場合はHerzが最初にそうしたというのが理由かもしれない。 手元にある別の参考書で、今も本屋に並んでいる定評のあるドナルド・A・マックォーリーの初歩から学ぶ数学大全[3] ベクトル解析(講談社)に平面極座標の∇の導出方法が丁寧に4ページも割いて解説されていた。4ページというのは異例かもしれない。 それを読むと、一筋縄ではいかず、いくつかの数学的なお膳立てをして、それを用いて導出できるらしい。 最初に曲線座標系という概念を導入する。これは手元の「共立 数学公式改訂増補」の147pにある"3 曲線座標系におけるベクトル"を参考にしている。意外にも幾何学の部にベクトルとテンソルの解説があり、編集年代が古いにもかかわらず極めて少ないページ数で良くまとまっている。共変ベクトルと反変ベクトルの成分の添え字の記法が近代的なEinsteinの方法に従っているのも注目すべくところだ。 これはちょうどどちらも曲線を描く等電位線と電気力線が直交するような座標系が含まれる。直交するので直交曲線座標系と言われる。 曲線座標系では、ちょうど平面極座標のように座標が別の座標の関数として表すことができ,その関数は一価連続関数で必要なだけ繰り返し微分でき、以下の条件を満たす。 平面極座標はこの条件を満足する 行列式の各列は接線ベクトルを表す これを図で表すと ということになる。 er,eθの接ベクトルの内積は であるため、互いに直交していることが判る。 次にer,eθを正規化した基底ベクトルer',eθ'を考えると ということになる。 よく考えれば、座標変換が行われても ・同一点におけるスカラーポテンシャル量は不変 ・同一点における勾配ベクトルの大きさは不変 という事実こ今更気づく。 座標変換で変わるのは ・同一点における勾配ベクトルの向き ということになる。 ということはこの座標変換は点P近傍の正方領域をベクトルの大きさは変わらず向きだけが変わる正方領域への線型写像であると考えることができる。 上の図で以下の関係が成り立つ 従って平面極座標系での勾配ベクトルの成分は ということになる。 電界の強さは勾配ベクトルの大きさであるからして ということになる。 直交曲線座標への変換議論は途中を吹っ飛ばして結論を急いだ感があるが、詳細な検証は読者の課題としよう( ´∀`) どんだけ数学の知識が必要なんだと。 直交曲線座標に関して判りやすかったと思われる参考書をひとつ上げておく 共立出版「詳解物理応用数学演習」後藤憲一、山本邦夫、神吉健 共著 電磁気学の本には書いてない、極座標系でのgrad,div,rotの公式が書いてある。公式だけじゃなく、その導出に必要な基礎数学的な解説もされているところが純粋数学書と違って良いところ。純粋数学書ではChevalleyの名著「Theory of Lie Groups : 1」の後半でCartanの微分形式を構成するところでもっと一般的な強い定式化として同じ議論が出てくる。 おもちゃ箱の一つ加えないといけないかもしれない。 P.S もっと簡潔な電気双極子モーメントの導入方法は沢山あると思われるが、近似に関して言及しない限りいかに少ない語数や式で言明できたとしても初学者には理解不能だと思われる。それらはいずれももっと面倒な導入手続きを経て得られた結果から逆に辿って近道を見いだしただけのことで、所詮もってまわった導出でしかない。 |
webadm | 投稿日時: 2013-12-30 13:35 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
電気二重層による電界 次は前の電気双極子が曲面上にびっしり並んだような電気二重層の議論。
古い電磁気学の本にはこの話題は登場しない。これも近年重要となった蓄電池など分子化学の理論理解に不可欠だから優先的に教えるように加えられたものだと思われる。 電気二重層とは以下の図の様に、非常に薄い(十分遠い距離から見てそうみなせるだけの厚みしかない)板の表面に正電荷、他面に負電荷が電荷分布密度σで分布するとき、この板を電気二重層(electric doublet)という。 これはちょうど無限小の電気双極子が板状にびっしり並んだものと等価であるから、前の電気双極子の理論がそのまま使えそうである。著者は最初から天下り的に点Pにおける電位の式を立体角ωという新しい物理量を使って定式化しているが、ところで立体角というのは何だ? どうやら立体角というのは以下の様に定義されるものらしい 原点Oから距離rだけ離れた点Pに面要素dSがあって、その法線方向がO-Pの接線方向に対してθだけ傾いている場合、 をOからその面要素dSを見込む立体角と定義する。 これを電気双極子の時と同じように距離ベクトルrと面要素の法線方向を向き大きさが面要素に等しい面積ベクトルdSを使って表すと ということになる。 著者は最初の図で電気二重層の厚みにtを用いて、その後で無限小の面要素や立体角ではδを用いるなど紛らわしい点があるので、著者とは異なる表記に改めた。それにどうも立体角で検索しても名だたる技術系企業の解説ページには説明図に基本的な誤りがあり参考にならないことを注意しておく。 読み手にそれぞれ勝手に新用語の定義を想像させて読み進めさせた後に後出しで著者の定義を与えてそれを読者の想像した定義と同一視するように強いるのはよくない書き方だと思うので著者とは記述の順序を変えている。そもそも同じ議論のお膳立てを節に分ける必要があるのかと。 とどのつまり、電気双極子の時にもそうだったように、電気双極子モーメントの中点から見て垂直方向は電界0の等電界面になるので、その方向は立体角も0と、それ以外の方向では電界は0ではなくなり、モーメントの接線方向が最も電界が強くなる。これはダイポールアンテナの指向性特性と一致する。 さて問題の電気二重層面から離れた点Pにおける電位をどうやって求めるかだ。電気双極子の様に無限小の電気双極子がびっしり並んで薄い面を構成していると考えれば、それぞれの無限小の電気双極子が点Pに与える電位の重ね合わせになると思われる。しかし立体角の導入によってその必要はないらしい。 先の立体角は電磁気学に限らず独立に定義される国際単位であるが、どうにもまともな解説が「物理のかぎしっぽ」ぐらいしか見あたらないのが情けない。 著者が次ぎに記述する式も導出方法が怪しい。 これも古い電磁気学の本では数ページ割いて解説されているのだが、いきなり錐面の立体角というのはいただけない。 最初ももっと簡単な円板状に分布した電荷に関して立体角の概念を考察してみよう。 点zから円板上の半径rで幅drの黒い帯を見込む立体角は ということになる。 従って点zから円板全体を見込む立体角は ということになる。 導出の仕方は著者のとは異なるが同じ結果が得られた。 要するに曲面の形はどうであれ境界が同じであれば境界内はどんな曲面でも(穴が空いていては困るが)立体角は同じということになる。 球の中心から半球面を見込んだ立体角は上の結果からα=π/2なのでω=2πとなる。 従って球の中心から球面全体を見込んだ立体角はその2倍の4πということになる。 次に与えられた立体角ωの面が電気二重層だった場合に、電位はどうなるか。 手元にある電磁気学のテキストではどれも上の問いに関して結論だけ示して導出方法を示しているものは皆無である。古いAbraham著の理論電気学の本には同じ意味の議論が延々と数ページに渡って続いているのだが、そこには電界(勾配ベクトル)の結果はあっても電位の関係式は出てこない。 とりあえず独自に前の電気双極子の結果を使って導出してみよう。 上の円盤モデルで、薄い円盤が無限小の電気双極子がびっしり固まってできているとみなして無限小幅drの円環が作る電位ポテンシャルは点zでは ということになる。 これで著者が天下り的に提示している結論が得られた。 ここでτは電気二重層の強度とか、古いAbraham本では単位面積当たりの生成量と書いてある。後者の方がFaradayぽい。泉から電気力線が湧き出す量といった感じ。 Abraham本には電気双極子というのが出てこないが代わりに複泉という同じ電荷量で極性の異なる点泉(点電荷)が2つ隣接して並んでいる場合を扱っている。そこでは電気双極子モーメントは"複泉または双極子の能率"と書かれている。しかし今日天下りに示されるような電気双極子の作る電位ポテンシャルの式はついに最後まで現れない。Coulombの公式でなじみのある分母に4πが現れる式が登場するのは本格的な電磁気学の章に入ってからずっと後になる。昔はこの手の議論もベクトル解析に関する前座の章の前に出てくるので重要な概念であることには代わりないが今日よりだいぶ前座が長く、真打ちが登場するのが遅かったようだ。今日では前座なくていきなり真打ち登場ということになっているだけかもしれない。 さて著者は立体角に関してもうひとつのトピックスを提示している。それは電気二重層の表と裏で電位はどうなるかといったもの。著者は湾曲した電気双極子曲面の表と裏で立体角がそれぞれωと4π-ωとみなせるような表裏一体の2点を示しているが、これは先の円盤状の電気二重層面でも同じである。 電気二重層の表側に十分近い点から表面を見込む立体角は2πに限りなく近い、逆に裏面に十分近い点も立体角が2πに限りなく近くとることができる。この場合、立体角の正負を正の電荷を帯びた側を見込む方(表)を正にとり、負の電荷を帯びた側を見込む方(裏)を負にとるという規則にすると、表と裏の立体角の差は4πということになる。 これによって電気二重層の表側を見込む点では電位は正で、裏を見込む点では電位は負になる。 この議論も古い時代のAbraham本ではもっと念入りな議論によって同じ結論を出しているのが興味深い。実のところ立体角がこの後登場するのは電磁気学では後半に一回限りで、電磁気学と近い関係にある放射を扱うような光学で頻繁に用いられるので最初の講義で出しておかないと残りの講義をさぼる学生がいても平気なように組まれているのかもしれない。昔はベクトル解析を教えるのは電磁気学の前座の講義だったのかもしれない。今日ではどんなんだろう。もはやその記憶にない。 著者はもうひとつ同じ議論の続きで、表と裏の電位の差を結果だけ示して終わっている。 これも自分で導出しないと納得がいかない。 同じ電気二重層曲面を表と裏でそれぞれ立体角ω、-(4π-ω)で見込む2点(P,P')の電位とその差は ということになる。 歴史的には電気二重層の理論はHelmholtzによるものでHertzはHelmholtzの指導の下で電気力学を研究し電磁波の発見を成し遂げた。Helmholtzの電気双極子がHertzの論文に生かされているのはそのためである。学術研究の世界では実質的でも仮想的でも師弟関係は重要である。 |
webadm | 投稿日時: 2014-1-4 18:42 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
多重極子 次も電気双極子を一般化した多重極子の議論
この議論はかなり数学的な視点に満ちている。こういう味方は相当数学的な知識やテクニックを熟知した人でないとできない。それに19世紀の人間には思いつかない方法も使っている。 最初に以前の電気二重層で登場した電気双極子モーメントの問題点を思い出すことにしよう。あの時は突っ込まなかったが実はええかげんなところがある。 Helmholtzの電気双極子の議論の時には負の点電荷-qと正の点電荷qが位置ベクトルlだけ離れて置いて、その中心点を原点とした座標系で原点から距離rの点から見て位置ベクトルlの大きさが十分無視できる場合に限った議論だった。19世紀の頃には数学的にもこれが限界だし十分だった。 おそらく20世紀に入って一般の原子が複数の電子と陽子から構成されるということが判明してからHelmholtzの電気双極子を一般化した多極子の概念が必要になってきたと思われる。 電気双極子の議論で何が重要だったかというと、電気双極子の作り出す電位が上の式の様に電気双極子モーメントというベクトルpを用いて表されるという点である。同時に電気双極子の議論の問題点は多極子に拡張する際に変位ベクトルlが有限の大きさを持つことによって多極子の中心点(重心)が不明瞭になり座標系の原点を据えることができなくなる点である。 そこで20世紀に入って誰か頭の良い人が、この問題を解決したと思われる。それは電気双極子における変位ベクトルlを0に極限移行することで多極子が常に座標系の一点(原点)にあるように扱えるようにするということにした。ただしそうすると今度は双極子モーメントが電荷量qと変位ベクトルlの積だったから双極子モーメントも変わってしまう。これは都合が悪いので双極子モーメント自身の大きさ(ql)を一定に保つために電荷量qを同時に無限大へ極限移行するという逆転の発想である。 つまりモーメントさえ決まれば電位が決まるので電荷量qはどうでも良いということに気づいたのである。 数学的には多極子を一種の超関数(distribution)として座標系の一点に存在し大きさは限りなく0に近くその電荷量は無限大でありながら有限のモーメント値を持つものとして定義することを意味する。 Schwartzの超関数(distribution)は上のDiracのδ関数のように座標の原点で無限大をとるけれども積分するとHeavisideの階段関数H(t)になるようなおよそ普通の関数の範疇には含まれないが、数学的には関数のように扱うことが可能なものである。Schwartzがそれまで曖昧だった超関数の概念を数学的に定式化したことで以降誰でも超関数を大手を振って使えるようになったのである。多極子の議論もその後の話しだと思われる。 もちろん実際の原子とかは陽子に近づけば近づくほどその周りの電子の層とは相当の距離が離れているのだが、実際に他の粒子が衝突するぐらい近づくケースについては当時の物理学の世界では当面考えなくてよかったのでそれで済んだ。つまり原子を点として見なしても実験結果と理論値の乖離が十分小さければよかったのである。当然ながら粒子同士が衝突するとそうした古典物理学理論では説明できない現象が発生するので辻褄が合うように新しく考え直すという方向(素粒子理論)に進んだわけである。 さて多極子の理論を構成する基本的なアイデアは判ったが、今度は技術的(数学的なテクニック)の問題が残る。電荷量はもはやどうでも良いので忘れてしまっても良いが、変位ベクトルは大きさが無限小になったとはいえ向きはそれぞれ独立に持つ必要が依然としてある。 電気双極子の時にはそれが作り出す電位が変位ベクトルlの単位接ベクトルl/|l|と電気双極子の中心から観測点Pへ向けた距離ベクトルの内積で表されていたので、それは依然として無くならない。つまり変位ベクトルの大きさを0に極限移行しても向きは保つことにする。そうすれば電気双極子の結果は多極子に一般化しても保たれることになる。 どこまで都合が良い理論なんだ( ´∀`) 手元にSchwartzの著書の邦訳「超函数の理論」原書第3版 岩室 聡 石垣春男 鈴木 文夫 訳 岩波書店があるが、久々に開いてみたら双極子が最初の頃にちゃんと出てきていた(´Д`;) Schwartzは近代的な位相空間を導入することで超関数を定式化したのね。そういえば位相空間論を知らなくて読み進めることが出来ずにほっておいたのだった。そろそろ読み始めようかな。おもちゃ箱に加える必要があるかもしれない。Schwartzの定式化が気に入らなかった数学者の佐藤幹夫は独自にもっと簡明な定式化として佐藤の超関数(hyperfuncion)を提案した。 Schwartzの超関数の理論の序文を読むと発端はHeavisideの演算子法やDiracのδ関数などの演算子もしくは作用素を用いる計算や、それとは無関係な双極子、二重層などのポテンシャル理論がおよそ数学的厳密性欠くのに実験と辻褄の合う正しい計算結果を与える事実にあったようだ。これは読まずには居られないだろう。後で読む(´Д`;) Schwartzは学生向けにもっと易しい著書で超関数の使い方を解説している。邦訳があって「物理数学の方法」吉田耕作 渡辺二郎 訳 岩波書店で手元にもあり、以前より所々拾い読みしている。しかし超関数のところは読んでなかった、大失敗。後で読む(´Д`;) 訳者後書きによるとGelfandの第一巻も超関数の入門書として名著らしい。 電気双極子の場合をおさらいしてみると ということになる。 つまり以下の様に表すことも出来る ここで∂/∂lは変位ベクトル方向の微分演算子である。 これは2^n多重極子が作り出す電位のn=1の場合のケースということになる。 またn=0の単極子(単電荷)の作り出す電位は以下の様に定義することにする ということになる。 n=0の単極子とn=1の双極子の場合から一般的な2^n多重極子のモーメントとそれが作り出す電位は と定義することが出来る。 さてn=0とn=1については前に得た結論と同じ結果をもたらすことは確かめることができるが、n=2の4重極子(quadrupole)の場合はどんなるだろう。 定義によれば、n=2の4重極子は、n=1のモーメント-pとその逆向きのpを持つ2つの双極子をベクトルl1だけ変位させて置いたものと考えることができる。この場合、双極子の2つの単極子(単電荷)の変位ベクトルl0とl1は必ずしも線型独立である必要はない。見かけ上の点電荷は2^n個存在するように見える。 図で描くと ということになる。 著者の図だと多重極子の定義とは違った解釈に読み取れるのでその点を補足訂正してある。電荷ではなくモーメントに視点を置く必要がある。 定義によって4重極子(quadrupole)のモーメントとそれが作り出す電位は ということになる。 l0とl1が直交座標x,y平面の座標軸にそれぞれ並行な例では ということになる。 直線上にぺしゃんこに潰した(もしくは上の並行四辺形に並んだものを平面に接する方向から眺めた)4重極子に関しては ということになる。 どうやら平面極座標では2^n多重極子の作る電位はn=0,1,2に関して ということになる。Ynは今のところθの関数だということぐらいしか判っていない。一般のnに関してどうなるかを帰納的に調べてみる必要がある。 nが2以下の場合には二次元平面極座標だけ考えればよかったが、nが3以上になるとそうはいかなくなる。円筒もしくは球座標を考える必要が出てくる。 上図の8重極子(octopole)について考えてみる必要がある。 8重極子は八重極子(octupole)とも呼ばれるが、それだとまるで八重極子て誰よ?とか八重極子たん?とか擬人化されかねないので敢えてここでは8重極子と書く。 なんの話しだったっけ、ああ8重極子ね。 図を見ても判るように、定義に従って8重極子は負のモーメントを持つ4重極子と同じ大きさで正のモーメントを持つ4重極子を変位ベクトルl2だけ移動して配置したもので、以下のモーメントを持つことになる。 8重極子モーメントの向きはl2で決まることになる。 つまり双極子は単極子(単電荷)を双極子状に並べたもの。4重極子は双極子2つを双極子状に並べたもの、8重極子は4重極子を双極子状に並べたもの、・・・2^n多重極子は2つの2^(n-1)多重極子を双曲子状に並べたものということで、単極子を除けば例外なく双極子と同じ規則に従うということになる。 2つのお人形さんが少し大きなお人形さんの中に納まってて、そのお人形さんが2体もっと大きなお人形さんの中に納まってて・・・という一つのお人形さんに上下2体のお人形さんが納まっているマトリョーシカお人形みたいなものなのね。 なんだ簡単じゃないか( ´∀`) 8重極子の作り出す電位ポテンシャルはl0,l1,l2が互いにx,y,z軸方向の直交ベクトルであるとすると どうも直交座標系だとよく判らないので以下の極座標系の視点で見てみると ということになる。 従って2^n多重極子の電位の一般式は以下の様に修正される nが増すごとにモーメントは大きくなるものの、電位ポテンシャルは距離rの(n+1)乗に反比例するので極めて近い距離にしか影響を及ぼさない傾向を強めていくことになる。 ここで休憩がてらでmaximaで上の8重極子の電位ポテンシャルをプロットしてみよう plot3d (abs(sin(theta)^2*cos(phi)*sin(phi)*cos(theta)),[theta, 0, %pi],[phi, 0, 2*%pi],[transform_xy,spherical_to_xyz], [grid,100,100]); 見事なアレイ型の8つの腕が見えてくる。 この図は学生時代に化学の講義で黒板に描かれていた記憶がある、アレイ型の腕というのその時初めて聞いた。 平面状の4重極子の場合は plot3d (abs(sin(theta)^2*cos(phi)*sin(phi)), [theta, 0, %pi],[phi, 0, 2*%pi],[transform_xy,spherical_to_xyz],[grid,100,100]); 4つのアレイ状の腕が伸びているのが見える。 同じ様に直線状の4重極子の電位ポテンシャルをプロットしてみると plot3d (abs(2*cos(theta)^2-sin(theta)^2), [theta, 0, %pi],[phi, 0, 2*%pi],[transform_xy, spherical_to_xyz], [grid,100,100]); 双極子の場合は plot3d (abs(cos(theta)), [theta, 0, %pi],[phi, 0, 2*%pi],[transform_xy, spherical_to_xyz],[grid,100,100]); ということになる。 さて休憩はここまでにして、著者は結論だけ示してその導出に関しては演習問題としている。なのでここでは同じ結果だけを記憶するに留め、導出に関しては演習問題で取り組むことにしよう。既にここまで著者の演習問題ネタをばらしてしまったものもあるが、それはそれで良しとしよう。この最後の結論だけはちょっとじっくり考える必要がある。 一般の2^n多重極子の電位ポテンシャルは以下の形になる。 ここでPn^mは陪Legendre関数でanm,bnmは変位の方向によって定まる定数である。 P.S やはり数ある電磁気学のテキストして本書は異例である。通常は分子化学とか物性学で必要とされるこれらの多極子論をいきなり最初の数ページ目で、それもまだ電磁気学の前座の段階で登場させるのは根性の無い学生にとっては過酷な試練となる可能性が高い。最初の4ページ目でこれが登場すると、さすがに電気大好き学生でも尻尾を巻いて退散してしまうかもしれない。それはそれである種の試金石なのかもしれない。と今は思う。幸運にも学生時代は電気専攻ではなかったので、電磁気学を学ぶ機会はなかった。その代わりといえばなんだが、材料力学では反吐がでる程計算問題をさせられた。以前どこかで書いたけど、米国のソニーの研究所で会ったドイツ人の研究者は学生時代のtraumaとして電磁気学の演習を挙げていた、来る日も来る日も"真空中に無限に伸びた線路に..."という下りの問題を目にするたびに反吐が出そうになって鬱になったとか。 計算機やパソコンの無かった時代の人は、電位ポテンシャルの式を見てもどんな分布になるかは想像しようもなかったと思われる。今ではMaximaのようにフリーで使える数式ソフトがあるので、先に詳解したようなグラフが簡単にプロットできる。学生時代もパソコンはまだ登場しなくてミニコンの時代だったから、グラフをプロットするというのはコンピューターでやらせるにはプログラム作ったりプロッターでプロット用紙の巻紙を無駄にしたりと大変コストが高くつくので普通はやらない(できない)相談だった。今では分子化学の本に書いてあるような先の電位ポテンシャルの図が簡単にしかも短時間でプロットできる。良い時代である。それをテコにして理解を早めるしかない。 ここから先の演習問題と著者の解答例を眺めていくだけで、卒倒しそうな内容がいくらでもある。そういうのを突破してやっと認められるのだなと思うしかない。99%は定義と規則なんだけどね。1%の発想を発見するのを楽しみに。 P.S 一次元上の四重極子の電位の式に誤りがあったのを訂正した。nが2以上になると軸対称性でない座標軸が出てくるのだが、三次元空間上にスカラー場をプロットするというのは座標軸が足らないので困ったことになる。同様に電界もある次元になるとプロットするのは座標軸が足らなくなるので我々の目に見える形では困難になる。四次元空間やそれ以上の空間が必要になってくる。これに時間軸が加わると更にやっかいなことになるのは想像に難くない。 |
webadm | 投稿日時: 2014-1-8 0:13 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
多重極展開 前座の第1章の4ページ目で既に挫折しかけている読者いねが?
次も前の多重極子の理論の続きで、やはり物性や分子化学で必須とされる概念である。20世紀の半ばまではこれらの理論は純粋数学者からすると異端として扱われていたが、実験での観測結果とよく一致した計算結果をはじき出すことで常用されていた。これらの数学的な裏付けのない数理物理の理論に数学的な添え木を与えたのが、前にも紹介したSchwartzである。その他にも数少ないが同様の裏付けを最新の数学の成果を用いて与えた人が居るお陰で生き続けている。 なぜだかそう考えると現実と辻褄があうというのは沢山あるということだ。 前に様々な多重極子の電位ポテンシャルの式を導出したが、導体とか分子結晶とかの性質を探る分野では、強い力であるCoulomb力を知ることは重要である。しかもそれが及ぶ範囲が単電荷、双極子、4重極子、8重極子、16極子となるにつれ狭くなることを学んだ。物体から遠いと単電子と区別が付かず、もう少し近寄って調べると偏りがあるのが見えてきて、更に近寄るともっと激しい偏りが見えてくるという具合になる。それによって分子同士が接近遭遇した場合に互いの作り出す電位ポテンシャルによって受ける力が決まってくる。それによって分子そのものが変形したり、回転したりすることになる。これらを考察することは化学反応の仕組みを理解したり解明するのに今日では不可欠である。生物化学では、タンパク質も多数の分子の連鎖からなるので、それらの分子の間に働く分子間力は静電ポテンシャルによって支配される。タンパク質がどのような分子で構成されるかは分析装置で判っても、その構造は判っていないものが多いのはそのためである。そうした分野を志す者にとって電磁気学のこの部分は必修というべきものになる。 ここでも導出方法については著者は演習問題としているので、結果だけを与えることに留める。 多重極展開の定理 電荷分布から離れた点での電位ポテンシャルは以下の様な多重極子による電界の重ね合わせの形で表すことができる。 これを多重極展開という。 また半径aの球内の位置x'に電荷密度ρ(x')が分布しているとき球外の位置rでの電位φ(r)は ということになる。 式だけ眺めてみてもよく判らないので図を描いてみると 最初著者の演習問題にある図を参考にしようと思ったら更に判らなくなって、自分で考えたらこうなった。どうやら著者の演習問題の図は間違っているように思える。無限小の体積要素dv'の点電荷は電荷密度ρと体積要素dv'の積で表されるから、それが作り出す電位は無限小体積要素から点Pまでの距離に反比例することになる。それを全球中の体積要素に関して重ね合わせれば電荷密度ρの球が作り出す点Pにおける電位ということになる。 さあいよいよ最初の章の演習問題に臨もう。 |
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